著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:Animals

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:筋肉の成長を抑える遺伝子の片方だけが働かない豚

ミオスタチン(MSTN遺伝子がつくるたんぱく質)は、骨格筋の成長にブレーキをかける働きを持ちます。牛、羊、マウス、犬、人では、この遺伝子が働かなくなる変異によって筋肉量が増えることが知られています。一方、商業用の豚では、ミオスタチンを完全に欠く個体は脚の弱さや生後の高い死亡率を示すことが報告されてきました。ただし、中国在来種の二花臉豚では、完全欠損でも生存できる例が報告されています。

商業用の豚の多くは、IGF2という成長に関わる遺伝子に、筋肉でのIGF2の働きを高める変異(A型)を持っています。豚のIGF2は父親から受け継いだ側だけが筋肉で働くため、この変異の効果は父親由来の場合にのみ現れます。研究チームは、ミオスタチン遺伝子の2本のうち1本だけが機能を失った「ヘテロ接合」の豚について、枝肉の構成と肉質への影響を調べました。あわせて、その影響が父親由来のIGF2の型(A型かG型か)によって変わるかどうかも検討しました。

調べたこと:44頭の豚の枝肉と肉質を比較

研究チームは、ゲノム編集技術(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)でミオスタチン遺伝子に1塩基の欠失を導入し、機能を失った遺伝子を持つ豚を作出しました。その後の交配で、この遺伝子を受け継いだ集団を維持しました。今回の研究では、ミオスタチン遺伝子が通常の豚とヘテロ接合の豚を、父親由来のIGF2がA型かG型かで分け、合わせて4群・44頭を比較しました。

豚は約175日齢で処理されました。研究チームは、と体重、枝肉歩留まり(生体重に対する枝肉重量の割合)、ロース芯の面積、背脂肪の厚さ、脂肪を除いた赤身の割合の推定値を測定しました。さらに、もも・ロース・肩・ばら(ベリー)などの部分肉の重量、ロース肉の色やpH、ドリップロス(保存中に肉から出る水分の割合)、霜降り、加熱後の硬さも調べました。ばら肉については厚さや脂肪含量に加え、棒にかけたときの両端の距離(短いほど軟らかい)で硬さを評価しました。

主な結果:赤身は増えたが、肉質の一部に変化

ヘテロ接合の豚は、通常の豚と比べて出荷時の体重や枝肉重量に差はありませんでした。一方、枝肉歩留まりは高く、脂肪を除いた赤身の割合は約4ポイント高くなりました。ロース芯の面積も10平方センチメートル以上大きくなっていました。もも肉は重く、整形後のロース肉も枝肉重量に対する割合が高くなった一方、ばら肉の割合は低くなりました。論文は、体を大きくするのではなく、組織の配分が脂肪から赤身へと移ったことを示す結果だとしています。

肉質では、ヘテロ接合の豚のロース肉は色が淡く、赤みが少なく、黄色みが強くなっていました。筋肉内の脂肪含量も約0.75ポイント低くなりました。加熱後の硬さ(せん断力)やロースの締まりの評価には差がありませんでした。ばら肉は2センチメートル以上薄くなり、硬さの指標は約25%低下し、脂肪含量は9ポイント低くなりました。

父親由来のIGF2がA型の豚でも、整形後の部分肉や一部の筋肉の重量が増え、ばら肉は軟らかく脂肪が少なくなりました。ただし、ミオスタチンとIGF2の効果が互いに影響し合う「交互作用」は、ほとんどの項目で認められませんでした。例外の一つがドリップロスで、ミオスタチンがヘテロ接合かつIGF2がA型の組み合わせだけで多くなっていました。研究チームは、この結果が意味のある相互作用なのかは不明だとしています。

研究が示すこと

著者らは、ヘテロ接合の状態でミオスタチンの働きが部分的に弱まった場合、赤身を増やす効果はIGF2の型にかかわらずおおむね同じように加わる、と結論づけています。同時に、赤身の増加には、ロース肉の色が淡くなることや、ばら肉が薄く軟らかくなることが伴っていました。研究チームは、これらの変化がベーコンの加工性や店頭での見た目に関わりうると指摘しています。そのため、赤身の多さを重視するか、ばら肉の品質を重視するかによって、この性質の評価は変わるとしています。

また、商業用の豚ではミオスタチン遺伝子の両方が機能を失うと生存率が低かった一方、片方だけが機能を失った豚は生存できました。著者らはこの結果から、ミオスタチンの働きの中程度の低下は現代の赤身重視の豚とも両立しうると示唆しています。ただし、長年の赤身重視の選抜が筋肉の成長の仕組みにどのような制約を与えてきたのかは、まだ分かっていないと述べています。

原著論文の著者・所属:Elli S. Burris(Department of Animal Sciences, University of Illinois, Urbana, IL 61801, USA)、Lauren T. Honegger(Department of Animal Sciences, University of Illinois, Urbana, IL 61801, USA)、Dustin D. Boler(Department of Animal Sciences, University of Illinois, Urbana, IL 61801, USA)、Jonathan E. Beever(Department of Animal Science, University of Tennessee, Knoxville, TN 37996, USA)、Anna C. Dilger(Department of Animal Sciences, University of Illinois, Urbana, IL 61801, USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Elli S. Burris, Lauren T. Honegger, Dustin D. Boler, et al. Effects of Partial Myostatin Loss of Function on Carcass Yield and Meat Quality in Pigs Differing in IGF2 Genotype. Animals 2026-08-22. DOI: 10.3390/ani16172634. 原著ライセンス:CC BY.