著者の所属・活動拠点の国は、ルーマニアです。
掲載誌:Plants
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:雨を待つ種子と処理効果の「持ち時間」
秋に種をまく冬小麦は、冬が来る前に芽を出して、そろって育ち始めることが大切です。ところが、秋に雨が少ないと、種子は乾いた土の中で何週間も発芽できないまま過ごすことがあります。小麦の種子は乾燥に強く、発芽する力そのものは保たれやすいものの、著者らは「生きていること」と「勢いよく育つ力(活力)」は同じではないと指摘しています。
バイオスティミュラントとは、植物の生理的な働きを助けることを目的とした資材です。著者らは序論で、腐植物質やフルボ物質が吸水初期の種子組織の水分保持に関わること、亜鉛やマンガンが酵素の働きや抗酸化の防御に関わることを説明しています。また、資材を種子に直接付けておくと、根が十分に働く前の発芽時に有効成分が植物のすぐ近くにあるという利点が考えられます。
そこで研究チームは、種子に付けたバイオスティミュラントを単独で、またはトリチコナゾールという殺菌剤と組み合わせて使った場合に、乾いた土にまいてから2〜5週間のうち、どの期間まで発芽や初期の根の発達、芽生えの窒素の蓄積に効果が測定できる形で残るのかを調べました。
どのように調べたか
種子の処理は、無処理、殺菌剤のみ、バイオスティミュラントのみ、殺菌剤とバイオスティミュラントの併用の4通りです。これを、すぐに水を与える条件と、最初の水やりを2週間・3週間・4週間・5週間遅らせる条件の、計5通りの水やり条件と組み合わせました。
実験は2種類です。一つはペトリ皿(実験用の浅い皿)を使った実験室での発芽試験です。もう一つは、泥炭・堆肥・黒土・砂を混ぜた土を詰めた鉢に種をまく試験で、畑に近い条件での出芽と初期の生育を調べました。鉢の土は乾かしてから水分を低く調整し、予定の水やり日まで水を与えませんでした。鉢の試験では、本葉が1〜2枚出た初期の段階まで、根や茎葉の長さ、乾燥重量、窒素の濃度と蓄積量を測っています。
統計的な比較は、同じ水やり条件の中での処理どうしに限って行われました。水やりの時期が異なる条件どうしは直接比較されていません。
主な結果
最終的な発芽率は、どの条件でも94〜97%と高く、処理による有意な差はありませんでした。一方、発芽にかかる平均時間(平均発芽時間)は、バイオスティミュラントを使うと短くなりました。短縮幅は最大でバイオスティミュラント単独で9.4時間、併用で8.7時間でした。水やりを5週間遅らせた条件でも、無処理が58.7時間、殺菌剤のみが57.2時間だったのに対し、バイオスティミュラント単独は49.2時間、併用は50.8時間でした。
芽生えの勢いを表す活力指数も、早めに水を与えた条件では無処理と殺菌剤のみが1379〜1433だったのに対し、バイオスティミュラントを使った処理では2332〜2572と高い値でした。特に併用処理は全期間を通じて高い値を保ち、5週間遅らせた条件でも2399でした。
鉢の試験では、併用処理で草丈が伸び、根の数も増える傾向が見られました。すぐに水を与えた条件で、草丈は併用処理が28.9cm、無処理が22.8cmでした。種子から最初に出る根(種子根)の数は、無処理が1株あたり3.35〜3.50本だったのに対し、併用処理では2週間遅らせた条件で最大5本となりました。茎葉に蓄えられた窒素の量も、水やりを3週間遅らせた条件までは併用処理が1株あたり10.39〜12.67mgと最も多く、無処理は6.30〜7.31mgでした。著者らは、窒素の蓄積量の差は植物体の重さの違いと強く結びついており、組織中の窒素濃度の差だけでは説明できないとしています。
なお、殺菌剤のみの処理では、生育の値が無処理を下回る場面がありました。著者らは、併用処理の値が殺菌剤のみより高かったことから、殺菌剤に伴う生育の低下をバイオスティミュラントが和らげた可能性を示しています。
全体として、バイオスティミュラントに関連する効果は、水やりを2〜3週間遅らせたときに最も強く表れ、4週間程度でもまだ確認できましたが、5週間ではかなり弱まりました。
結果の意味と、著者らが示した注意点
この研究は、種子処理による効果が乾いた土の中で一定の期間は残る一方、乾燥期間が長くなるにつれて弱まることを示しました。ただし著者らは、慎重に解釈するよう繰り返し述べています。発芽時間の数時間の短縮は管理された条件では有意でも、長い乾燥下で出芽までにかかる時間全体から見ればわずかです。また、この結果は水分が戻った後の発芽の反応が速いことを示すものであり、乾燥に強くなったことや収量の向上を示すものではないとしています。
5週間で効果が弱まった理由について、資材の成分そのものの安定性や、乾燥期間の前後での種子の状態は測られていません。そのため、種子の劣化によるのか、処理の働きが弱まったのか、その両方なのかは分かっていません。さらに、水やりの時期が遅い条件ほど気温が低く日も短い時期に育ったため、条件どうしの違いも慎重に見る必要があります。
著者らは、2〜3週間という期間を、この実験条件で最も強い反応が見られた期間と位置づけています。処理の効果に一般的な限界を示すものではないとし、秋まきの推奨につなげるには、さまざまな土や環境の条件での検証が必要だと述べています。
原著論文の著者・所属:Diana Elena Bolohan(Department of Pedotechnics, Faculty of Agriculture, “Ion Ionescu de la Brad” Iasi University of Life Sciences, 3 Mihail Sadoveanu Alley, 700490 Iasi, Romania)、Maria Apostol(Department of Horticultural Technologies, Faculty of Horticulture, “Ion Ionescu de la Brad” Iasi University of Life Sciences, 3 Mihail Sadoveanu Alley, 700490 Iasi, Romania)、Lucian Raus(Department of Pedotechnics, Faculty of Agriculture, “Ion Ionescu de la Brad” Iasi University of Life Sciences, 3 Mihail Sadoveanu Alley, 700490 Iasi, Romania)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Diana Elena Bolohan, Maria Apostol, Lucian Raus. Temporal Persistence of the Biological Effects of a Seed-Applied Biostimulant on Wheat (Triticum aestivum) Germination and Early Growth Under Extended Pre-Germination Soil Drought. Plants 2026-08-22. DOI: 10.3390/plants15172552. 原著ライセンス:CC BY.