日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Fishes

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:冷凍マグロの「ヤケ」を切らずに見分けたい

マグロ業界には「ヤケ」と呼ばれる品質の不具合があります。英語では「burnt(焼けた)」と訳されますが、加熱されたり外から焼けたりしたわけではありません。漁獲後に筋肉の変色や軟化、異臭が生じる異常な状態を指す業界の呼び名で、著者らはこれを「burnt condition(ヤケ状態)」と呼んでいます。ヤケは、多くの魚を一度に獲る巻き網漁で起こりやすく、漁獲時の生理的なストレスが関係すると考えられています。船上での血抜きや神経締め、急速凍結などの対策が取られていますが、完全には防げていません。商品価値が下がるため、流通上の大きな課題とされています。

冷凍マグロの品質は、一般に「尾切り」で判断されます。熟練者が冷凍マグロの尾の部分を切り落とし、解凍した切り口の色などを目で見て評価する方法です。ただし、この方法は経験に大きく左右され、魚体を切る必要があります。特にヤケは外見と内部の状態が必ずしも一致しないため、尾切りでは評価が難しいとされています。

そこで研究チームは、低周波の超音波を当てて返ってくる波の形を調べることで、冷凍キハダマグロのヤケを解凍も切断もせず、客観的に評価できる可能性があるかを探りました。凍った魚は超音波が通りにくいため、組織の奥まで届きやすい500キロヘルツ前後の低い周波数が使われます。

何を調べたか

使われたのは、日本の水産会社から入手した冷凍キハダマグロ4尾です。そのうち2尾は延縄漁で獲られ、同社の尾切りで「鮮度良好」と判定されたものです。残り2尾は巻き網漁で獲られ、「鮮度不良」と判定されたものです。著者らは、この格付けと見た目の評価から、鮮度不良の2尾をヤケ状態と推定されるサンプルとして扱いました。独立した客観的な診断で確かめたものではありません。そのため著者らも、この分類は慎重に解釈すべきであり、標本数が少ないことから本研究は探索的な位置づけだと述べています。

超音波測定では、各サンプルの24か所に3人の検査者が探触子を当て、合計576本の信号を集めました。サンプルが解けないよう、測定は20分以内に終えています。検査者による測定値の差は統計的に認められませんでした。

同じサンプルについて、鮮度の化学的な指標も調べました。ATP関連化合物は、魚が死んだ後に筋肉内のエネルギー物質ATPが段階的に分解されてできる物質群です。K値は、その分解がどこまで進んだかを示す鮮度指標です。さらに、硬さなどの物性と、画像から測った身の色も調べ、これらと超音波の波形を主成分分析でまとめて比較しました。主成分分析は、多くの測定項目の関係を少数の軸に整理して見通しをよくする統計手法です。

主な結果

超音波の波形では、送信後40〜65マイクロ秒の時間帯で、鮮度良好のサンプルとヤケ推定サンプルとの間に、波の大きさ(振幅)と減衰の仕方にはっきりした違いが見られました。鮮度良好のサンプルでは、ピークの後に振幅が急速に小さくなりました。一方、ヤケ推定サンプルでは、減衰がよりゆるやかでした。この違いは、ヤケ推定サンプル2尾の間でも見られました。1尾は振幅が小さく、減衰の仕方が鮮度良好のサンプルに近いものでした。また、両群の差は胴体部より尾部で大きく表れました。著者らは、こうした波形の違いが筋肉たんぱく質の変性や水分分布の変化を反映している可能性を挙げています。ただし、これらの要因は直接測っておらず、推測にとどまるとしています。

化学分析では、ATP関連化合物の総量に群間の差はありませんでした。どのサンプルでも、うま味成分として知られるイノシン酸(IMP)が全体の約7〜9割を占めていました。一方、K値は鮮度良好のサンプルで1.3〜2.4%、ヤケ推定サンプルで9.7〜18.7%と、明確な差がありました。ただし、ヤケ推定サンプルのK値も、生食に適するとされる目安の約20%を下回っていました。このため著者らは、ヤケは腐敗に向かう通常の鮮度低下とは必ずしも一致しないと解釈しています。

物性と色にも差が見られました。ヤケ推定サンプルでは硬さ、凝集性、ガム性が高く、身の赤みと黄色みが低下していました。なお、硬さが増した点や身が暗くなった点は、ヤケを「軟化」や「白っぽい外観」とする従来の記述とは異なります。著者らは、分類が推定によるものであることや、症状の程度・段階による違いが関係している可能性を指摘しています。また、物性や色の指標は、ヤケ推定サンプル2尾の間ではほとんど差がありませんでした。

主成分分析では、サンプルが鮮度良好群とヤケ推定群にほぼ分かれる傾向が見られました。超音波の振幅は、この2群を分ける成分と有意に相関していました。また、ATPの分解に関わる指標と近いまとまりを示しました。

この研究が示すこと

著者らは、超音波の波形には、従来の化学的・物理的な指標だけでは十分に表しきれない内部の品質変化が反映されている可能性があると結論づけています。その変化には、ヤケの有無だけでなく、程度に関わるものも含まれるとしています。少数の標本による探索的な研究ではありますが、冷凍したままのキハダマグロを切らずに評価し、選別する手法の可能性を支持する結果として位置づけられています。

原著論文の著者・所属:Masafumi Yagi(Department of Fisheries, Faculty of Oceanography, Tokai University, 3-20-1 Orido, Shimizu-ku, Shizuoka 424-8610, Japan; Ishida Tec Co., Ltd., 355 Sakamoto, Yaizu-shi, Shizuoka 425-0004, Japan; SONOFAI Inc., 355 Sakamoto, Yaizu-shi, Shizuoka 425-0004, Japan)、Akira Sakai(Artificial Intelligence Laboratory, Fujitsu Research, Fujitsu Limited, 4-1-1 Kamikodanaka, Nakahara-ku, Kawasaki 211-8588, Japan; Institute of Oceanic Research and Development, Tokai University, 3-20-1 Orido, Shimizu-ku, Shizuoka 424-8610, Japan)、Keiichi Goto(Department of Fisheries, Faculty of Oceanography, Tokai University, 3-20-1 Orido, Shimizu-ku, Shizuoka 424-8610, Japan; Institute of Oceanic Research and Development, Tokai University, 3-20-1 Orido, Shimizu-ku, Shizuoka 424-8610, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Masafumi Yagi, Akira Sakai, Keiichi Goto. Non-Destructive Evaluation of the Burnt Condition in Frozen Yellowfin Tuna (Thunnus albacares) Using Low-Frequency Ultrasound. Fishes 2026-07-29. DOI: 10.3390/fishes11080446. 原著ライセンス:CC BY.