著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:Revista Mangút.
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
広がりつつある州のワインツーリズムを記録する
ブラジルのリオデジャネイロ州では、フェイジョアーダやカシャッサなどの食や飲み物が観光客の関心を集めてきました。著者らによると、近年はこれに加えて、かつて州内ではほとんど目立たなかったワイン造りが伸びています。ブドウ畑や醸造所を訪ねて試飲や食事を楽しむ「ワインツーリズム(エノツーリズモ)」も広がりつつあるといいます。
論文は、その背景として州議会で審議中の法案を挙げています。この法案はブドウ、ワイン、ワインツーリズムの産業育成を目的とし、13の自治体で42の事業がさまざまな段階にあると記しています。ほかにも、大学による学術会議の開催や生産者団体の設立が紹介されています。一方で著者らは、州内のワインツーリズムを扱った学術研究はまだ少ないと指摘しています。
こうした状況を踏まえ、著者らは州内の5つのワイナリーを訪問しました。観光客に向けてどのような工夫がされているかを、物語形式で記録することがこの研究の目的です。
訪問者として観察し、記録を分析する
この論文は「経験報告」と呼ばれる形式をとっています。研究者自身の体験をもとに、実践を批判的に振り返る学術的な書き方です。著者らは2024年4月から2026年3月にかけて、テラス・フリアス、ファミリア・エロイ、アロウカ、タッシナリ、リベイロ・カデール&フィーリョスの5つのワイナリーを訪れました。
調査には「参与観察」という方法を用いています。研究者が現場に身を置き、当事者の文脈の中で情報を得るやり方です。訪問中は自分たちの気づきと、案内役のスタッフが語った内容をスマートフォンに書き留めました。その後、記録を表に整理し、各ワイナリーの歴史、栽培品種、もてなしの工夫、将来の計画、試飲や料理との組み合わせ(ペアリング)といった項目にまとめています。
分析には「内容分析」を使いました。案内役の語りに加え、接客の姿勢や作法など言葉以外の要素も読み取り、5つのワイナリーの共通点や強み・弱みを整理しています。
もてなしと「物語」が共通の特徴に
報告によると、5つのワイナリーのワインツーリズムには、農村観光によく見られる「もてなし」の精神が強く表れていました。たとえば、畑の見学時に日傘やつばの広い帽子を用意するワイナリーがありました。暑く日差しの強い気候への配慮です。アロウカでは、歩行が難しい人のために車での移動手段を用意していました。試飲には自家製チーズや、敷地内で育てたイチゴのジャムなど、ワインに合わせた食べ物が添えられていました。
5つすべてに共通していたもう一つの特徴が「ストーリーテリング」です。家族の歴史や事業の理念を物語として語り、訪問者を引きつける手法を指します。いずれも家族経営であることから、著者らはこの点を予想どおりだったと述べています。たとえばリベイロ・カデール&フィーリョスでは、利益の追求にとどまらず、持続可能性や子どもへの事業継承を重んじる物語が語られていました。
各ワイナリーの発展段階はさまざまでした。ファミリア・エロイはトスカーナ風の施設を備えていますが、まだ敷地内でワインを造っていません。併設のピザ店では自社ワインを出しておらず、訪問者が期待外れに感じるおそれがあると著者らは指摘しています。アロウカは自社ワインをまだ販売しておらず、宿泊施設を建設中でした。州内でも特に新しいワイナリーの一つであるリベイロ・カデール&フィーリョスは、最初の収穫を2026年に予定しています。現在は、州外のワイナリーと提携して造ったワインを試飲で提供しています。
著者らはさらに、州のブドウ栽培の特色として「二度剪定」という技術が盛んに紹介されていた点にも触れています。その理由について著者らは、伝統的に暑い気候の州でブドウを育てることへの観光客の好奇心や、こうした栽培を寒い地域と結びつけがちな一般的なイメージがあるためだろうと推測しています。また、多くの生産者がまず生産工程の改善に力を入れ、観光客を呼び込む本格的な取り組みはその後に考えている状況だと述べています。
発展途上の産地の姿を残す記録として
著者らは、観察した現状から見て、州のワインツーリズムは今後さらに広がる可能性があると見込んでいます。ブラジルのほかのワイン産地のように、州の経済発展を後押しする可能性があるとも述べています。ただし州内の学術資料が乏しく、議論の多くは他地域の研究や報道などに頼らざるをえませんでした。この点は著者ら自身が制約として挙げています。
この研究は、まだ記録の少ない産地の姿を、訪問者の目線で書き残したものです。研究者にとっての参考資料となるだけでなく、州のワイン産業に携わる人々にも役立つ材料を提供している点に、その意義があります。
原著論文の著者・所属:Lilian Corrêa Alves(Universidade Federal Rural do Rio de Janeiro (UFRRJ), Seropédica, RJ, Brasil)、Elga Batista da Silva(Universidade Federal Rural do Rio de Janeiro (UFRRJ), Seropédica, RJ, Brasil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lilian Corrêa Alves, Elga Batista da Silva. Enoturismo fluminense: olhares sobre o cenário contemporâneo. Revista Mangút. 2026-10-20. DOI: 10.70051/mangt.v6.e73461. 原著ライセンス:CC BY.