著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

クローン病は、口から肛門までの消化管のどこにでも慢性的な炎症が起こりうる病気で、炎症性腸疾患の代表的なタイプのひとつです。原因はひとつではなく、遺伝的な体質、免疫の乱れ、環境要因、腸内細菌のバランスの変化が複雑に関わると考えられています。著者らは、こうした要因のなかで食事を「本人が変えられる重要な要因」と位置づけています。

治療の中心は薬物療法ですが、食事による取り組みも補助的な方法として注目されるようになっています。一方で、これまでのデータはばらつきが大きく、明確な臨床指針はまだ確立していません。そこで研究チームは、食事パターンや食品添加物がクローン病の発症や経過にどう関わるのかを、腸の炎症、腸の粘膜が外敵を防ぐ「バリア機能」、そして人と腸内細菌の相互作用という観点から整理し、評価することを目指しました。

何を調べたのか

この論文は新たな実験を行ったものではなく、既存の研究をまとめた総説です。著者らはPubMed、Scopus、Web of Scienceという医学・科学文献のデータベースを検索し、臨床試験、観察研究、そして体の中で何が起きているかを探る基礎研究を、テーマとの関連性に基づいて選びました。対象は、クローン病向けの食事療法、超加工食品、乳化剤や人工甘味料、着色料などの食品添加物です。結果は統計的に一つの数値へまとめるのではなく、臨床と実験の知見を文章で統合する形で整理されています。

主な報告内容

食事療法については、いくつかの方法で症状や、場合によっては炎症の指標の改善が報告されていますが、その程度は方法によって異なるとされています。著者らが最も強い根拠があると位置づけたのは「クローン病除外食(CDED)」です。これは加工肉や乳化剤、人工甘味料などを避けた自然な食品と、栄養剤を組み合わせる食事療法です。小児78人を対象とした無作為化比較試験では、6週の時点で臨床的寛解(症状が落ち着いた状態)に達した割合が、CDEDと栄養剤の併用群で75%、栄養剤のみで栄養をとる群で59%と報告されています。成人を対象とした研究も紹介されています。

このほか、成人を対象に特定炭水化物食(SCD)と地中海食を比べた試験では、6週の時点で症状の寛解に至った割合に有意な差は見られなかったと紹介されています(SCD 46.5%、地中海食 43.5%)。著者らは、続けやすさなどから、軽症〜中等症の多くの患者には地中海食が好ましい可能性があるとする研究の見方を取り上げています。また、腸で発酵しやすい糖類を控える低FODMAP食は、腹痛や腹部の張りなどの症状を和らげる効果が示された一方で、炎症の指標への効果は限られているとされ、病気そのものを変える治療ではなく、短期間の症状対策として位置づけられています。

超加工食品(工業的な加工を経て、添加物などを多く含む食品)については、摂取が多いことが発症リスクの上昇や病気の活動性の高さと一貫して関連していると報告されています。たとえば21か国の24万5112人を追跡した研究では、超加工食品の摂取が最も多い人々は、最も少ない人々に比べて炎症性腸疾患を発症するリスクが高かったと紹介されています。また、1日のエネルギー摂取に占める超加工食品の割合が10%増えるごとに、クローン病のリスクが19%高くなるという用量反応関係を示した解析もあります。寛解中の成人111人を12か月追跡した研究では、超加工食品の摂取が多いことが再発リスクの上昇と関連していたと報告されています。ただし、患者が超加工食品を多くとる傾向が発症前からのものなのか、診断後の症状に伴う食行動の変化なのかは分かっていないと著者らは指摘しています。

食品添加物については、乳化剤や人工甘味料などが腸のバリアを損ない、腸内細菌のバランスの乱れを促し、炎症反応を強める可能性が示されつつあるとされています。ただし、その根拠の多くは試験管内の実験や動物実験によるもので、人での証拠はまだ限られていると明記されています。そのうえで、乳化剤の少ない食事をとったクローン病患者で、対照群に比べて臨床的な反応や寛解の割合が高く、腸の炎症を示す便中カルプロテクチンも有意に低下したという多施設試験が紹介されています。また、患者の体から採った試料で測定された乳化剤由来の物質の量が、腸の透過性の高まりや病気の活動性と関連していたという人での研究も挙げられています。着色料については、一部の合成色素が腸内細菌によって分解され、炎症に関わる物質に変わる仕組みが実験で示されたと紹介されています。なお、すべての乳化剤が悪影響を持つわけではなく、レシチンなど一部の天然由来のものは中立的、あるいは好ましい作用を示した例もあり、影響は物質の構造や量、食事全体、腸内細菌の状態によって異なるとされています。

この研究が伝えること

著者らは、食事はクローン病の管理において重要な補助的役割を果たすと結論づけています。超加工食品や害を及ぼす可能性のある食品添加物への曝露を減らし、バランスのとれた食事パターンを取り入れることが、治療の成果の改善につながる可能性があるという見方です。一方で、示されている多くは関連であって、添加物の影響については動物や試験管での知見が中心であることも著者ら自身が強調しています。食事がクローン病にどこまで、どのように関わるのかについて、現時点で分かっていることとまだ分かっていないことを見渡せる総説といえます。

原著論文の著者・所属:Giovanna Flore(Department of Medical Sciences and Public Health, University of Cagliari, 09124 Cagliari, Italy)、Andrea Deledda(Department of Medical Sciences and Public Health, University of Cagliari, 09124 Cagliari, Italy)、Amalia Di Petrillo(Department of Medical Sciences and Public Health, University of Cagliari, 09124 Cagliari, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Giovanna Flore, Andrea Deledda, Amalia Di Petrillo. Diet, Ultra-Processed Foods, and Food Additives in Crohn’s Disease: A Comprehensive Review. Nutrients 2026-08-14. DOI: 10.3390/nu18162652. 原著ライセンス:CC BY.