刺身や塩焼きで親しまれるマダイ(Pagrus major)は、日本だけでなく中国や韓国でも重要な食用魚です。天然物のほうが養殖物よりおいしく栄養価が高いというイメージを持つ消費者は多いとされますが、実際には養殖魚がn-3系多価不飽和脂肪酸などの点で天然魚に劣らない、あるいは上回るという報告もあり、実態は単純ではありません。中国・広西大学の研究グループは、養殖と天然のマダイを複数の成長段階にわたって比較し、栄養成分やうま味に関わるアミノ酸、体色の違いを詳しく調べました。
養殖と天然、それぞれ何匹をどう調べたのか
研究チームは、広西チワン族自治区・北海市の沖合約16海里にある海面いけす(1辺6.5メートル、水深5メートルの網いけす)で育てられたマダイを、生後3か月・6か月・9か月・12か月・15か月の5段階(F1〜F5、各段階100匹)で採取しました。平均体重はF1で7.40グラム、F4で234.82グラム、F5で300.05グラムなどとなっています。一方、天然マダイは正確な年齢を特定する手段がないため、同じ海域内の6つの漁場から体重の異なる合計103匹を集め、養殖群の成長段階に対応するよう6段階(W1〜W6)に体重で区分しました。W1は平均4.90グラム、W6は平均517.37グラムです。各段階からそれぞれ6匹ずつを選び、背側の筋肉(可食部)を用いて、水分・タンパク質・脂質・灰分などの一般成分、18種のアミノ酸組成、脂肪酸組成、そして体色(明るさ・赤み・黄みを数値化するCIELAB色空間による測定)を分析しています。なお採取された個体はいずれも性的に未成熟な段階だったとされています。
研究でわかったこと
もっとも顕著だったのは脂質量の違いです。養殖マダイは成長とともに脂質が急増し、生後3か月では1.20%だったものが、生後12か月のF4群では4.77%まで上昇しました。この結果、体重が重くなるにつれて水分量は逆に減少する傾向が見られています。一方、天然マダイの脂質は0.87〜2.43%の範囲で推移し、養殖群ほどの蓄積は見られませんでした。研究チームは、いけす内での運動量の制限と、高栄養価の配合飼料を継続的に摂取できる環境が、養殖魚の脂肪蓄積を後押ししている可能性を指摘しています。
アミノ酸については、天然・養殖とも必須アミノ酸の割合はFAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が示す基準を満たし、良質なタンパク源であるとされました。特にリシンの含有量は多くの群で基準の1.5倍を超える一方、トリプトファンは相対的に少なく「第一制限アミノ酸」として挙げられています。ただし年齢に伴う変化のパターンは対照的でした。養殖群は生後6か月(F2)で総アミノ酸量・必須アミノ酸量がピークに達した後、生後12か月(F4)にかけて明らかに減少しました。これに対し天然群は、幼魚期を過ぎるとおおむね安定して高い値を維持し、大型個体(W5・W6)では同程度の体格の養殖魚(F5)よりも有意に高い値を示しています。うま味に関わるグルタミン酸・アスパラギン酸(うま味アミノ酸)や、グリシン・アラニンなどの甘み系アミノ酸も、大型の天然マダイ(W6)で養殖群(F5)より高い傾向が確認されました。
脂肪酸組成にも興味深い違いが見られています。養殖マダイは生後3か月の時点でリノール酸(植物油由来に多い脂肪酸)の割合が非常に高く、n-6系とn-3系の脂肪酸の比率(n-6/n-3比)が10.90に達していましたが、生後6か月以降はこの比率が急速に低下し、0.24〜0.49という、栄養面で好ましいとされる低い値で安定しました。これはEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)の割合が養殖群で高い水準(それぞれ10%超、12%超)を保ったためで、いずれも天然群の値(EPA 0.69〜6.43%、DHA 0.89〜11.78%)を上回りました。一方、天然マダイは一価不飽和脂肪酸(MUFA)の割合が大型個体ほど高く、特にC22:1n-9という脂肪酸は天然の大型群(W6)で11.52%まで増加したのに対し、養殖群ではほとんどの段階で0.6%未満にとどまっています。
体色の測定では、天然マダイの体表がより明るく(明度が高く)、尾びれの赤みが顕著であることが確認されました。尾びれの赤み(a値)は天然の大型群(W5・W6)でそれぞれ8.73、7.75に達し、養殖群(0.04〜1.29)を大きく上回っています。黄みについても天然の大型群で高く、研究チームは、天然マダイに特徴的な背部の紺色の斑点なども関係している可能性があるとしています。養殖環境では自然な色素源が乏しく、浅い水深での紫外線の影響もあって、皮膚の色がくすむ・暗くなる傾向があると考察されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、著者ら自身が限界として挙げているように、天然マダイについては年齢を耳石などで正確に特定する手段がなく、体重を基準にして養殖群と対応づけたものです。そのため、特に最も大きな群同士(W6とF5)では体重差が残っており、厳密な同年齢比較にはなっていません。また、養殖群は同一の飼育条件下で育てられたいけす間の差、天然群は採取場所ごとの微小な環境差が、統計モデルには明示的に組み込まれていない点も今後の課題として述べられています。今回の結果は広西チワン族自治区沿岸で行われた一つの調査によるものであり、他の海域や飼育条件でも同様の傾向が見られるとは限りません。
マダイの養殖と天然の質の違いを、成長段階を追って一般成分・アミノ酸・脂肪酸・体色という複数の指標で横断的に比較した点が本研究の特徴です。養殖は脂質の蓄積を高める一方、天然の海洋環境はうま味に関わるアミノ酸の蓄積や見た目の鮮やかさを高める、という異なる方向性が示されました。研究チームは、こうした成長段階ごとの指標が、今後の飼料設計や養殖管理の基礎データになりうるとしています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Zheng Q, Zhao Z, Wang Q, et al. Comparative Analysis of Nutritional Quality, Flavor-Active Amino Acids, and Chromatic Characteristics of Wild and Farmed Red Sea Bream (Pagrus major) Across Growth Stages. フーズ(バーゼル、スイス) (2026). DOI: 10.3390/foods15132393. 原著ライセンス: cc-by.