著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:American Journal of Potato Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
二つのウイルス抵抗性を一つの品種に
ジャガイモの栽培では、ウイルスによる病気が収量や品質を左右します。中でもジャガイモYウイルス(PVY)は、ジャガイモの重要な病原ウイルスです。またタバコ茎えそウイルス(TRV)は、「コーキーリングスポット」と呼ばれるイモの病気の原因になります。
この論文は、米国オレゴン州立大学と米国農務省の育種プログラムが開発した新品種「キャッスル・ラセット(Castle Russet)」について、育成の経過と特性を報告したものです。研究チームは2005年に二つの育種系統を交配しました。一方はPVYへの抵抗性を、もう一方はTRVへの抵抗性を持つ系統で、二つの抵抗性を一つの品種にまとめることが狙いでした。著者らによると、得られた品種は両方の抵抗性を受け継ぎ、栽培上の性質や加工品質も良好でした。皮の表面が網目状にざらつく「ラセット」と呼ばれる性質が強いことも、この品種の特徴です。
長年の試験で調べたこと
この系統は2006年、交配で得た実生の中から、皮の性質と形の良さを基準に選ばれました。その後、いくつもの試験で評価が重ねられました。オレゴン州内での反復収量試験(2009〜2011年)、アイダホ・オレゴン・ワシントンの3州合同試験、カリフォルニアやテキサスなどを含む西部地域の品種試験(2013〜2015年)です。比較の基準には、ラセット・バーバンクなど米国で広く栽培されている品種が使われました。2014年と2015年には全国規模のフライ加工試験にも参加し、2018年に品種として発表されています。
評価項目は多岐にわたります。収量のほか、イモの比重(デンプンなどの固形分の多さの目安)、フライドポテトにしたときの色、貯蔵中の品質変化、イモの傷みや欠陥、病害への反応、成分などを調べました。PVYについては、温室で9つのウイルス分離株を葉にこすりつけて接種し、抗体を用いた検査で感染の有無を確かめました。さらに、この品種の全ゲノム配列を調べ、既往研究でPVYへの極めて強い抵抗性と関連づけられている遺伝子「Ry sto」が含まれているかを確認しています。
主な結果
収穫期まで十分に育てる通常栽培では、出荷規格を満たす大きさのイモ(米国の等級でNo.1)の収量が、多くの場合で標準品種を上回りました。一方、早掘りの試験では総収量が標準品種より少なく、著者らは早掘り用には推奨していません。
加工品質では、比重が標準品種より高く、フライの色も明るく仕上がりました。フライドポテトを高温で揚げると、アクリルアミドという物質ができます。その材料となる還元糖(ブドウ糖など)と遊離アスパラギンは、この品種のイモでは少なめでした。全国フライ加工試験では、貯蔵1か月後と8か月後のどちらでも、比較品種よりフライのアクリルアミド含量が低かったと報告されています。また、低温で貯蔵すると還元糖がたまる「低温糖化」への抵抗性も示しました。ただし、生育中や収穫直後に高温にさらされると、この抵抗性は損なわれるといいます。打撲による黒変にも比較的強く、イモの欠陥は全体として標準品種より少なめでした。その一方で、イモの中心が空洞になる「中心空洞」は起こりやすいとされています。
病害については、温室試験で9つの分離株のいずれにも感染せず、著者らはPVYのすべての系統に対して免疫性を持つと報告しています。ゲノム解析では、野生種ソラヌム・ストロニフェルムに由来するRy sto遺伝子が第12染色体上に見つかりました。塩基配列は既知の配列と99.98%一致していました。ただし、タンパク質のアミノ酸配列で比べると一致は88%にとどまっていました。著者らは、この差が遺伝子の読み取り方の違いなどによる可能性を挙げ、追加の検討が必要だとしています。なお論文が示しているのは、この品種がRy sto遺伝子を保有していることと、PVYに免疫性を示したことです。この免疫性がRy stoによって生じていることを直接確かめた実験は示されていません。このほか、コーキーリングスポットにも抵抗性を示しましたが、疫病には弱いとされています。
課題として著者らが挙げたのは、ジャガイモに天然に含まれるグリコアルカロイドという成分の含量です。この品種では標準品種より多くなりました。ただし平均値は、育種で用いる選抜基準(100グラムあたり20ミリグラム)を下回っていました。6州で2年間栽培した調査でも平均は100グラムあたり11.0ミリグラムで、栽培条件が異なっても極端な上昇は見られなかったと報告されています。また貯蔵試験では、芽が出るまでの休眠期間がラセット・バーバンクより55〜65日短いという結果でした。
研究が示すこと
この報告は、二つのウイルス抵抗性を交配でまとめるという狙いが、一つの品種として形になったことを示しています。複数の州での長期試験では、収量や加工品質で標準品種を上回る結果が多く得られました。品質の評価点は、生食用とフライ加工用の両方に適している可能性を示唆するものでした。同時に、早掘りに向かないこと、疫病に弱いこと、休眠期間が短いことなど、栽培や貯蔵で注意すべき点も示されています。
原著論文の著者・所属:Vidyasagar Sathuvalli(Department of Crop and Soil Science, Oregon State University, Corvallis, OR, 97331, USA; Hermiston Agricultural R&E Center, Oregon State University, Hermiston, OR, 97838, USA)、Charles R. Brown(Temperate Tree Fruit and Vegetable Research Units, USDA-ARS, Prosser, WA, 99350, USA)、Brian A. Charlton(Department of Crop and Soil Science, Oregon State University, Corvallis, OR, 97331, USA; Klamath Basin R&E Center, Oregon State University, Klamath Falls, OR, 97603, USA)、Solomon Yilma(Department of Crop and Soil Science, Oregon State University, Corvallis, OR, 97331, USA)、Clinton C. Shock(Department of Crop and Soil Science, Oregon State University, Corvallis, OR, 97331, USA; Malheur Experiment Station, Oregon State University, Ontario, OR, 97914, USA; Scientific Ecological Services, Ontario, OR, 97914, USA)、Ruijun Qin(Department of Crop and Soil Science, Oregon State University, Corvallis, OR, 97331, USA; Hermiston Agricultural R&E Center, Oregon State University, Hermiston, OR, 97838, USA)、Kelly Vining(Department of Horticulture, Oregon State University, Corvallis, OR, 97331, USA)、Nichole Baley(Klamath Basin R&E Center, Oregon State University, Klamath Falls, OR, 97603, USA)、Erik Feibert(Malheur Experiment Station, Oregon State University, Ontario, OR, 97914, USA)、Rich Quick(Temperate Tree Fruit and Vegetable Research Units, USDA-ARS, Prosser, WA, 99350, USA)、Launa Cimrhakl(Temperate Tree Fruit and Vegetable Research Units, USDA-ARS, Prosser, WA, 99350, USA)、Duroy A. Navarre(Temperate Tree Fruit and Vegetable Research Units, USDA-ARS, Prosser, WA, 99350, USA)、M. Isabel Vales(Department of Horticultural Sciences, Texas A&M University, College Station, TX, 77843, USA)、Rich G. Novy(Small Grains and Potato Germplasm Research, USDA-ARS, Aberdeen, ID, 83210, USA)、Jonathan L. Whitworth(Small Grains and Potato Germplasm Research, USDA-ARS, Aberdeen, ID, 83210, USA)、Jeffrey C. Stark(Aberdeen R&E Center, University of Idaho, Aberdeen, ID, 83210, USA)、Mark J. Pavek(Department of Horticulture, Washington State University, Pullman, WA, 99164, USA)、Jacob M. Blauer(Department of Horticulture, Washington State University, Pullman, WA, 99164, USA)、N. Richard Knowles(Department of Horticulture, Washington State University, Pullman, WA, 99164, USA)、Lisa O. Knowles(Department of Horticulture, Washington State University, Pullman, WA, 99164, USA)、Nora Olsen(Kimberly R&E Center, University of Idaho, Kimberly, ID, 83341, USA)、Sastry Jayanty(Department of Horticulture and Landscape Architecture, Colorado State University, Fort Collins, CO, 80523, USA)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Vidyasagar Sathuvalli, Charles R. Brown, Brian A. Charlton, et al. Castle Russet: A Heavily Russeted Potato Cultivar with Resistance to Potato Virus Y and Corky Ringspot. American Journal of Potato Research 2026-10-15. DOI: 10.1007/s12230-026-10074-6. 原著ライセンス:CC BY.