著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。

掲載誌:Artefactum

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

伝統的な粉づくりの環境面を調べる

キャッサバ(マンジョカ)はブラジルで広く栽培されているイモ類で、その根から作る粉「ファリーニャ」は日常的な食材です。農村部には「カーザ・ジ・ファリーニャ(粉の家)」と呼ばれる小さな作業場があり、家族や地域の人々が昔ながらの方法で粉を作っています。こうした作業場は地域の収入源であり、世代を超えて受け継がれてきた技術を守る場でもあります。

一方で、粉づくりの過程では皮やかすなどの固形の廃棄物が出ます。また、すりおろした根を圧搾すると「マニプエイラ」と呼ばれる搾り汁が出ます。この液体は有機物を多く含み、シアン化合物のもとになる成分も含むため、適切に扱わないと環境汚染につながるおそれがあると指摘されてきました。

研究チームは、ブラジル北東部マラニャン州ティモン市にある2か所の粉の家を対象に調査を行いました。目的は、粉づくりの各工程でどのような環境への影響が生じているかを洗い出し、評価することです。あわせて、影響を減らすために現場で行われている工夫も調べました。

工程ごとに影響を点数化

調査は2025年6月の現地訪問で行われ、研究者が作業の様子を直接観察しました。対象の2か所は、受け入れに同意した2家族の作業場です。研究チームはまず、皮むき、洗浄や発酵、圧搾、ふるい分け、焙煎といった工程を流れ図にまとめました。そのうえで、各工程から何が出ているかをチェックリストで記録しました。工程の中身は作る粉の種類によって異なり、発酵させる「プーバ」と呼ばれる粉や、乾燥タイプの粉が扱われていました。

見つかった影響は、いくつかの観点から点数をつけて評価されました。観点は、影響の強さ、直接的か間接的か、続く期間、元に戻るかどうか、良い影響か悪い影響か、現れるまでの時間、及ぶ範囲です。さらに、これらの点数を組み合わせた式で、影響の「大きさ」と「重要度」を算出しました。悪い影響はマイナスの値になり、マイナスの値が大きいほど優先して対策すべき影響と位置づけられます。

搾り汁の排出と焙煎の煙が最も重大

著者らによると、最も重大な影響は、搾り汁などの排水が出る工程に集中していました。具体的には、洗浄・発酵と圧搾の工程です。排水が地面に直接流されていたため、土壌や地下水を汚染する可能性が指摘されました。プーバを作る作業場の評価では、地下水の汚染の重要度がマイナス25とされています。地面がむき出しの場所では、排水が流れることによる土壌の浸食や景観の変化も起こりうるとされました。なお、排水が流れ込む場所は作物の栽培には使われていませんでした。

もう一つの重大な影響は、薪を燃やして粉を炒る焙煎工程の煙とガスです。プーバの作業場の評価では、汚染ガスの排出の重要度がマイナス34で、表の中で最も大きなマイナス値でした。論文はこの工程を、環境面でも社会面でも特に重要な工程としています。

作業者の健康と安全に関わるリスクも、複数の工程で確認されました。無理な姿勢、繰り返しの動作、焙煎時の熱、機械の騒音などです。保護具がない、または不足している点も挙げられています。

一方で、良い取り組みも見られました。むいた皮は日に干したうえで家畜の飼料として再利用されていました。ふるい分けで出る粗いかすも家畜の飼料に回されており、捨てられる廃棄物の量を減らしていました。

小規模でも管理が必要

2か所の作業場はどちらも小規模で、生産も常に行われているわけではありません。それでも研究チームは、廃棄物や排水の管理がなければ無視できない影響が生じうると結論づけています。とくに優先すべきとされたのは、搾り汁を貯めたり処理したりする対策と、炉や換気の改善による煙の削減です。

なお、今回の評価は現場の観察と点数化にもとづくもので、著者らは排水や受け入れ側の土壌の成分分析などを加えて診断を深めることを勧めています。この研究は、伝統的な粉づくりのどの工程に対策を優先すべきかを整理して示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Jovan Júnior Marques Lara(Instituto Federal de Educação, Ciência e Tecnologia do Piauí (IFPI))、Sabrina Karen Araújo de Sousa(Instituto Federal de Educação, Ciência e Tecnologia do Piauí (IFPI))、Geovana Maria Barbosa de Paiva(Universidade Federal do Piauí (UFPI))、Priscila Wolski Lucas Marques(Universidade Federal de Goiás (UFG))、Cynthia Siqueira Silva(Instituto Federal de Educação, Ciência e Tecnologia do Piauí (IFPI))、Geomárcia Feitosa da Cruz Ramos(Instituto Federal de Educação, Ciência e Tecnologia do Piauí (IFPI))、Melina da Conceição Macedo da Silva(Instituto Federal de Educação, Ciência e Tecnologia do Piauí (IFPI))

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jovan Júnior Marques Lara, Sabrina Karen Araújo de Sousa, Geovana Maria Barbosa de Paiva, et al. ENVIRONMENTAL IMPACTS FROM THE CASSAVA FLOUR PRODUCTION CHAIN IN THE TIMON REGION, MARANHÃO, BRAZIL. Artefactum 2026-10-15. DOI: 10.23900/artefactum.v25i10.4578. 原著ライセンス:CC BY.