麦茶の香ばしい色合いや風味は、原料となるオオムギの品質に左右されます。同じ品種でも育て方によって麦茶にしたときの見た目や仕上がりが変わるとしたら、栽培の現場でどのような工夫ができるのでしょうか。今回紹介する研究は、麦茶用として使われるオオムギ品種「カシマムギ」と「カシマゴール」を対象に、窒素肥料の与え方を変えることで収量や麦茶への加工適性がどう変化するかを調べたものです。

この研究には、農研機構(NARO)の中日本農業研究センターや作物研究部門、九州沖縄農業研究センターに所属する研究者、フローラ株式会社のC&F研究所の研究者、そして農林水産省の関係者が名を連ねています。日本国内の麦茶という身近な飲み物を支える原料生産の研究として行われた点が特徴です。

どのような栽培試験が行われたのか

研究は、水田を畑として利用する「水田転換畑」の圃場で行われました。試験では、基肥(栽培の初期に施す肥料)の量を減らし、その分を茎立期(茎が伸び始める時期)の追肥に回す「生育後期重点窒素施肥」と、穂がそろう時期に窒素肥料を追加で与える「穂ぞろい期窒素追肥」という、二つの異なる施肥のタイミングを組み合わせて栽培試験が行われました。そのうえで、収穫した子実(実った粒)の収量や品質、さらに実際に麦茶に加工したときの仕上がり(麦茶加工適性)が調べられています。

穂ぞろい期の窒素追肥で何がわかったのか

結果として、いずれの施肥法でも収量そのものには有意な差が見られませんでした。一方で、穂ぞろい期に窒素を追肥すると、子実に含まれるタンパク質含有率が高まることが確認されました。そして2023年産のデータでは、この子実タンパク質含有率が高いほど、麦茶に加工した際の粒や粉の色(L*値という明るさの指標)がより濃い褐色寄りになる、つまり麦茶らしい色づきが良くなるという負の関係が統計的に見られました。同じく2023年産では、麦茶粉の色と穀粒の硬さ(穀粒硬度)との間にも同様の関係があり、穀粒が硬いほど色づきが良い傾向が示されています。さらに、穂ぞろい期の窒素追肥は、原料麦の重要な特性である千粒重(粒千個当たりの重さ)を増やす効果もあり、原料麦を安定して供給するうえでも有効と考えられています。

一方、基肥を減らして生育後期に重点的に施肥する方法は、子実タンパク質含有率こそ高めたものの、麦茶加工適性への効果は小さく、年によっては穂が遅れて出る「遅れ穂」の発生を助長するおそれがあることも報告されており、麦茶用オオムギの施肥法としてはあまり望ましくない可能性が示されています。

この研究をどう読むか

今回の結果は、特定の圃場・年次・品種の組み合わせで得られたものであり、栽培条件や気候が異なればどこまで同じ傾向が再現されるかは今後の検証が必要です。実際、色づきと子実タンパク質含有率や穀粒硬度との関係が有意に示されたのは2023年産のデータであり、研究全体としても一つの試験から得られた知見にとどまります。麦茶の色や風味は加工工程や消費者の好みなど他の要因にも左右されるため、この研究だけで麦茶の品質全体が説明できるわけではない点にも注意が必要です。

まとめ

この研究では、麦茶用オオムギ「カシマムギ」「カシマゴール」において、穂ぞろい期に窒素を追肥することで子実タンパク質含有率が高まり、麦茶に加工した際の色づきなど加工適性が向上する可能性が示されました。また千粒重の増加を通じて原料麦の安定供給にも寄与しうると考えられています。一方で基肥を減らして生育後期に重点を置く施肥法は、加工適性への効果が限定的で、遅れ穂のリスクも指摘されており、今後さらに多くの圃場や年次でのデータの積み重ねが期待されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Hiromi MATSUYAMA, Kenji YAMAWAKI, Asuka TAKAHASHI, et al. 水田転換畑における生育後期重点窒素施肥と穂ぞろい期窒素追肥が麦茶用オオムギ品種「カシマムギ」と「カシマゴール」の収量および麦茶加工適性に及ぼす影響. 日本作物学会紀事 (2026). DOI: 10.1626/jcs.95.232.