著者の所属・活動拠点の国は、ポーランド、スペインです。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:香りで熟し具合を見分けられるか
セイヨウサンシュユ(学名コルヌス・マス)は、赤紫色の楕円形の実をつけるミズキ科の植物です。実は熟すと濃い赤色になり、果肉がやわらかく香りも強くなるため、ジャムやジュース、果実酒などには完熟果がよく使われます。論文によると、この果実は熟度の違う段階でも利用され、緑色の未熟果を発酵させたものは「ポーランドのオリーブ」と呼ばれています。
果物の香りは、揮発性成分と呼ばれる空気中に広がりやすい多数の化合物から生まれます。ほかの果物では、熟すにつれてこうした成分の構成が変わることが知られています。しかし著者らによれば、セイヨウサンシュユの実が熟す過程で揮発性成分がどう変化するかは、これまで調べられていませんでした。そこで研究チームは、四つの熟度段階で果実の揮発性成分を調べ、熟し具合を示す目印、つまりバイオマーカーとなる成分を見つけることを目指しました。
何をどう調べたか
研究チームは、ポーランドの植物園で栽培されている品種「ボレストラシツキ」の果実を、2024年に四つの時期に手で収穫しました。7月21日の緑色で硬い未熟果、8月11日の淡いオレンジ色の果実、9月1日の全体が赤くなり果肉がやわらかくなり始めた果実、9月22日の濃い赤色で非常にやわらかく香りが強まった完熟果です。各段階で5本の木から計100個の果実を集めました。
香りの分析には、果実の上の空間にただよう成分を細い繊維に吸着させて集め、ガスクロマトグラフィー質量分析(成分を分離してから一つずつ種類を特定する方法)で調べる手法を用いました。結果は、検出された揮発性成分の全体に占める各成分の割合として示されています。あわせて、熟度を確かめるために酸味の強さを示す滴定酸度や、糖などの溶けている成分の量を表す糖度、果実抽出液の抗酸化能も測定しました。
主な結果:未熟果は「青い」香り、完熟果はアルコール類とエステル類
果実からは、アルデヒド類、アルコール類、エステル類、ケトン類、テルペン類、炭化水素類などを含む計49種類の揮発性成分が見つかり、その割合は熟度によって大きく異なりました。全体ではアルデヒド類とアルコール類が主要な成分でした。
熟すにつれてアルデヒド類の割合は大きく下がりました。特に、草や青葉のような香りに関わるとされるヘキサナールは、緑色の未熟果では全体の約26%を占めていましたが、完熟果では約4.6%まで減りました。一方でアルコール類の割合は増え、エタノールは約0.7%から約11%へ、ブタノールは約0.8%から約9%へと高まりました。ヘキサノールは未熟な二段階では検出されず、赤くなってからの段階で現れました。
果物らしい甘い香りと結びつくとされるエステル類は、熟度による変化が最も大きいグループでした。合計の割合は未熟果の約2.7%から完熟果の約24%へ増え、なかでも酢酸エチルが最も多く含まれていました。また、酢酸イソアミルや酢酸ヘキシルなど4種類のエステルは、赤くなった後の段階でしか検出されませんでした。反対に、テルペン類は未熟果に多く、カウレンやカジネンは初期の二段階でのみ見られました。
こうした結果から著者らは、ヘキサナール、2-ヘキセナール、ペンタノール、1-オクテン-3-オール、カンファー、カウレン、カジネン、ジメチルスルフィドなどが多く、多くのエステル類やアルコール類がないことを未熟果の目印として挙げました。一方、エタノール、ブタノール、ヘキサノールが多く、酢酸エチルを中心とする多くのエステル類や酢酸が増えていることを完熟果の特徴としています。
多くの成分のデータをまとめて比較する統計解析でも、四つの段階はそれぞれ異なる位置に分かれ、熟すことで香り成分の構成全体が大きく変わることが示されました。また、熟度とともに滴定酸度は上がり、抗酸化能と総ポリフェノール量は未熟果で最も高く、熟すにつれて下がったと報告されています。
この研究が示すこと
この研究は、セイヨウサンシュユの実が熟す過程で香り成分がどう入れ替わるのかを初めて詳しく示し、特定の成分の有無や割合が熟度を見分ける手がかりになりうることを報告したものです。
ただし、著者ら自身が述べているように、今回の結果は一つの品種を、一つの場所で、一つの季節に収穫して得たものです。挙げられた成分が品種や産地、年の違いを超えて信頼できる熟度の目印となるかどうかは、まだ確かめられていません。統計解析で熟度との強い関連が見られた一部の成分についても、目印としての有用性はさらなる検証が必要だとされています。
原著論文の著者・所属:Agata Antoniewska-Krzeska(Faculty of Health Sciences, Warsaw University of Life Sciences (WULS-SGGW), Nowoursynowska St. 159c, 02-776 Warsaw, Poland)、Jorge Antonio Custodio-Mendoza(Instituto de Agroecoloxía e Alimentación (IAA)—Food and Health Omics, Facultade de Ciencias, Universidade de Vigo—Campus Auga, As Lagoas s/n, 32004 Ourense, Spain; Instituto de Materiais (iMATUS), University of Santiago de Compostela, 15782 Santiago de Compostela, Spain)、Roksana Szumkowska(Faculty of Health Sciences, Warsaw University of Life Sciences (WULS-SGGW), Nowoursynowska St. 159c, 02-776 Warsaw, Poland)、Jaroslawa Rutkowska(Faculty of Health Sciences, Warsaw University of Life Sciences (WULS-SGGW), Nowoursynowska St. 159c, 02-776 Warsaw, Poland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Agata Antoniewska-Krzeska, Jorge Antonio Custodio-Mendoza, Roksana Szumkowska, et al. Volatile Compound Profile as a Biomarker of the Ripening Stage of Cornelian Cherry Fruits. Molecules 2026-10-02. DOI: 10.3390/molecules31193515. 原著ライセンス:CC BY.