著者の所属・活動拠点の国は、インドです。

掲載誌:Humanities and Social Sciences Communications

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

気候への「気づき」は行動につながっているか

研究チームによると、インドの西ヒマラヤの農業は二重の気候ストレスにさらされています。気温がゆっくり上がり続ける変化に、豪雨(クラウドバースト)のような突発的な極端現象が重なる状態です。農家は伝統的な知恵と新しい技術の両方を頼りにしています。しかし、気候変化への認識が具体的な行動の変化にどうつながるのかについて、災害リスクの高い山間地での実証的な知見は限られていました。

そこで著者らは、ヒマーチャル・プラデーシュ州マンディ地区で調査を行いました。この地区は豪雨、土砂崩れ、鉄砲水などの被害を受けやすい地域です。調べたのは、農家の認識、直面している問題、気候変動への適応策と緩和策です。適応策は変化する気候に合わせて被害を抑える取り組みを指します。緩和策は、温室効果ガスの削減や炭素の蓄積など、気候変動そのものを抑える方向の取り組みです。

農家100人への調査

調査には、18歳以上で農業を主な仕事または副業としている100人が参加しました。標高や営農条件の違いを反映させるため、低地・谷部から35人、中間山地の農業地域から35人、高地・遠隔地から30人を選んでいます。

研究チームは2つの方法を同時に組み合わせました。1つは、選択式の質問で数量的な傾向をとらえる構造化調査です。もう1つは、自由記述の回答を分類・整理する質的分析です。項目ごとに、「賛成・反対」などの回答の割合が、偶然に予想される分布と異なるかを統計的に確かめています。なお、「どちらでもない」という中立回答は、一部の分析の集計から除かれています。

高い認識と、ばらつく実践

過去10〜15年の変化について尋ねると、多くの農家が環境の変化を感じていると答えました。中立回答を除いた回答者のうち、降雨パターンの変化を認めた人は90.5%、作付けパターンの変化を認めた人は80.2%でした。病害虫の増加には98人中97人(99.0%)が同意しています。土壌の質の悪化を認めた人は83.3%、水質の悪化は73%、大気の質の悪化は87.7%でした。

一方、実際の取り組みは手法によって大きく異なりました。乾燥に強い作物や植物を育てていない農家は96%にのぼりました。種まきの時期を変えることへの支持も限られていました。混作とは、複数の作物を同じ畑で育てる方法です。混作を「よく」または「毎回」行う人は、中立回答を除いて43.7%でした。土を耕す回数を減らす最小耕起では、この割合は61.1%でした。灌漑方法に関する回答では、77.4%が従来型の方法に分類されています。

緩和に関わる実践では、農地に樹木を組み合わせるアグロフォレストリーを55%が行っていました。これに対し、土壌を覆うために育てるカバークロップを行う人は20%にとどまりました。化学肥料を頻繁に使う人は、中立回答を除いた回答者の67.7%でした。政府などの支援が気候変動への対処に役立ったと評価した人は22%でした。自由記述では、アグロフォレストリーやカバークロップの妨げとして、3つの点が挙げられました。労力の負担、成果が出るまでの時間、技術的な指導の不足です。

「認識と行動のずれ」が示すもの

農家は気候変動を、降雨の乱れや病害虫、土や水の劣化といった身近な影響を通して実感していました。一方で、適応や緩和に関わる実践の採用は、手法ごとに大きくばらついていました。著者らはこの結果を「認識と行動のずれ」という枠組みで解釈しています。さらに研究チームは「生存優先」という見方を示しています。失敗したときの代償が大きい状況では、慣れた方法やリスクの低い方法が選ばれやすいのかもしれない、という考え方です。

ただし、この調査は一時点での自己申告に基づいています。行動の変化を追跡したものではありません。著者らも、経済的リスク、制度への信頼、資源の制約が個々の判断に与える因果的な影響は確かめられていないと述べています。また、対象は1地区の100人に限られています。そのうえで著者らは、山間地の農家の声をもとに、次のような可能性を示唆しています。気候変動への意識だけでは十分でない可能性があり、信頼できる制度や地域の実情に合った支援も重要になりうる、という点です。

原著論文の著者・所属:Akanksha Singh(Indian Knowledge System and Mental Health Applications Centre, Indian Institute of Technology Mandi, Mandi, India)、Gitanshu Choudhary(Manipal Institute of Liberal Arts Humanities and Social Sciences, Manipal Academy of Higher Education, Manipal, India)、Kala Venkata Uday(Centre for Climate Change and Disaster Management, Indian Institute of Technology Mandi, Mandi, India)、Varun Dutt(School of Computing and Electrical Engineering, Indian Institute of Technology Mandi, Mandi, India)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Akanksha Singh, Gitanshu Choudhary, Kala Venkata Uday, et al. Farmers’ adaptation and mitigation choices under climate change: evidence from a mixed-methods survey in the Western Himalayas. Humanities and Social Sciences Communications 2026-09-19. DOI: 10.1057/s41599-026-08909-y. 原著ライセンス:CC BY.