著者の所属・活動拠点の国は、インド、タイです。
掲載誌:Journal of Parasitic Diseases
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
肺吸虫症は、パラゴニムス属の寄生虫(肺吸虫)によって起こる病気で、食べ物を介して感染する寄生虫症として公衆衛生上の問題とされています。名前のとおり主に肺が侵されますが、腹部や皮膚、脳などに及ぶこともあります。人は、感染力を持つ幼虫(メタセルカリア)を含んだ淡水ガニやザリガニなどを、生や加熱不十分な状態で食べることで感染します。肺吸虫は、巻き貝を第1中間宿主、カニやザリガニを第2中間宿主とし、最終的に人やイヌ科・ネコ科の野生動物などの体内で成虫になります。
インド北東部は肺吸虫症の流行地とされ、これまでこの地域の主な原因種はパラゴニムス・ヘテロトレムスと考えられてきました。ところが近年、マニプール州で、別の種であるウェステルマン肺吸虫(パラゴニムス・ウェステルマニ)による肺の感染例が報告されました。肺吸虫の種類は、幼虫や成虫、卵の見た目だけでは確実に見分けにくく、DNAを使った判定が信頼できる方法とされています。
そこで研究チームは、マニプール州の山間の渓流で採れた淡水ガニからウェステルマン肺吸虫に似た幼虫を取り出し、形の特徴とDNAの両面から種を確かめるとともに、他の地域の肺吸虫との遺伝的な近さを調べました。
調べた方法
研究チームは2020年7月から10月にかけて、マニプール州のチュラチャンドプルとモレーの山間渓流で、2種類の淡水ガニ計300匹を手で採集しました。チュラチャンドプルでは140匹、モレーでは160匹で、それぞれ別の種のカニでした。
カニを細かく刻み、人工的な胃液で一晩消化させたあと、目の大きさが異なるふるいで段階的にこし、残った沈殿物を顕微鏡で観察して幼虫を探しました。見つかった幼虫の一部は形を詳しく調べるために保存し、両地点から4匹ずつ、計8匹をDNA解析に使いました。
DNA解析では、種を見分ける目印としてよく使われる2つの領域、すなわち細胞の中のエネルギー産生に関わるミトコンドリアの遺伝子の一部(cox1)と、リボソームDNAの一部(ITS2)を増やして塩基配列を読み取りました。得られた配列を国際的な遺伝子データベースに登録された配列と照合し、さらに各国の肺吸虫の配列と並べて、遺伝的な類縁関係を枝分かれの図(系統樹)として表しました。
主な結果
300匹のカニから、形の特徴によってウェステルマン肺吸虫に似た幼虫が計45匹見つかりました。内訳はモレーが25匹、チュラチャンドプルが20匹です。モレーのカニからはウェステルマン肺吸虫とヘテロトレムスの両方の幼虫が、チュラチャンドプルのカニからはウェステルマン肺吸虫の幼虫のみが見つかったと報告されています。
幼虫は楕円形の袋(シスト)に包まれ、大きさは平均で約0.50×0.44ミリメートルでした。シストの壁が内外2層で内側が厚いこと、口と腹にある吸盤がほぼ同じ大きさであること、体内に桃色の粒が散らばっていることなど、ウェステルマン肺吸虫の幼虫に特徴的な形が確認されました。
DNA解析では、両地点の幼虫がいずれもウェステルマン肺吸虫と判定され、新たに得られた16本の配列がデータベースに登録されました。系統樹では、cox1でみると今回の配列はインドをはじめアジア各地のウェステルマン肺吸虫と同じグループにまとまりました。ITS2でみると、今回の配列はインド国内で以前に報告された配列と特に近くまとまり、著者らは、インド北東部のアッサム州、アルナーチャル・プラデーシュ州、メガラヤ州で報告されていたタイプと同一だったとしています。
研究が示すこと
著者らは、ウェステルマン肺吸虫がマニプール州の少なくとも2か所に存在し、今回調べた2種類の淡水ガニが自然界でその第2中間宿主になっていると結論づけています。また、インド北東部では遺伝的に同じタイプのウェステルマン肺吸虫が広がっていることがうかがえるとしています。
これまで主な原因種とみなされてきたヘテロトレムスとは別の肺吸虫が、地域の身近なカニに潜んでいることをDNAで裏づけた点に、この研究の意味があります。著者らは、住民に対して淡水ガニを生や加熱不十分なまま食べないよう啓発する必要があると述べています。
原著論文の著者・所属:Tongbram Bhamani Devi(Department of Microbiology, Sikkim Manipal Institute of Medical Sciences, Gangtok, Sikkim, 737102, India)、T. Shantikumar Singh(Department of Microbiology, Sikkim Manipal Institute of Medical Sciences, Gangtok, Sikkim, 737102, India)、Dechen Chomu Tsering(Department of Microbiology, Sikkim Manipal Institute of Medical Sciences, Gangtok, Sikkim, 737102, India)、Kanwar Narain(Indian Council of Medical Research, Dibrugarh, Assam, 786001, India)、Paron Dekumyoy(Department of Helminthology, Mahidol University, Nakhon Patham, Thailand)、Urusa Thaenkham(Department of Helminthology, Mahidol University, Nakhon Patham, Thailand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tongbram Bhamani Devi, T. Shantikumar Singh, Dechen Chomu Tsering, et al. Morphological and molecular characterization of Paragonimus westermani metacercariae isolated from crabs of mountain streams of Manipur, India. Journal of Parasitic Diseases 2026-10-21. DOI: 10.1007/s12639-026-02007-1. 原著ライセンス:CC BY.