この研究は、オーストラリアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:JACC Advances
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
心血管疾患は世界の女性の死因の第1位であり、若い年代での発症をいかに防ぐかが課題となっています。妊娠中に血圧が高くなる「妊娠高血圧症候群(HDP)」は、妊娠中に新たに生じる妊娠高血圧や、子癇前症・子癇を含む状態で、妊婦の数%から10%程度に起こるとされます。著者らは、HDPが心血管疾患のリスクをおよそ2倍にすることが知られている一方、50歳未満で起こる「早発性」の心血管イベントに絞った研究は少ないと指摘しています。
そこで研究チームは、食事・運動・喫煙・授乳といった生活習慣の要因が、HDPと診断された女性の早発性心血管イベントのリスクをどのように左右するのかを検討することを目的としました。
何を、どのように調べたか
用いられたのは、オーストラリア女性健康縦断研究(ALSWH)という大規模な追跡調査です。1996年に全国の女性が無作為に選ばれて参加し、その後3年ごとに繰り返し調査票へ回答してきました。今回の分析では1973年から1978年生まれのコホートのうち出産経験のある女性が対象となり、調査票の回答に加えて、周産期データや病院・救急部門の記録といった行政データが連結されました。
結果として扱われたのは、50歳未満で生じた心血管イベントです。具体的には脳卒中、虚血性心疾患、弁膜症や心筋症、不整脈、深部静脈血栓症を含む血栓性疾患などが含まれています。対象となった女性は分析時点で43〜49歳であったため、観察された心血管イベントはいずれも50歳未満の発症とみなされました。
生活習慣としては、喫煙、飲酒、睡眠、身体活動、授乳期間、BMI、出産回数のほか、食事の質を測る5種類の指標(DASH食、地中海食、超加工食品の割合、オーストラリアの食事指針指数、推奨食品スコア)や、脂質・たんぱく質・食物繊維・糖質などの摂取量が検討されました。これらの項目は調査時期ごとに変化しうるため、時間とともに変わる変数として統計モデルに組み込まれています。
主な報告結果
妊娠経験のある10,368人が平均16.7年にわたって追跡され、そのうち14.4%(1,493人)にHDPの診断がありました。早発性の心血管イベントを経験したのは4.3%(448人)で、その内訳は虚血性心疾患が28.6%、不整脈が23.4%、脳卒中が10.9%などでした。初産の平均年齢は28.8歳で、イベントが起きた女性では初回の出産から平均12.2年後の発症だったと報告されています。
HDPは早発性心血管イベントと関連しており、他の要因を調整した解析でもハザード比1.68(95%信頼区間1.24〜2.28)と、およそ1.7倍の関連が示されました。さらにHDPを複数回経験した女性では、この関連はより強く(ハザード比2.07、95%信頼区間1.21〜3.53)なっていました。ここでのハザード比とは、ある期間にイベントが起こりやすい度合いを比べた数値で、1より大きいほど関連が強いことを示します。
生活習慣に関しては、肥満と飽和脂肪の摂取量が多いことが早発性心血管イベントの多さと関連し、逆に授乳期間が長いこととたんぱく質摂取量が多いことがイベントの少なさと関連していました。授乳のこの関連は、HDPの有無にかかわらず一貫していたと報告されています。一方で、喫煙、推奨食品スコアによる食事の質、グリセミック指数の3つについては、HDPのある女性とない女性とで関連の現れ方が異なりました。たとえば喫煙はHDPのない女性ではリスクの高さと結びついていましたが、HDPのある女性では関連が認められませんでした。
著者らは限界も挙げています。脂質値や家族歴といった従来の心血管リスク要因の情報がないこと、食事や運動などが自己申告に基づくこと、HDPの診断が14%、イベントの発生が4%と少なく交互作用を検出するには検出力が不足している可能性があること、妊娠高血圧と子癇前症・子癇を区別できなかったことなどです。結果は慎重に解釈する必要があると述べられています。
この研究が示すこと
この研究は、妊娠高血圧症候群が50歳未満という早い時期の心血管イベントと関連すること、そして複数回経験した女性でその関連がより強いことを、大規模な長期追跡データから改めて裏づけました。同時に、肥満や飽和脂肪の多い食事、あるいは授乳やたんぱく質摂取といった身近な生活の要素が、若い女性の心血管の健康と結びついている可能性を示しています。
著者らは、妊娠期の血圧の経過が、その後の女性の健康を見通すうえで注目すべき手がかりとなりうること、そして若い女性に対して予防的な生活習慣への配慮が促されるべきであることを結論として述べています。
著者:Simone L. Marschner(Westmead Applied Research Centre, The University of Sydney, Westmead, New South Wales, Australia. Electronic address: [email protected])、Desi Quintans(Westmead Applied Research Centre, The University of Sydney, Westmead, New South Wales, Australia)、Clara Kayei Chow(Westmead Applied Research Centre, The University of Sydney, Westmead, New South Wales, Australia; Department of Cardiology, Westmead Hospital, Westmead, New South Wales, Australia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Simone L. Marschner, Desi Quintans, Clara Kayei Chow. Association Between Hypertensive Disorders of Pregnancy, Lifestyle Factors, and Premature Cardiovascular Events. JACC Advances 2026-08-31. DOI: 10.1016/j.jacadv.2026.103187. 原著ライセンス:CC BY.