著者の所属・活動拠点の国は、シンガポール、オーストラリア、アメリカです。
掲載誌:Reviews in Fish Biology and Fisheries
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
研究チームは、オーストラリア北西部の深い海にすむゴールドバンド・スナッパー(Pristipomoides multidens)について、年ごとの成長の変動がどのような海洋環境や気候の変化と結びついているかを調べました。熱帯のピルバラ地域と、より南にある亜熱帯のガスコイン地域を比べ、成長に関わる環境要因が地域によって異なるかを確かめることが目的でした。
熱帯の魚の成長に関する研究は浅い海の種に偏り、深場の種については知見が限られています。対象種の多くは水深90~120メートルに分布しています。研究チームは、とくにオーストラリア西岸を南へ流れる暖かいルーウィン海流と成長との関係に注目しました。
何を、どのように調べたか
研究チームは、ピルバラの268匹とガスコインの1,180匹、計1,448匹を調べました。年齢は全体で2~28歳でした。魚の内耳にある硬い組織「耳石」には成長に伴う層が積み重なるため、その幅を読み取って過去の成長をたどりました。耳石の大きさと魚体の大きさとの関係も確認し、層の幅を魚の成長の指標として用いました。
解析した成長の層は計10,474本で、十分な標本が得られた期間はピルバラで1985~1998年、ガスコインで1986~2019年でした。年齢による成長の違いや個体差を統計モデルで考慮し、年ごとの成長変動を推定しました。また、2~5歳に当たる成長記録を使い、幼魚期だけの解析も行いました。
比較した環境条件は、水深0~100メートルの水温の平年からのずれ、降水量、沖向きの風が海面に及ぼす力、ルーウィン海流の強さ、エルニーニョ・南方振動などの大規模な気候変動の指標です。成長への遅れた影響も捉えるため、成長した年から最大24か月前までさかのぼり、どの期間の環境条件が成長とよく対応するかを調べました。
主な報告結果
著者らは、成長と最も強く関連する環境要因が、二つの地域で異なったと報告しています。ガスコインではルーウィン海流の強さが最もよく成長を説明し、前年2月から当年12月までの海流が平均的に強いほど、成長が速い関係が見られました。一方、ピルバラでは、この海流との関係はごく小さいものでした。
ピルバラで成長を最もよく説明したのは、当年2~4月の沖向き、すなわち北向きの風が海面に及ぼす力でした。この力が強い年ほど成長が遅く、平均より弱い年ほど成長が速い関係が、全年齢を含む解析と幼魚期だけの解析の両方で見られました。幼魚期については、前年2~4月の降水量が多いほど成長が速いという関係も報告されました。
ガスコインでは、水温が平年より高いことや、エルニーニョ・南方振動がラニーニャ側にあること、太平洋の長期的な気候変動を表す指標が負の状態にあることも、速い成長と関連していました。ただし、これらの指標の説明力はルーウィン海流より小さく、海流の強さとも相関していました。
成長の年ごとの変動そのものも、ガスコインの方が大きくなっていました。同地域では1986~1998年に全体として成長が遅く、2005~2018年には速い傾向が見られました。ピルバラでは変動が比較的小さい一方、1993~1996年に成長が目立って速くなる時期がありました。
この報告が示すこと
研究チームは、同じ深場の魚でも、気候や海洋環境への成長の応答は地域の海流や生態系の条件によって異なると結論づけています。深場の魚では、海の変化が直ちに成長に表れるだけでなく、食物網を通じて時間差で届く可能性もあると解釈しています。この地域差を考慮することが、漁業資源の生産力や持続可能性を評価するうえで重要だとしています。
ただし、ピルバラで風と成長が結びついた仕組みは明確になっていません。著者らは、サイクロンや沿岸の流れが栄養分や餌の供給を変える可能性を挙げていますが、仕組みを確定したわけではありません。また、幼魚期と全年齢の解析では環境との関係が必ずしも一致せず、出生時期に伴う偏りを避けるため、生後1年目の成長は解析していません。本研究は、深場の魚の成長を理解する際にも、地域と成長段階を分けて捉える必要性を示しています。
原著論文の著者・所属:Júlio Guazzelli Gonzalez(Asian School of the Environment, Nanyang Technological University, 50 Nanyang Avenue, Singapore, 639798, Singapore)、Clement Z. W. Ng(Asian School of the Environment, Nanyang Technological University, 50 Nanyang Avenue, Singapore, 639798, Singapore)、Muhammad Faiq Saleh(Asian School of the Environment, Nanyang Technological University, 50 Nanyang Avenue, Singapore, 639798, Singapore)、Corey B. Wakefield(Oceanic Fisheries Programme, The Pacific Community, BP D5, 98848, Noumea, New Caledonia; School of Molecular and Life Science, Curtin University, GPO Box U1987, Perth, WA, 6845, Australia)、Stephen J. Newman(School of Molecular and Life Science, Curtin University, GPO Box U1987, Perth, WA, 6845, Australia; Western Australian Fisheries and Marine Research Laboratories, Department of Primary Industries and Regional Development, Government of Western Australia, 39 Northside Drive, Hillarys, WA, 6025, Australia)、Joyce Jia Lin Ong(Asian School of the Environment, Nanyang Technological University, 50 Nanyang Avenue, Singapore, 639798, Singapore; Rutgers Climate and Energy Institute, Rutgers University, 65 Dudley Road, New Brunswick, NJ, 08901, USA)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Júlio Guazzelli Gonzalez, Clement Z. W. Ng, Muhammad Faiq Saleh, et al. Divergent growth chronologies of a deep-water snapper along a tropical continuum in northwestern Australia. Reviews in Fish Biology and Fisheries(出版社:Springer Science+Business Media) 2026-08-26. DOI: 10.1007/s11160-026-10077-w. 原著ライセンス:CC BY.