著者の所属・活動拠点の国は、チュニジア、スイスです。

掲載誌:European Journal of Sport Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

激しいトレーニングは筋肉に小さな損傷を生じさせ、肝臓への負担や体内の炎症にも影響します。こうした変化は血液中の指標に表れます。筋肉の損傷を示すクレアチンキナーゼ(CK)、肝臓の状態をみるのに使われる酵素ALTとAST、炎症の目安となるC反応性たんぱく(CRP)がその代表です。ただし著者らによると、ASTは骨格筋にも多く含まれるため、運動後の上昇は肝臓だけでなく筋肉の損傷も一部反映している可能性があります。

乳清由来のホエイプロテインは吸収が速く、筋肉の合成を促すアミノ酸のロイシンを多く含みます。これまでの研究は種目の違いを区別しないものが多く、効果についての報告も一致していませんでした。そこで研究チームは、持久系とパワー系という性質の異なる選手を比べました。8週間のホエイプロテイン摂取がこれらの指標にどう影響するかを調べています。研究チームは、摂取によって筋肉や肝臓へのストレスが減り、その効果はパワー系選手でより大きいという仮説を立てていました。

どのように調べたか

対象は、18〜26歳の男性陸上競技選手59人です。全員が国内または国際レベルの大会に出場していました。内訳は、中・長距離の持久系選手29人と、投てき・跳躍・短距離などのパワー系選手30人です。選手は全員が国立のトレーニングセンターに滞在し、食事、住環境、練習条件をそろえて生活しました。

試験は、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験として行われました。選手を無作為に二つの群に分け、選手もデータを集める研究者も、誰がどちらの群かを知らない状態で進める方法です。種目ごとに、ホエイ群とプラセボ群がおよそ2対1になるよう割り当てられました。ホエイ群は練習後30分以内に30グラムのホエイプロテインを毎日摂取しました。プラセボ群は、見た目と味をそろえ、カロリーも同じにした炭水化物主体の粉末を摂取しました。

血液は介入の前後に、一晩絶食した状態で採取しました。介入後の採血は、最後の練習から72時間以上空けて行っています。直前の練習による一時的な数値の上昇を避け、8週間の摂取の影響をみるためです。

主な結果

ALTは、両種目のホエイ群で有意に低下しました。パワー系では17.5 U/Lから15.2 U/L、持久系では17.6 U/Lから15.4 U/Lです。プラセボ群では、パワー系に有意な変化はありませんでした。一方、持久系では18.1 U/Lから22.2 U/Lへ上昇しました。ALTは、摂取の効果が種目によって異なることが統計的に確かめられた唯一の指標でした。

ASTも両種目のホエイ群で有意に低下し、持久系のプラセボ群では上昇しました。ASTについては、種目をまとめた全体でもサプリメントの効果が統計的に有意でした。ただし著者らは、ASTの低下とCKの低下が並行していた点に注目しています。そのため、肝臓酵素の低下の少なくとも一部は、肝臓を直接守った結果というより、筋肉の損傷が抑えられたことの表れである可能性を指摘しています。

筋肉の損傷の指標であるCKは、両種目のホエイ群で低下しました。パワー系では409 U/Lから362 U/L、持久系では390 U/Lから335 U/Lです。プラセボ群では有意な変化はありませんでした。ただし、全体を対象にした統計解析ではサプリメントの効果は有意に達しておらず、低下はホエイ群それぞれの前後比較で確認されたものです。

炎症の指標であるCRPの変化は、全体として小さいものでした。パワー系のホエイ群でのみ、前後比較で有意な低下がみられました。著者らはこれを、より大きな規模の研究で確かめるべき控えめな傾向と位置づけています。

この研究が示すこと

著者らは、8週間のホエイプロテイン摂取によって両種目でALTとASTが低下したと報告しています。あわせて、CKはホエイ群それぞれで低下しました。この結果は、ホエイプロテインが回復を助ける栄養手段となりうることを支持するとしています。一方で、種目による違いが統計的に確認されたのはALTだけで、パワー系により大きな効果があるという仮説が裏づけられたのもALTに限られました。

著者らは研究の限界もあげています。普段の食事でとっているたんぱく質の量を測っていないため、もともとたんぱく質が不足していた選手で不足が補われただけの可能性を否定できません。また、炭水化物のプラセボ自体が筋たんぱく質の分解に影響した可能性もあります。さらに、対象は男性のみで、パワー系には体格や競技特性の異なる種目の選手が混在していました。今回の結果は、栄養による回復支援の効果が種目や指標によって一様でないことを示すものであり、その解釈には慎重さが求められます。

原著論文の著者・所属:Mouna Ben Mhamed(Biology, Medicine, and Health Faculty of Medicine of Sousse Research Laboratory (LR19ES09) Exercise Physiology and Pathophysiology: From Integrated to Molecular University of Sousse Sousse Tunisia; Higher Institute of Sport and Physical Education of Kef University of Jandouba Kef Tunisia)、Mounir Landolsi(Biology, Medicine, and Health Faculty of Medicine of Sousse Research Laboratory (LR19ES09) Exercise Physiology and Pathophysiology: From Integrated to Molecular University of Sousse Sousse Tunisia)、Mehdi M'rad(Laboratory of Clinical Biochemistry and Hormonology Pasteur Institute of Tunis University of Tunis‐El Manar Tunis Tunisia)、Afef Bahlous(Laboratory of Clinical Biochemistry and Hormonology Pasteur Institute of Tunis University of Tunis‐El Manar Tunis Tunisia)、Faysal Zarrouk(Higher Institute of Sport and Physical Education of Kssar Saïd University of Manouba Tunis Tunisia)、Hejer Trabelsi(Laboratory of Clinical Biochemistry and Hormonology Pasteur Institute of Tunis University of Tunis‐El Manar Tunis Tunisia)、Katja Weiss(Institute of Primary Care University of Zurich and University Hospital of Zurich Zurich Switzerland)、Thomas Rosemann(Institute of Primary Care University of Zurich and University Hospital of Zurich Zurich Switzerland)、Ezdine Bouhlel(Biology, Medicine, and Health Faculty of Medicine of Sousse Research Laboratory (LR19ES09) Exercise Physiology and Pathophysiology: From Integrated to Molecular University of Sousse Sousse Tunisia; Higher Institute of Sport and Physical Education of Kssar Saïd University of Manouba Tunis Tunisia)、Beat Knechtle(Institute of Primary Care University of Zurich and University Hospital of Zurich Zurich Switzerland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mouna Ben Mhamed, Mounir Landolsi, Mehdi M'rad, et al. Effects of Whey Protein Supplementation on Muscle Damage, Hepatic Stress, and Inflammatory Markers in Power‐ and Endurance‐Trained Athletes. European Journal of Sport Science 2026-10-26. DOI: 10.1002/ejsc.70279. 原著ライセンス:CC BY.