著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

不安や抑うつの症状が重なり、日常生活や心身の健やかさを損なう状態は「心理的苦痛」と呼ばれます。炭酸飲料の摂取が若者の心の健康の悪化と関連することは、これまでの疫学研究で繰り返し報告されてきました。一方、成人を対象とした研究は少なく、時間を追って調べた前向き研究はほとんどありません。

この研究で著者が注目したのは、脳由来神経栄養因子(BDNF)というたんぱく質です。BDNFは神経の働きを調節する役割を持ち、ストレスに関連するさまざまな心の不調に関わると考えられています。BDNF遺伝子には「Val66Met」と呼ばれる個人差があり、Met型(Met対立遺伝子)を持つ人ではBDNFの分泌が低下することが知られています。

そこで著者は、炭酸飲料、コーヒー、緑茶の摂取と心理的苦痛との関連を、ある一時点の状態をみる横断的な解析と、6年間の経過を追う前向きの解析の両方で調べました。あわせて、その関連がBDNF遺伝子の型によって異なるかどうかも検討しました。

調べた方法

データは、韓国ゲノム疫学研究に含まれる安山(アンサン)と安城(アンソン)の地域住民コホートから得られました。対象は43〜74歳の成人です。横断的な解析には6244人、6年間の前向き解析には安山コホートの1984人が含まれました。前向き解析では、開始時点ですでに心理的苦痛があった人を除いています。

心理的苦痛は、最近数週間の不安、気分の落ち込み、睡眠、疲労感、生活への満足度などを尋ねる18項目の質問票で評価しました。合計点は0〜54点で、27点以上を「心理的苦痛あり」と定義しています。飲料の摂取量は過去1年間の食事頻度を尋ねる質問票で把握しました。炭酸飲料は200mLを1杯として、「飲まない」「週1杯未満」「週1杯以上」に分けました。

遺伝子の型は血液から得たDNAで判定しました。Met型を1つ以上持つ人(CT型・TT型)と、持たない人(CC型)の2群に分けて比較しています。解析では、年齢、性別、収入、学歴、喫煙、飲酒、運動、体格、エネルギー摂取量、慢性疾患など、結果に影響しうる要因を統計的に調整しました。

主な結果

6年間の前向き解析では、参加者全体でみると、炭酸飲料の摂取と心理的苦痛の新たな発生との間に統計的に明確な関連はみられませんでした。ところが、Met型を持つ人に限ると、炭酸飲料を多く飲むほど心理的苦痛を発生しやすい傾向が認められました。週1杯以上飲む人は、飲まない人と比べて心理的苦痛の発生リスクが約1.94倍でした。一方、Met型を持たない人ではこうした関連はみられず、炭酸飲料の摂取と遺伝子の型の間には統計的に有意な相互作用が確認されました。

コーヒーと緑茶については、参加者全体でも遺伝子の型別でも、6年間の心理的苦痛の発生との関連はみられませんでした。

横断的な解析では、緑茶を多く飲む人ほど心理的苦痛を抱える人の割合が低いという関連が、参加者全体で認められました。この傾向は特にMet型を持つ人で明確でした。ただし前向き解析ではこの関連は確認されませんでした。著者はその理由として、新たな発生例が少なく統計的な検出力が限られていた可能性や、心理的苦痛を抱える人がストレスを和らげようとして緑茶を多く飲むようになった「逆の因果関係」の可能性を挙げています。

この研究が示すこと

著者は、炭酸飲料の摂取が、BDNF遺伝子のMet型を持つ人において心理的苦痛のリスク上昇と関連していたと結論づけています。週1杯以上という、先行研究に比べて少ない摂取量でも関連がみられた点にも触れ、特定の遺伝的要因を持つ人にとって炭酸飲料の摂取が特に有害である可能性を示唆しています。

関連が生じる仕組みとして、論文では一つの考え方が示されています。糖を含む炭酸飲料がストレスホルモンの分泌を高めてBDNFの産生を減らし、もともとBDNFの分泌が低下しやすいMet型の人ではその影響を受けやすい、というものです。ただし著者自身、この仕組みはまだ仮説の段階だとしています。また、この研究は観察研究であり、示されたのは関連であって因果関係そのものではありません。

飲み物と心の状態の関係は誰にでも一様ではなく、遺伝的な個人差によって異なりうる。本研究は、そうした視点の重要性を示した報告といえます。

原著論文の著者・所属:Inkyung Baik(Department of Biopharmaceutical Chemistry, College of Science and Technology, Kookmin University, Seoul 02707, Republic of Korea; Department of Pharmaceutical Engineering, College of Science and Technology, Kookmin University, Seoul 02707, Republic of Korea)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Inkyung Baik. Cross-Sectional and Prospective Associations of Carbonated Soft Drink Consumption, BDNF Val66Met Polymorphism, and Psychological Distress. Nutrients 2026-08-07. DOI: 10.3390/nu18162587. 原著ライセンス:CC BY.