著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Agronomy

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

でんぷんの中には、人の小腸で消化されにくく、食物繊維に似た働きをする「難消化性でんぷん(レジスタントスターチ、RS)」があります。血糖値の管理などへの影響が期待され、関心を集めている成分です。ただし、米でRSを増やそうとするとアミロース(でんぷんを構成する直鎖状の成分)が多くなりがちで、炊いたご飯の食感や食味が損なわれやすいという課題があります。

RSにはいくつかの種類があります。炊いたご飯に多いとされるのは、アミロースのらせん構造が脂質を包み込んでできる複合体「RS5」です。一方、炊いたでんぷんを冷やしておくとアミロースが再び結晶のように並び、「RS3」ができます。研究チームは、RS5の形成にはでんぷんだけでなく脂質も関わる点に注目しました。でんぷん合成に関わる遺伝子と脂質合成に関わる遺伝子をあわせて調べることで、炊いた米と冷やした米のRS量を左右する遺伝的なしくみを明らかにしようとしました。

何をどのように調べたか

研究チームは、遺伝的に多様な101品種・系統のイネを使いました。見かけのアミロース含量(AAC)が20%以上の高アミロース群66系統と、20%未満の低アミロース群35系統に分けて解析しています。

RSの量は、精米を粉にして水と加熱した試料で測りました。加熱直後の試料で測った値を「炊いた米のRS(RSc)」とし、主にRS5にあたるとみなしています。加熱した試料を4℃で7日間保存した後の値は「冷やした米のRS(RSr)」で、RS5とRS3の合計にあたるとされます。両者の差は、冷やしている間にできたRS3の目安として扱われました。

遺伝子については、過去の報告をもとに、でんぷん合成に関わるWx(アミロース合成の中心となる遺伝子)やでんぷん合成酵素の遺伝子群と、脂質合成に関わるPAL6など、計23か所の目印(分子マーカー)で各系統の型を調べました。品種どうしの血縁関係や集団構造による見かけ上の関連を除く統計手法を用い、どの遺伝子の型がRS量と結びついているかを解析しています。あわせて、粗脂肪含量や、ゲル稠度(炊いた米の軟らかさに関わる指標)、糊化したでんぷんの粘り(粘度特性)などの食味・炊飯特性との関係も調べました。さらに一部の系統では、溶媒で脂質を取り除く「脱脂」処理の前後でRS量を比較しました。

主な結果

アミロース含量が20%を超える系統では、7日間冷やした後のRSrが炊いた直後のRScより25.61%多くなっていました。低アミロース群では、RSの種類による明確な差はみられませんでした。また、RSの量はアミロース含量と正の相関を示した一方で、粗脂肪含量とは負の相関を示しました。脂質はRS5の材料になるはずなのに、脂質が多いほどRSが少ないという、一見意外な関係です。

遺伝子の解析では、炊いた米と冷やした米のRS量に最も強く関連していたのはWxで、次いでPAL6とSSIVbでした。冷やしている間に増えた分(RS3の目安)には、主にSSIIaが関連していました。WxとPAL6の組み合わせのように、遺伝子どうしの統計的な相互作用も検出されています。型別にみると、Wxの「Wxa」型や「Wx-T」型、PAL6の「PAL6-2」型(遺伝子の上流側に62塩基の挿入をもつ型)の系統で、RSが多い傾向がありました。たとえばWxa型の平均値は、RScが0.80%、RSrが1.03%でした。

WxとPAL6はどちらもイネの第6染色体にあるため、研究チームは両者の型の組み合わせ(ハプロタイプ)で系統を6つに分けました。そのうちHap1(Wxa–Wx-T–PAL6-1)、Hap2(Wxa–Wx-T–PAL6-2)、Hap4(Wxa–Wx-C–PAL6-2)でRSが多くなっていました。炊いた米のRSは、Hap1が平均0.91%、Hap4が0.95%でした。これに対し、Hap3は0.30%、Hap5は0.16%、Hap6は0.13%にとどまりました。研究チームは、Wxの効果が強いため、Wxa型の系統ではPAL6の寄与が見えにくくなっている可能性があると述べています。

食味に関わる性質では、Hap1はアミロースとRSが多いにもかかわらず、ゲル稠度が比較的高いという特徴がありました。Hap4はアミロースが多い一方で、加熱後の粘度がHap1やHap2より低くなっていました。著者らは、この2つがRSの多さと品質面の特長を併せもつ組み合わせになりうるとしています。

脱脂処理の実験では、各ハプロタイプから2系統ずつ、計12系統を調べました。論文によると、脱脂後には炊いた米のRSが増え、RSの多いHap1・Hap2・Hap4では冷やした米のRSも大きく増えました。ただし著者らは、脱脂の工程には溶媒処理や乾燥なども含まれ、でんぷんの性質が変わった可能性もあるとしています。そのため、RSの増加をすべて脂質の除去によるものとは言えないと注意を添えています。そのうえで、RS5の形成がRS3の蓄積を抑えている可能性があり、脱脂によってその抑制が和らぐのではないかという仮説を提示しています。

研究が示すこと

この研究は、米の難消化性でんぷんの量が、アミロース合成に関わるWxだけでなく、脂質合成に関わるPAL6などとの組み合わせとも関連していることを示しました。示されたのは遺伝子の型とRS量との統計的な関連で、脂質の役割については仮説の段階にとどまります。それでも著者らは、今回の結果が、炊いた米や冷やした米でRSが多く、食味にも配慮した品種を設計するための理論的な枠組みと、有望な遺伝子型の候補を示すものだとしています。

原著論文の著者・所属:Hongjie Yu(Rice Research Institute, Southwest University of Science and Technology, 59 Qinglong Road, Mianyang 621010, China; Sichuan Taiwo Seed Industry Co., Ltd., Mianyang 621799, China)、Qian Wang(Rice Research Institute, Southwest University of Science and Technology, 59 Qinglong Road, Mianyang 621010, China; Sichuan Taiwo Seed Industry Co., Ltd., Mianyang 621799, China)、Xiangjun Xiang(Rice Research Institute, Southwest University of Science and Technology, 59 Qinglong Road, Mianyang 621010, China; Sichuan Taiwo Seed Industry Co., Ltd., Mianyang 621799, China)、Yu He(Rice Research Institute, Southwest University of Science and Technology, 59 Qinglong Road, Mianyang 621010, China; Sichuan Taiwo Seed Industry Co., Ltd., Mianyang 621799, China)、Xu Zhang(Agricultural Technology Promotion Center, Wutongqiao District, Leshan 614008, China; Rice Research Institute, Southwest University of Science and Technology, 59 Qinglong Road, Mianyang 621010, China)、Guotao Yang(Rice Research Institute, Southwest University of Science and Technology, 59 Qinglong Road, Mianyang 621010, China; Sichuan Taiwo Seed Industry Co., Ltd., Mianyang 621799, China)、Liang Xu(Rice Research Institute, Southwest University of Science and Technology, 59 Qinglong Road, Mianyang 621010, China; State Key Laboratory of Crop Gene Resources and Breeding, Institute of Crop Science, Chinese Academy of Agricultural Sciences, Beijing 100081, China)、Yungao Hu(Rice Research Institute, Southwest University of Science and Technology, 59 Qinglong Road, Mianyang 621010, China; Sichuan Taiwo Seed Industry Co., Ltd., Mianyang 621799, China)、Cheng Liang(Rice Research Institute, Southwest University of Science and Technology, 59 Qinglong Road, Mianyang 621010, China; Sichuan Taiwo Seed Industry Co., Ltd., Mianyang 621799, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hongjie Yu, Qian Wang, Xiangjun Xiang, et al. A Genetic Framework for Enhancing Resistant Starch in Cooked and Retrograded Rice via Combined Effect of Amylose and Lipid Biosynthesis. Agronomy 2026-10-04. DOI: 10.3390/agronomy16191932. 原著ライセンス:CC BY.