この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Microbiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
マイクロプラスチックとナノプラスチックは、食品や飲料を通じて日常的に体内へ入り込む汚染物質として広く存在しています。しかし、研究チームによれば、消化管がこれらにさらされる量を実際に減らすための現実的な手立てはまだ限られています。
そこで著者らは、Qi601と名付けられた素材に注目しました。これは乳酸菌の一種であるLimosilactobacillus fermentumがバイオフィルム(菌が集まって作る膜状の構造)として育ったものを加熱して不活化した「ポストバイオティクス」です。ポストバイオティクスとは、生きた菌ではなく、加熱などで活性を失わせた菌体やその産物を利用する素材を指します。研究の狙いは、このQi601がプラスチック粒子を捕らえて(隔離して)、腸の細胞との接触を減らせるかを確かめることでした。
どのように調べたか
研究チームは、蛍光で光る直径100ナノメートルのポリスチレン製ナノプラスチック粒子を用意し、これを追跡できるようにしました。そしてヒト由来の腸の細胞(Caco-2細胞)を平らに敷き詰めた単層を使い、消化の過程を段階的に模した試験のほか、あらかじめQi601を加えておく防御の試験、すでに粒子にさらされた細胞にあとからQi601を加える試験、そしてQi601と粒子の塊から細胞へ粒子が移るかどうかを見る試験を行いました。
粒子とQi601の位置関係は、原子間力顕微鏡・走査型電子顕微鏡・共焦点顕微鏡で観察しています。さらに、ヒトでの定性的な概念実証として、チューインガムを噛む実験を実施し、唾液を顕微鏡で観察するとともに、レーザー赤外分光による化学イメージング(LDIR)で粒子の種類と個数を調べました。
主な報告結果
著者らの報告では、段階的な模擬消化の過程で、上澄み液中の遊離したナノプラスチック由来の蛍光が約92%減少しました。これは粒子がQi601に捕らえられたことと整合する結果だとしています。
防御の試験では、5時間の時点で細胞表面に付着した蛍光が65%、細胞内の蛍光が67%減少し、24時間の時点ではそれぞれ41%と33%の減少でした。24時間あらかじめ粒子にさらしておいた細胞にQi601を加えた場合には、表面付着分が77%、細胞内分が43%減少したと報告されています。また、Qi601と粒子の塊から腸細胞へ移った蛍光は0.057%以下にとどまりました。顕微鏡観察では、Qi601と粒子が物理的に近接しており、Qi601に結び付いた粒子は主に細胞の外側に位置していたとされています。
ヒトでのガム実験では、唾液の顕微鏡観察で、Qi601の塊の内部またはそのすぐ近くに、ナイルレッド染色で陽性となる多様な高分子が見られました。LDIRによる化学イメージングでは、ガムとQi601を併用した唾液試料から検出されたゴム系粒子の数が、ガムのみの試料より43%少ない結果でした(2,562個に対して4,529個)。手続き上の対照分を差し引いて背景を補正すると、この差はおよそ91%少ない値となりました(185個に対して2,152個)。
この報告が示す意味
研究チームはこれらの結果から、ポストバイオティクスが食事由来のマイクロ・ナノプラスチックを捕らえるという考え方の概念実証が成立したと述べています。そしてQi601が粒子と腸上皮の接触や細胞内に取り込まれる量を抑えるという説明モデルを支持するとしています。著者らの知る限り、投与した介入物とマイクロプラスチック粒子が物理的に結び付くことをヒトの体内で直接示した最初の概念実証研究にあたるとのことです。
同時に著者らは、Qi601と粒子がどのような仕組みで結び付くのか、消化管の中で最終的にどうなるのかはまだ明らかでなく、より規模の大きな研究による検証が必要だとしています。今回の報告は、身近な汚染物質への曝露を減らす道筋を探るうえでの出発点を示したものと位置づけられます。
著者:Eva A. Berkes(uorum Innovations Inc., Sarasota, FL, United States)、Oded Oron(uorum Innovations Inc., Sarasota, FL, United States)、Ana Wood(uorum Innovations Inc., Sarasota, FL, United States)、Phineas N. Monsul(uorum Innovations Inc., Sarasota, FL, United States)、Nicholas T. Monsul(uorum Innovations Inc., Sarasota, FL, United States)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Eva A. Berkes, Oded Oron, Ana Wood, et al. Postbiotic sequestration of micro- and nanoplastics: in vitro intestinal epithelial protection and proof of concept in the human mouth. Frontiers in Microbiology 2026-09-21. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1881786. 原著ライセンス:CC BY.