著者の所属・活動拠点の国は、ロシアです。
掲載誌:Ogarev-online
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究のねらい
パンは日常的に多く食べられる食品であり、栄養価を高めたパンを作る方法が各地で検討されています。著者らは、ロシアで一般的なスライス用の細長いパン「ナレズノイ・バトン」を題材に、小麦粉の一部を麻(ヘンプ)とゴマの粉に置き換えて栄養価を高めた製品の配合と製造方法を開発することを目的としました。
小麦粉は生地のふくらみや食感を支える性質を持つため、完全になくすことは難しいとされます。そこで研究チームは、小麦粉を土台にしつつ、たんぱく質や食物繊維などを含む麻とゴマの粉を少量加える方法を選びました。使われた麻粉とゴマ粉は、油を機械的に搾った後に残る「搾りかす」を刃式の粉砕機で細かくしたものです。論文では、化学溶剤で油を抜いた残りかすと比べ、こうした搾りかすは食品用としてより自然な原料だと説明されています。
何を調べたか
研究チームは、最上級のパン用小麦粉だけを使った対照のパンと、麻粉とゴマ粉を同量ずつ合わせた混合粉を全体の5%、10%、15%、20%加えた4種類のパンを作りました。たとえば10%の試料では、小麦粉90に対して麻粉とゴマ粉を5ずつ混ぜています。仕上がり400 gのパン1本あたりで見ると、粉の合計250 gのうち麻・ゴマ混合粉は12.5 gから50 gでした。
まず混合した粉そのものについて、水分、酸度、酵素の働きの強さを示す「フォーリングナンバー」、そして生地の弾力やふくらみを担うたんぱく質「グルテン」の量と質を調べました。報告によると、麻・ゴマ粉の割合が増えるにつれて、グルテンの量は30.40%から26.80%へと減り、粉の酸度は上がる傾向が見られました。
焼き上げたパンは焼成から4時間後に評価されました。味と香り、表面、断面の様子、内部の構造、形、色の6項目を各5点で採点する官能評価に加え、パンの内側(クラム)に含まれる気泡の割合を示す「多孔度」、水分量、酸度が測定されました。
主な結果
官能評価の合計点は、対照のパンが30点満点中30点だったのに対し、5%の試料は29点、10%の試料は30点、15%の試料は29点、20%の試料は26点でした。著者らは、対照と同じ満点を得た10%の試料を最もよいパンと判断しています。一方、20%の試料には苦味が感じられ、内部の構造も均一さに欠けたことから、麻・ゴマ混合粉の配合は15%までにとどめるよう勧めています。
パンの性質の変化は、配合量に比例して一方向に進むものではありませんでした。多孔度は5%と15%の試料で対照より高くなり、10%と20%の試料ではわずかに低くなりました。水分量は10%の試料で対照より減り、それ以外の試料では増えました。パンの酸度は、5%の試料では対照より低かった一方、10%以上を加えると配合量に応じて高くなったと報告されています。
論文では、試作したパンはいずれも外観がよく、商品として十分な見た目を備えていたとされています。また著者らは、開発した配合のパンは通常のパンに比べて脂質(多価不飽和脂肪酸を含む)、たんぱく質、必須アミノ酸の含有量が多い点で異なると述べ、既存のパン工場での製造に取り入れられると結論づけています。
この研究が示すこと
この研究は、油を搾った後に残る麻とゴマの搾りかすを粉にして小麦粉に混ぜることで、見た目や食味を大きく損なわずにパンを作れる配合の範囲を示しました。とくに、混合粉を10%加えたパンが対照と同等の評価を得たこと、20%では苦味や構造の乱れが出たことは、配合量の目安として具体的な手がかりになります。
一方で著者ら自身が述べているように、検討したのは5%から20%までの4段階だけで、実験も研究室の条件で行われたものです。工場規模の製造でも同じ結果が得られるかどうかは、まだ確かめられていません。
原著論文の著者・所属:Roman Kh. Kandrokov(Russian State Agrarian University – Moscow Timiryazev Agricultural Academy)、Michael S. Shilkin(Russian State Agrarian University – Moscow Timiryazev Agricultural Academy)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Roman Kh. Kandrokov, Michael S. Shilkin. Development of Composition for Sliced Bread Using Composite Enriched Flour. Ogarev-online 2026-09-30. DOI: 10.15507/2311-2468.26143.316-327. 原著ライセンス:CC BY.