この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Pharmaceuticals
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的にした研究か
サクランボの仲間の木は、外からの刺激を受けると幹から粘り気のある液体をしみ出させます。これは時間がたつと固まって、乳白色から淡い黄色のかたまりになり、さらに古くなると色が濃くなっていきます。「樹脂」や「ガム」と呼ばれるこのしみ出し物(樹液ガム)は食べることができ、ほのかな苦みと甘みがあり、各地の言い伝えでは尿の出をよくする働きがあるとされてきました。
研究チームは、この伝承されてきた利尿作用が実際に確かめられるのかどうかを調べました。対象にしたのは、スミミザクラ(サワーチェリー、Prunus cerasus)、マハレブ(Prunus mahaleb)、セイヨウミザクラ(チェリー、Prunus avium)という3種類の木から集めた樹液ガムです。論文によれば、目的は大きく二つあり、一つはこれら3種の樹液ガムに含まれる成分・抗酸化のはたらき・ミネラルの構成を明らかにすること、もう一つはラットを用いた生体内の実験で利尿作用を検証することでした。
背景として著者らは、利尿薬が高血圧や浮腫(むくみ)、心不全・腎不全の治療で重要な薬である一方、体液量の減少や電解質のバランスの乱れといった副作用があることを挙げています。そのため植物由来の代替候補を探す研究が近年増えている、という文脈のなかに本研究は位置づけられています。
どのように調べたか
樹液ガムは2025年7月から8月にかけて、トルコのエルズルム地方オルル地区にある農園で採取されました。専門家が対象の木を特定し、1グループあたり3本以上の木から集めたものを混ぜ合わせて、代表となる試料としています。採取した試料は洗って陰干しし、粉末にしてから、メタノールに浸して抽出物を作りました。
成分については、総ポリフェノール量(植物に広く含まれる抗酸化性の成分の総量)と総フラボノイド量を測定し、さらに抗酸化のはたらきを複数の方法で評価しています。DPPH法ではIC50という指標が使われました。これは、試験に使う活性の高い分子(ラジカル)の半分を打ち消すのに必要な試料の濃度で、値が小さいほど少量で効くことを意味します。ミネラルについては、ICP-MSという微量元素を精密に測る装置を用いて、マンガンやクロムなどの微量元素、亜鉛や銅、そしてリン・鉄・ナトリウム・マグネシウム・カリウム・カルシウムといった量の多い元素を調べています。
利尿作用の検証には、生後12週、体重200〜210gの健康なラット25匹が使われました。5群に分けられ(各群5匹)、比較の基準となる陰性対照群、既存の利尿薬フロセミド(10mg/kg)を与える群、そして3種の樹液ガムの水抽出物をそれぞれ100mg/kgで与える3群という構成です。18時間の絶食のあと、すべてのラットに体重100gあたり2.5mLの生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム)を胃に通す管で投与して条件をそろえ、直後に薬または抽出物を与えました。経口で入る液体の総量はどの群でも等しくなるようにしています。その後は個別の代謝ケージで飼育し、5時間後(短期)と24時間後(長期)の尿量を測定しています。24時間分の尿では、ナトリウム・カリウム・塩素といった電解質や、クレアチニン、尿酸などの量も測られました。なお著者らは、実験者が群の割り当てを知った状態で進めており、盲検化は行っていないと明記しています。動物実験は所属大学の倫理委員会の承認を得て、ARRIVEガイドラインに沿って実施されたと記されています。
主な報告結果
成分の分析では、セイヨウミザクラの樹液ガムが最も高い総ポリフェノール量(120.15±1.40 mgGAE/g)と総フラボノイド量(62.28±5.45 mgQE/g)を示したと報告されています。ミネラルについては、3種それぞれで元素の濃度の並び順が示されました。種ごとの違いもあり、スミミザクラの樹液ガムはナトリウム・クロム・鉄・亜鉛が最も多く、マハレブはマグネシウム・カリウム・カルシウム・マンガン・銅が最も豊富で、リンはセイヨウミザクラで最も高い濃度に達したとされています。
尿量については、樹液ガムを与えたどの群も対照群より多くなりました。フロセミド群との比較では、5時間後の時点では樹液ガム群のほうが少なかったものの、24時間後には同程度になっています。樹液ガム3種のなかでは、スミミザクラを与えた群の尿量が最も多く、この傾向は24時間後まで続きました。
著者らは、フロセミドの作用を1.0とした「利尿活性」という相対的な指標も計算しています。この指標では、0.50未満は効果なし、0.50〜0.69は低い、0.70〜0.89は中程度、0.90以上は高いと判定する既存の基準が用いられました。スミミザクラの樹液ガムは5時間後に0.75、24時間後に1.05という値で、実験群のなかで最も高い値でした。この基準に当てはめると、スミミザクラは短期では中程度、長期では高い利尿活性となり、セイヨウミザクラとマハレブは短期では低く、長期では中程度という結果だったと報告されています。
電解質の排出についても報告があります。すべての群でナトリウムの排出がカリウムの排出を上回り、また塩素・カリウム・ナトリウムの尿中排出量は、どの樹液ガム群でもフロセミド群を上回りました。ナトリウムとカリウムの排出でみた指標が最も高かったのはマハレブ群、塩素の排出でみた指標が最も高かったのはセイヨウミザクラ群でした。ナトリウムとカリウムの比(Na⁺/K⁺)はすべての投与群で1.0〜2.0の範囲に収まり、著者らはこれをカリウムを過剰に失わせずに十分な尿排出が得られたことの確認と述べています。また塩素とナトリウム+カリウムの比はいずれも0.8を超えており、この樹液ガムの利尿作用が炭酸脱水酵素という酵素を抑える仕組みとは別に働いていることを示すものだと解釈されています。
論文の結論では、樹液ガムを与えたラットに病的な状態は認められず、用量に依存する有害な生理的・発達上の影響も観察されなかったと述べられています。
この報告が意味すること
この研究が示したのは、言い伝えのなかで語られてきた樹液ガムの利尿作用が、ラットを用いた実験でも実際に測定できる形で現れたということです。著者らは、得られたデータが伝統的な主張を裏づけるものだとしています。
もう一つの読みどころは、同じ地域で育つ近縁の3種であっても、含まれる成分やミネラルの構成が異なり、それに応じて利尿のはたらき方にも違いが出た点です。論文は、100mg/kgという同じ投与量でも、由来する果樹の種類によって各指標が異なる程度を示したと報告しています。同じ「サクランボ類の樹脂」とまとめて扱うのではなく、種を区別して見る必要があることを示す結果といえます。
ただし著者らは、これはラットでの結果であり、ヒトへの当てはめには代謝の速さや体表面積の違いを考慮しなければならないと述べています。そして、ヒトでの適切な換算用量、体内での動き、長期的な安全性を明らかにするためには、健康な人と患者の双方を対象とした臨床試験が不可欠であることを、論文自身が明確に記しています。
著者:Sadık Küçükgünay(Department of Medical Pharmacology, Faculty of Medicine, Kırsehir Ahi Evran University, 40100 Kırsehir, Türkiye)、Fatma Ergün(Department of Nutrition and Dietetics, Faculty of Health Sciences, Kırsehir Ahi Evran University, 40100 Kırsehir, Türkiye)、Aynur Kırbaş(Department of Medical Biochemistry, Faculty of Medicine, Kırsehir Ahi Evran University, 40100 Kırsehir, Türkiye)、Demirel Ergün(Experimental Animals Unit, Faculty of Medicine, Kırsehir Ahi Evran University, 40100 Kırsehir, Türkiye)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sadık Küçükgünay, Fatma Ergün, Aynur Kırbaş, et al. In Vivo Diuretic Efficacy, Antioxidant Capacity, and Mineral Profiling of Tree Gum Exudates from Sour Cherry (Prunus cerasus), Mahaleb (Prunus mahaleb), and Cherry (Prunus avium). Pharmaceuticals 2026-09-17. DOI: 10.3390/ph19091484. 原著ライセンス:CC BY.