この研究は、ニュージーランド、マレーシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Antioxidants

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

霊芝(レイシ、学名 Ganoderma lucidum)は「霊芝(リンジー)」として中国で古くから用いられてきたキノコで、多糖類やトリテルペン類といった成分を含みます。ただし著者らは、このトリテルペン類が強い苦味と渋味のもとになっており、食品としての利用が広がりにくい原因になっていると述べています。

研究チームが着目したのは、キノコの傘や柄にあたる「子実体」ではなく、その土台となる菌糸体です。論文によれば、子実体の栽培には約6か月かかるのに対し、菌糸体は約3週間ほどで得られ、しかも有用成分を多く含むとされます。そこで著者らは、菌糸体の粉末を乳酸菌の一種 Lactiplantibacillus plantarum で10日間発酵させ、その間に成分と味・香りがどう変化するかを追跡しました。狙いは、抗酸化の働きを高めつつ、うま味を強めて食べやすい素材に変えられるかを確かめることです。

調べ方

著者らは霊芝菌糸体の粉末にペプトン水と乳酸菌の種菌を加え、35℃の酸素のない条件で10日間発酵させました。0日目から10日目まで毎日、それぞれ3つずつ試料を取り出して冷凍し、合計33点を分析しています。

分析では、液体クロマトグラフィー質量分析という手法で、有機酸、遊離アミノ酸、5′-ヌクレオチド(うま味に関わる核酸系の成分)、還元糖の計34種類を定量しました。あわせて、総ポリフェノール量と、金属イオンを還元する力を測る二種類の抗酸化能試験(FRAP、CUPRAC)を行い、香り成分はガスクロマトグラフィー質量分析で調べています。

味の評価には、人が実際に試食する官能検査ではなく、計算による指標を用いました。一つは「等価うま味濃度(EUC)」で、うま味アミノ酸と5′-ヌクレオチドが組み合わさったときに生じる相乗効果をグルタミン酸ナトリウム換算で表すものです。もう一つは「味活性値(TAV)」で、各成分の濃度をその成分の味を感じ始める濃度(閾値)で割った値です。さらに、34成分と抗酸化能の関係を整理するために、部分最小二乗回帰(PLSR)とエラスティックネット回帰という二つの統計モデルを併用し、両者が共通して重要と示した成分を絞り込む方針をとっています。

報告された主な結果

まず微生物の数は、0日目から増えて3日目に最も多くなり、その後は減少しました。著者らは、栄養が消費し尽くされることで菌が維持できなくなったためと説明しています。9日目と10日目には検出限界(1グラムあたり100個)を下回りました。

成分の変化ははっきりしていました。発酵前に多かったリンゴ酸は速やかに消費され、3日目には検出限界を下回っています。一方で乳酸は0日目の1リットルあたり1.310ミリグラムから3日目に41.580ミリグラム、9日目には最大の112.077ミリグラムまで増加し、コハク酸も9日目に最も多くなりました。遊離アミノ酸は22種類とエタノールアミンを合わせた23成分が定量され、その多くが時間とともに有意に増えています。うま味に関わるL-グルタミン酸は0日目の2.713マイクロモル毎リットルから2日目には21.429マイクロモル毎リットルへと増えました。5′-ヌクレオチドでは5′-CMPと5′-GMPが着実に増加した一方、5′-IMPは期間を通じて検出限界を下回っています。

抗酸化に関する指標も上昇しました。総ポリフェノール量は1日目に一度下がってから3日目には1グラムあたり1.926ミリグラム(没食子酸相当)まで有意に増加し、FRAPも同様の推移を示しました。CUPRACはより複雑な変動を示したと報告されています。統計モデルによる解析では、最初の二つの成分軸が成分側のばらつきの82.8%、抗酸化応答側の55.9%を説明し、発酵日数が成分変化を動かす最大の要因であることが示されました。発酵後期(7〜10日目)の試料は総ポリフェノール量とFRAPの方向にまとまり、コハク酸がこの方向に最も近く位置していました。

この研究が示すこと

著者らの報告は、乳酸菌による発酵が霊芝菌糸体の成分構成を時間とともに大きく組み替えることを示しています。発酵前に多かった成分が消費される一方で、乳酸やコハク酸、うま味に関わるアミノ酸やヌクレオチドが蓄積し、発酵後期には抗酸化の指標が高まる状態へと移り変わっていきました。

この研究の意義は、発酵の「日数」そのものが、得られる素材の性質を決める調整可能な要素だと具体的な数値で示した点にあります。苦味のために使いにくかった素材を、どの段階で取り出せばどのような特徴を持つかという見取り図が、ひとつ描かれたことになります。

著者:Yutong Gu(School of Science, Faculty of Health and Environment Sciences, Auckland University of Technology, Auckland 1010, New Zealand)、Zhiyu Zhao(School of Science, Faculty of Health and Environment Sciences, Auckland University of Technology, Auckland 1010, New Zealand)、Rushan Lakshitha(School of Science, Faculty of Health and Environment Sciences, Auckland University of Technology, Auckland 1010, New Zealand)、Tony Chen(School of Science, Faculty of Health and Environment Sciences, Auckland University of Technology, Auckland 1010, New Zealand)、Kevin Kantono(School of Science, Faculty of Health and Environment Sciences, Auckland University of Technology, Auckland 1010, New Zealand)、Wan Abd Al Qadr Imad Wan‐Mohtar(Functional Omics and Bioprocess Development Laboratory, Institute of Biological Sciences, Faculty of Science, Universiti Malaya, Kuala Lumpur 50603, Malaysia)、Siva Raseetha(Faculty of Applied Sciences, Universiti Teknologi MARA, Shah Alam 40450, Selangor, Malaysia)、Nazimah Hamid(School of Science, Faculty of Health and Environment Sciences, Auckland University of Technology, Auckland 1010, New Zealand)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yutong Gu, Zhiyu Zhao, Rushan Lakshitha, et al. Biochemical and Flavour Profile of Lingzhi (Ganoderma lucidum) Mycelium Fermented by Lactiplantibacillus plantarum: A Dual-Modelling Approach to Umami Synergy and Antioxidant Capacity. Antioxidants 2026-09-18. DOI: 10.3390/antiox15091196. 原著ライセンス:CC BY.