著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Polymers

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

ハスの実のでんぷんに注目した理由

ハスは、地下茎を食べるレンコン用、花を観賞する品種のほかに、実(ハスの実)を収穫する種子用の品種も栽培されています。著者らによると、種子用ハスは中国の湖南省、福建省、浙江省、江西省などで大規模に栽培されており、国内の年間生産量はおよそ30万トンと推定されています。乾燥させたハスの実は乾燥重量の約60〜70%が炭水化物で、その主成分がでんぷんです。このでんぷんは、ハスの実を使った食品の食感や風味、加工のしやすさを大きく左右します。

ハスの実のでんぷんは、毒性がなく自然に分解される素材で、実験室の規模では食品素材としての可能性が示されてきました。一方で、加熱して糊状にした後に冷えると固くなりやすい、冷凍と解凍を繰り返すと品質が保ちにくいといった弱点があり、加工品の日持ちや品質の安定を妨げる要因になっています。この総説は、ハスの実のでんぷんの成分、構造、性質を変える加工技術(改質)についての最近の研究を整理し、残された課題を示すことを目的としています。

文献の集め方とでんぷん本来の性質

研究チームは、英語の主要な学術データベース3つと中国語文献のデータベース1つを使い、2005年1月から2026年6月までに発表された研究を検索しました。2人の評価者がそれぞれ文献を選別し、意見が分かれた場合は話し合って判断しました。引用文献は全部で96件で、このうち57件が、ハスの実のでんぷんそのものを扱った査読付き研究として、総説の中心的な文献群になっています。

論文がまとめたところでは、ハスの実のでんぷんは、直鎖状の成分であるアミロースの割合が高く、全でんぷんの約45%に達すると報告されています。アミロースは、トウモロコシや小麦のでんぷんでは割合がより低い成分です。でんぷん粒の内部の結晶構造は「C型」と呼ばれるタイプに分類されます。こうした特徴により、ジャガイモやトウモロコシのでんぷんに比べて、水と加熱して糊状になる温度(糊化温度)が高くなります。その反面、水を吸って膨らむ力は小さく、冷えたときに分子が再び集まって固くなる「老化」が進みやすいとされています。

著者らは、本来の性質を四つの段階に分けて整理しています。でんぷん粒としては熱に強いものの、糊の状態では加熱やかき混ぜに対する安定性が低く、冷やしてできるゲルは比較的弱く、保存中には老化しやすく冷凍と解凍にも弱い、というものです。また、品種、抽出方法、測定条件の違いによって、研究ごとに報告値が大きくばらつくことも指摘しています。

性質を変える加工技術の報告

論文は、でんぷんの性質を変える方法を、物理的、化学的、生物的、そしてこれらを組み合わせた複合的な改質の四つに分けて紹介しています。物理的な改質は化学薬品を使わずに済むことが多い方法です。ただし著者らは、物理的な方法だからといって必ず環境にやさしいわけではないと述べ、エネルギー消費や設備コストも含めて評価する必要があるとしています。

たとえば、水分を抑えた状態で加熱する「湿熱処理」では、結晶構造のタイプは変わらないまま結晶性が高まり、糊化温度が上がったと報告されています。この方法は、でんぷんを取り出さずにハスの実の粉に直接使える点が利点とされ、産業的にもすでに確立した技術とされています。マイクロ波処理では、出力を上げるにつれて、消化されにくい「レジスタントスターチ」やゆっくり消化されるでんぷんが増え、試験管内の分解実験から推定した血糖指数(GI)が下がったと報告されています。ただし著者らは、この値は人で測定したものではなく、効果を確かめるには人を対象とした研究が必要だと明記しています。

高い圧力を均一にかける高静水圧処理では、結晶構造がC型からB型へと変わり、短期的な老化が抑えられたと報告されています。一方、細い隙間に高圧で押し出す高圧ホモジナイズ処理では、でんぷん粒が物理的に砕かれ、試験管内で消化されやすくなりました。放射線を当てる処理では糊化温度や結晶性が下がり、粘りが低く消化されやすい素材に向くとされています。超音波処理では、膨らむ力と溶けやすさが高まったと報告されています。このほか、化学的な改質についても、分子を分解する方法と、新しい化学的なまとまりを導入する方法に分けて整理されています。

この総説が示すもの

著者らは、改質したハスの実のでんぷんが、食品の安定剤やとろみ付け、包装用フィルム、ナノ材料、有効成分を少しずつ放出する仕組みなどに利用できる可能性を示した研究を紹介しています。そのうえで、多くの技術はまだ開発の初期段階にあり、試験生産や工業規模での検証が必要だとしています。また、研究ごとの結果を比べやすくするため、品種、抽出方法、アミロース含量、処理条件をそろえて報告するよう求めています。

この総説は、ハスの実のでんぷんが持つ特有の構造と弱点、それを補うための加工技術の報告を一つにまとめています。十分に活用されていないでんぷん資源について、何が分かっていて何がまだ確かめられていないのかを見渡す手がかりになる内容です。

原著論文の著者・所属:Hu C(Guangzhou Restaurant Group Likofu Food Co., Ltd., Guangzhou 511442, China.)、Yuan L(Hunan Engineering Research Center of Lotus Deep Processing and Nutritional Health Sciences, Hunan Key Laboratory of Economic Crops Genetic Improvement and Integrated Utilization, School of Life and Health Sciences, Hunan University of Science and Technology, Xiangtan 411201, China.)、Wang H(Guangzhou Restaurant Group Likofu Food Co., Ltd., Guangzhou 511442, China.)、Huang Z(Guangzhou Restaurant Group Likofu Food Co., Ltd., Guangzhou 511442, China.)、Liu C(Guangzhou Restaurant Group Likofu Food Co., Ltd., Guangzhou 511442, China.)、Weng Z(Guangzhou Restaurant Group Likofu Food Co., Ltd., Guangzhou 511442, China.)、Tan Y(Guangzhou Restaurant Group Likofu Food Co., Ltd., Guangzhou 511442, China.)、Qian X(Guangzhou Restaurant Group (Xiangtan) Likofu Food Co., Ltd., Xiangtan 411100, China.)、Deng S(Hunan Engineering Research Center of Lotus Deep Processing and Nutritional Health Sciences, Hunan Key Laboratory of Economic Crops Genetic Improvement and Integrated Utilization, School of Life and Health Sciences, Hunan University of Science and Technology, Xiangtan 411201, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hu C, Yuan L, Wang H, et al. Recent Advances in Lotus Seed Starch: Multiscale Structure, Tailored Modification, and Innovative Applications. Polymers 2026-10-16. DOI: 10.3390/polym18202543. 原著ライセンス:CC BY.