著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。

掲載誌:International Dairy Journal

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

牛乳には、細胞から放出される「細胞外小胞」と呼ばれるごく小さな袋状の粒子が含まれています。細胞外小胞はたんぱく質やマイクロRNA(遺伝子の働きを調節する短いRNA)などを内部に含んでおり、細胞と細胞の間で情報をやり取りする役割を持つと考えられています。

研究チームは、オリーブオイルを搾った後に残る「オリーブ搾りかす」を飼料として与えたホルスタイン種の乳牛から牛乳を採取し、その細胞外小胞の中身を、対照群の乳牛の牛乳と比較しました。小胞に含まれるたんぱく質とマイクロRNAの構成を調べ、それらが細胞にどのような作用を及ぼしうるかを検討することが目的です。なお、この紹介は論文の抄録に基づいています。

何を調べたか

著者らは、両群の牛乳から細胞外小胞を取り出し、電子顕微鏡での観察や、特定のたんぱく質を検出する手法(ウエスタンブロット)で性質を確認しました。さらに、小胞に含まれるたんぱく質を網羅的に調べる解析と、マイクロRNAなどの短いRNAを読み取る解析を行いました。

得られたデータをもとに、これらのたんぱく質やマイクロRNAが関わる可能性のある生体内の経路や、マイクロRNAが働きかける標的遺伝子をコンピューターで予測しました。また、腸の上皮細胞として用いられる培養細胞(Caco-2細胞)に牛乳由来の細胞外小胞を加え、その生物学的な作用も調べました。

主な結果

たんぱく質の解析では238種類のたんぱく質が見つかり、そのほぼ半数はオリーブ搾りかすを与えた牛の牛乳の小胞だけで検出されました。研究チームはこれを、小胞のたんぱく質構成が大きく組み替えられたことを示すものとしています。また、この群の小胞では、CD9とTSG101というたんぱく質が少なく、HSP70が多いことも分かり、小胞がつくられる過程に変化が生じている可能性が示されました。

マイクロRNAについては180種類を超える成熟型が見つかり、その大半は両群に共通していました。量に差が見られたのは多く含まれるマイクロRNAのうち限られた数にとどまりましたが、標的の予測からは、神経の発達、細胞内での物質輸送、細胞膜の構成、脂質の代謝に関わる経路が一貫して浮かび上がりました。ネットワーク解析では、ACSL3、LPCAT3、NR1H2、NR1H4、APOA2、LDLRなど、脂質代謝に関わる重要な標的遺伝子が特定されました。

Caco-2細胞に牛乳由来の小胞を長期間にわたって与えた実験では、脂質に関連する遺伝子の発現が変化し、細胞内に蓄積する中性脂質(電荷をもたない性質の脂質の総称)の量も変化したと報告されています。

研究が示すこと

この研究は、乳牛に与える飼料の違いが、牛乳に含まれる細胞外小胞の中身、とくにたんぱく質の構成に表れうることを示しています。また、牛乳由来の小胞が培養した腸の細胞で脂質に関わる遺伝子の働きや脂質の蓄積に影響したという結果は、飼料、牛乳の小胞、そして細胞の脂質代謝を結びつけて考える手がかりを与えるものといえます。

原著論文の著者・所属:Costanza Cicchi(Department of Experimental and Clinical Biomedical Sciences “Mario Serio”, University of Florence, Florence, 50134, Italy)、Simone Luti(Department of Experimental and Clinical Biomedical Sciences “Mario Serio”, University of Florence, Florence, 50134, Italy)、Lorenzo Casbarra(Department of Experimental and Clinical Biomedical Sciences “Mario Serio”, University of Florence, Florence, 50134, Italy)、Leandro Di Gloria、Rebecca Sodano(Department of Experimental and Clinical Biomedical Sciences “Mario Serio”, University of Florence, Florence, 50134, Italy)、Tania Gamberi(Department of Experimental and Clinical Biomedical Sciences “Mario Serio”, University of Florence, Florence, 50134, Italy)、Matteo Ramazzotti(Department of Experimental and Clinical Biomedical Sciences “Mario Serio”, University of Florence, Florence, 50134, Italy)、Massimo Genovese(Department of Experimental and Clinical Biomedical Sciences “Mario Serio”, University of Florence, Florence, 50134, Italy)、Arianna Buccioni(Department of Agricultural, Food, Environmental and Forestry Sciences and Technologies, University of Florence, Piazzale delle Cascine 18 - 50144 Florence, Italy)、Carlo Viti(Department of Agricultural, Food, Environmental and Forestry Sciences and Technologies, University of Florence, Piazzale delle Cascine 18 - 50144 Florence, Italy)、Federica Scicutella(Department of Agricultural, Food, Environmental and Forestry Sciences and Technologies, University of Florence, Piazzale delle Cascine 18 - 50144 Florence, Italy)、Federica Mannelli(Department of Agricultural, Food, Environmental and Forestry Sciences and Technologies, University of Florence, Piazzale delle Cascine 18 - 50144 Florence, Italy)、Rosamaria Militello(Department of Experimental and Clinical Biomedical Sciences “Mario Serio”, University of Florence, Florence, 50134, Italy)、Luigia Pazzagli(Department of Experimental and Clinical Biomedical Sciences “Mario Serio”, University of Florence, Florence, 50134, Italy)、Paolo Paoli(Department of Experimental and Clinical Biomedical Sciences “Mario Serio”, University of Florence, Florence, 50134, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Costanza Cicchi, Simone Luti, Lorenzo Casbarra, et al. Proteomic and microRNA profiling of bovine milk extracellular vesicles from holstein dairy cows fed olive oil pomace. International Dairy Journal 2026-09-10. DOI: 10.1016/j.idairyj.2026.106822. 原著ライセンス:CC BY.