著者の所属・活動拠点の国は、ペルー、ブラジルです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

含まれる量だけでは分からない栄養の価値

キウィチャ(学名 Amaranthus caudatus)は、アンデス地方で栽培されてきたアマランサスの一種です。植物学的にはイネ科の穀物ではありませんが、穀物のように種子を食べるため「擬穀物」と呼ばれます。著者らによると、キウィチャは一般に12〜19%のたんぱく質を含み、必須アミノ酸のリシンは一般的な穀物の約2倍とされます。ほかに食物繊維、ミネラル、不飽和脂質、スクアレン、フェノール化合物と呼ばれる植物由来の成分群も含みます。

一方で著者らは、これまでの研究の多くが生の粒に含まれる成分量の報告にとどまっていた点を課題に挙げています。食べた成分が体内で意味を持つには、まず消化の過程で食品の組織から溶け出す必要があります。溶け出して吸収されうる状態になった割合を「バイオアクセシビリティ」と呼びます。さらに、実際に腸から吸収されて全身に届く割合は「バイオアベイラビリティ」と呼ばれ、両者は区別されます。

この総説は、キウィチャという食品の構造が消化の進み方にどう関わるのか、加工によってそれがどう変わるのか、健康との関わりについて現時点で何が言えるのかを、既存の研究から整理することを目的としています。

文献の集め方と、キウィチャの粒の構造

著者らは、2021年1月から2026年1月までに発表された英語・スペイン語の論文を主な対象に、複数の学術データベースで文献を検索しました。研究の手法は網羅的・定量的に統合する系統的レビューではなく、テーマに沿って知見をまとめる叙述的レビュー(ナラティブレビュー)です。整理にあたっては、試験管内の消化実験、細胞、動物、ヒトのどの段階の証拠なのかを区別しています。また、キウィチャ以外のアマランサス類から得られた知見を、そのままキウィチャに当てはめないよう注意しています。

キウィチャの粒の中では、0.5〜2マイクロメートルほどの非常に小さなでんぷん粒が、貯蔵たんぱく質と食物繊維の緻密な網目に包み込まれています。でんぷんの成分のうち、アミロースは5〜7%程度と少なく、枝分かれの多いアミロペクチンが大部分を占める「もち性」に近い性質です。著者らは、このたんぱく質の網目や細胞壁が、消化酵素がでんぷんに近づくのを物理的に妨げる「天然の障壁」として働きうると説明しています。ただし、脂質がどう消化され吸収されるかについては、直接的な証拠がまだ限られているとしています。

試験管内の消化実験で報告されていること

著者らは、口・胃・腸の各段階を試験管内で再現する消化モデルの結果を段階ごとにまとめています。国際的に標準化された手順「INFOGEST 2.0」もその一つです。

口の段階を模した実験では、唾液の酵素によってでんぷんの分解が比較的早く始まります。懸濁液を用いた実験では、初期のでんぷん分解が約15〜27%に達したと報告されています。胃の段階では、酸性の環境でたんぱく質の立体構造がほどけ、分解が始まるとされます。ただし、その詳しい仕組みはキウィチャ自体では十分に確かめられておらず、他の食品から推測された説明であると著者らは断っています。

腸の段階では分解がさらに進みます。たんぱく質の試験管内消化率は最大79.18%と報告されています。フェノール化合物のバイオアクセシビリティも、腸の段階の終わりには乾燥重量100グラムあたり没食子酸換算で357〜638ミリグラムに達したとされます。なお、たんぱく質消化率の値の一部は、粒そのものではなく、取り出したたんぱく質や酵素で分解した試料で得られたものです。そのため、そのまま粒や最終食品に当てはめるべきではないとされています。

消化の過程では、分子量の小さなペプチド(アミノ酸が短くつながったもの)も生じます。これらについては、試験管内で抗酸化作用や、血圧調節に関わる酵素ACEの働きを抑える作用などが報告されています。でんぷんについては、アミロースが少ないでんぷんは一般に消化されやすいとされますが、キウィチャは小麦より消化が緩やかな傾向が報告されています。著者らはその理由として、でんぷんそのものの性質よりも、食品としての構造の影響が大きい可能性を挙げています。

加工の影響と、「消化される」と「体に効く」の間の隔たり

発芽、押出成形(加熱と圧力をかけて成形する加工)、加熱調理、焙煎、発酵といった加工は、粒の構造を変え、消化のされやすさに影響しうると整理されています。たとえば発芽では粒自身の酵素が働き、抗栄養素とされるフィチン酸などが減る可能性があります。でんぷんについては、ゆでた場合に67.4%が分解されたとする研究がある一方、焙煎では消化が遅くなる傾向が示されました。ただし著者らは、これだけでは小麦より血糖値を上げにくいとは言えず、最終的な食品を同じ条件で比べる必要があると述べています。

著者らが特に強調するのは、加工で消化のされやすさが高まったとしても、それを体への効果が高まった証拠とみなしてはならない、という点です。現在の証拠の多くは試験管内の消化実験や化学的な測定に基づいています。腸での吸収、全身への到達、ヒトでの反応までを確かめた研究は乏しく、一部の作用について動物実験の報告があるにとどまります。

総説の結論として著者らは、キウィチャの栄養的・機能的な価値を、成分量だけで判断せず、一続きの流れとして捉えるべきだとしています。その流れとは、食品の構造、加工による構造の変化、消化管での放出、バイオアクセシビリティ、腸での吸収、そして最終的な体の反応です。この総説は、キウィチャについて何がどの段階まで分かっていて、どこから先がまだ確かめられていないのかを見分けるための見取り図を示しています。

原著論文の著者・所属:Carlos Ruiz(Programa de Doctorado en Ingeniería Agroindustrial, Mención Transformación Avanzada de Granos y Tubérculos Andinos, Universidad Nacional del Santa, Nuevo Chimbote 02712, Peru)、Gian Pierre Silvera-Otañe(Programa de Doctorado en Ingeniería Agroindustrial, Mención Transformación Avanzada de Granos y Tubérculos Andinos, Universidad Nacional del Santa, Nuevo Chimbote 02712, Peru)、Marcio Schmiele(Laboratório Integrado de Cereais e Lipídeos (LICEL), Instituto de Ciência e Tecnologia (ICT), Universidade Federal dos Vales do Jequitinhonha e Mucuri (UFVJM), Diamantina 39100-000, Brazil)、Luz María Paucar-Menacho(Departamento Académico de Agroindustria y Agronomía, Facultad de Ingeniería, Universidad Nacional del Santa, Nuevo Chimbote 02712, Peru)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Carlos Ruiz, Gian Pierre Silvera-Otañe, Marcio Schmiele, et al. Kiwicha in Gastrointestinal Digestion: Structure, Bioaccessibility, Processing and Health-Relevant Functionality. Foods 2026-10-26. DOI: 10.3390/foods15213826. 原著ライセンス:CC BY.