著者の所属・活動拠点の国は、エジプトです。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

エジプトでは魚が身近な食材で、地中海に面したダミエッタは国内有数の漁業拠点です。一方でこの沿岸には、工業地区や港湾からの排水、農業排水、都市の下水、ナイル川からの流入などが集まり、重金属などによる汚染が懸念されています。

研究チームは、毒性が強く環境中で分解されにくい水銀、ヒ素、鉛、カドミウムの4元素に注目しました。地元でよく食べられ経済的にも重要な3種の魚、ボラ、ヨーロッパヘダイ(ギルトヘッドブリーム)、マエソの仲間(ブラシトゥース・リザードフィッシュ)について、これらの濃度を調べることを目的としています。あわせて、家庭で一般的な焼く・揚げるといった調理による濃度の変化や、魚を食べることによる摂取量と健康リスクの評価にも取り組みました。

何をどのように調べたか

2024年8月から2025年1月までの6か月間、ダミエッタの北にある漁村エズベト・エルボルグの漁師の水揚げから、3種を90匹ずつ、計270匹集めました。複数の漁船や水揚げの機会から入手しており、期間中の時期による違いも含まれるようにしています。

各魚の背側の筋肉を酸で分解し、原子吸光分析という、元素ごとに特有の波長の光の吸収を測る方法で4元素の濃度を求めました。濃度は、乾燥させない状態の身1キログラムあたりのミリグラム数(湿重量あたり)で表しています。

調理の影響を見るため、各種15匹ずつをオーブンで180℃・20分焼き、別の15匹ずつをひまわり油で185℃・5分揚げ、生の状態と比べました。健康面では、エジプトの成人の平均的な魚の摂取量(1日13.8グラム)をもとに1日あたりの推定摂取量を計算し、国際的な健康指標値と比べる方法や、長期摂取による影響の目安となる指標を用いました。なお、ヒ素は総量のみを測っており、毒性が問題になる無機ヒ素を区別していないため、ヒ素については健康リスク指標やがんリスクの計算は行っていません。

生の魚で報告された主な結果

水銀の平均濃度は、ボラで0.05、ヘダイで0.07、マエソの仲間で0.145(いずれもmg/kg湿重量)でした。マエソの仲間はほかの2種より統計的に有意に高く、ボラとヘダイの間には有意な差はありませんでした。

カドミウムも同じ傾向で、平均はボラ0.046、ヘダイ0.062、マエソの仲間0.087で、マエソの仲間がほかの2種より有意に高い値でした。鉛の平均は、ボラ0.895、ヘダイ0.865、マエソの仲間1.012でした。

ヒ素(総量)は、ボラ11.69、ヘダイ12.38、マエソの仲間8.215と、ほかの元素とは逆にマエソの仲間が有意に低い結果でした。著者らはこの値を高いものと受け止める一方、測定したのは総ヒ素で、無機ヒ素向けの基準と直接比べると毒性の意味を過大に見積もるおそれがあるとして、慎重な解釈が必要だとしています。

魚種による違いについて著者らは、食物連鎖上の位置、海底付近で餌をとるかどうかといった食性、すみかの好み、体内で金属をため込んだり調節したりする能力の違いが関係している可能性を挙げています。

この研究が伝えること

この研究は、汚染源が集中するダミエッタ沿岸で日常的に食べられている魚について、有害元素の濃度を種ごとに具体的に示しました。同じ海域の魚でも、元素によって濃度の高い種が異なることが報告されています。ヒ素については総量と無機ヒ素を区別して考える必要があることも、結果を読み解くうえでの重要な前提として示されています。

原著論文の著者・所属:Sara Ibrahim Yusuf(https://ror.org/01k8vtd75 grid.10251.37 0000 0001 0342 6662 Department of Food Hygiene, Safety, and Technology, Faculty of Veterinary Medicine Mansoura University 35516 Mansoura Egypt)、Mahmoud Ahmed Mahros(https://ror.org/01k8vtd75 grid.10251.37 0000 0001 0342 6662 Department of Food Hygiene, Safety, and Technology, Faculty of Veterinary Medicine Mansoura University 35516 Mansoura Egypt)、Hanan Ahmed Zaher(https://ror.org/01k8vtd75 grid.10251.37 0000 0001 0342 6662 Department of Food Hygiene, Safety, and Technology, Faculty of Veterinary Medicine Mansoura University 35516 Mansoura Egypt)、Khalid Ibrahim Sallam(https://ror.org/01k8vtd75 grid.10251.37 0000 0001 0342 6662 Department of Food Hygiene, Safety, and Technology, Faculty of Veterinary Medicine Mansoura University 35516 Mansoura Egypt)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sara Ibrahim Yusuf, Mahmoud Ahmed Mahros, Hanan Ahmed Zaher, et al. Potentially toxic elements (PTEs) in marine fish caught from the mediterranean sea at Damietta city, Egypt: perspective on cooking effects and health hazard assessment. Scientific Reports 2026-10-01. DOI: 10.1038/s41598-026-70856-0. 原著ライセンス:CC BY.