著者の所属・活動拠点の国は、エジプト、オマーンです。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

海藻は、多糖類やポリフェノール、テルペノイドなど多様な成分を含み、食品や医薬品の素材として注目されています。中でもホンダワラの仲間であるサルガッスム属の褐藻は、アジアの国々で食用や伝統薬として使われてきました。しかし、よく研究されている一部の種を除くと、多くの種の性質はまだ十分に調べられていません。

研究チームが対象にしたのは、エジプトの紅海沿岸に広く分布する褐藻サルガッスム・プラティカルプム(Sargassum platycarpum)です。著者らによると、この種の生物学的な性質は、まだほとんど調べられていません。そこで研究チームは、この海藻のメタノール抽出物について三つの点を検討しました。病原菌への抗菌作用、有用菌を増やすプレバイオティクスとしての働き、そして含まれる成分の分析です。プレバイオティクスとは、体に役立つ微生物に選択的に利用され、その増殖や活動を助ける物質を指します。著者らは、自分たちの知る限り、この三つをこの種で同時に評価した研究はこれまでになかったと述べています。

何をどのように調べたか

研究チームは、エジプト紅海沿岸のクセイルからマルサ・アラムにかけての浅い海岸で海藻を採集し、種を同定しました。乾燥粉末25グラムをメタノールに1週間浸して成分を溶かし出し、溶媒を除いて抽出物を得ています。得られた乾燥抽出物は1.2グラムで、収率は4.8%と報告されています。

抗菌作用の試験には、寒天培地に穴を開けて抽出物を入れる方法を用いました。周囲に菌が育たない透明な円(阻止円)ができれば、抽出物が菌の増殖を抑えたことになり、円が大きいほど作用が強いと判断します。試験菌には大腸菌、黄色ブドウ球菌、枯草菌、肺炎桿菌などの標準菌株に加え、魚の病原菌も含まれました。

有用菌への作用は、エビの腸から分離された海洋性のプロバイオティクス菌株エンテロコッカス・フェカリスH2を使って調べました。炭素源(菌の栄養となる糖などの材料)を含まない培地に、抽出物を唯一の炭素源として0.1%または0.5%加えます。そのうえで、菌の増え方を濁りの度合い(光学密度)で測り、あわせてpHの変化と生きた菌の数も記録しました。成分は、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)で調べています。混ざり合った成分を分離して、一つずつ種類を推定する手法です。

主な結果

抽出物は、試験した病原菌の多くに対して、程度の差はあるものの増殖を抑える作用を示しました。最も強く抑えられたのは枯草菌で、阻止円の直径は25ミリメートルでした。作用が最も弱かった黄色ブドウ球菌では14ミリメートルでした。一方、肺炎桿菌とエンテロコッカス・フェシウムに対しては作用が見られませんでした。抽出物を溶かすのに使った溶媒だけでは、どの菌にも阻止円はできなかったと報告されています。

有用菌H2は、炭素源のない培地ではほとんど増えませんでした。これに対し、抽出物を加えた培地でははっきりと増殖しました。効果が最も大きかったのは0.5%の濃度で、光学密度は0.79に達し、pHは4まで下がりました。pHの低下について著者らは、菌が抽出物を栄養として取り込み、有機酸を作った結果だと解釈しています。生きた菌の数も0.5%の抽出物で最も多く、同じ濃度のブドウ糖を加えた培地を上回ったと報告されています。

成分分析では、45種類の化合物が暫定的に同定されました。主な成分は、テルペノイド、脂肪酸などの脂質、ステロイド、カロテノイド、ポリフェノール・芳香族化合物です。著者らは、主要成分の中に、過去の文献で抗菌作用が報告されている化合物が含まれることを挙げています。そして、それらが抗菌作用に関わっている可能性を論じています。ただし、どの成分が作用をもたらしたのかは、この研究では確かめられていません。

研究が示すこと

この研究は、紅海に生える褐藻サルガッスム・プラティカルプムの抽出物が、試験管内で一部の病原菌の増殖を抑えることを示しました。同時に、海洋性の有用菌の栄養源としても使われうることを示しています。著者らは、この海藻が生理活性成分の有望な供給源になりうると述べています。

一方で、著者ら自身が強調しているように、今回の結果は試験管内の実験と、単一の有用菌株に限られたものです。食品や医薬品への応用を論じるには、成分の確認、効き目の強さの定量、作用の仕組みの解明、安全性の評価、生体での検証がまだ必要だとされています。まだ十分に調べられていない海藻について、抗菌作用、有用菌への作用、成分を一つの研究でまとめて評価した報告といえます。

原著論文の著者・所属:Eman H. Zaghloul(National Institute of Oceanography and Fisheries (NIOF), Cairo, Egypt)、Khaled N. M. Elsayed(Biology Department, Faculty of Education and Arts, Sohar University, Sohar 311, Sohar, Oman; Botany and Microbiology Department, Faculty of Science, Beni-Suef University, Beni-Suef, Egypt)、Ahmed Ismail(Pharmacognosy Department, Faculty of Pharmacy, Fayoum University, Fayoum, Egypt)、Reham Gamal(National Institute of Oceanography and Fisheries (NIOF), Cairo, Egypt)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Eman H. Zaghloul, Khaled N. M. Elsayed, Ahmed Ismail, et al. In vitro assessment of Sargassum platycarpum extract as a novel antimicrobial agent and functional prebiotics. Scientific Reports 2026-10-27. DOI: 10.1038/s41598-026-71982-5. 原著ライセンス:CC BY.