著者の所属・活動拠点の国は、メキシコです。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
キュウリは生のまま、あるいは簡単な下処理だけで食べられることが多く、加熱の工程を経ないため、食中毒の原因となりうる細菌を運ぶ可能性があります。論文によると、汚染は畑から販売の場までのどの段階でも起こりえ、衛生状態の悪い灌漑用水や取り扱い時の不衛生が主な侵入経路とされています。
とくに問題になるのが、複数の抗生物質が効かない「多剤耐性菌」です。こうした菌が生鮮野菜に付いていると、人がそれに触れる経路にもなり、食品の流通を通じて広がるおそれもあります。著者らは、抗菌薬への耐性が世界的な健康上の脅威となるなか、植物由来の物質で細菌を抑える方法への関心が高まっていると述べています。
研究チームが着目したのは、ローズマリーの葉から得られる精油(香り成分を濃縮した油)です。ローズマリー精油には抗酸化作用や抗菌作用があると以前から報告されていますが、生鮮野菜から分離された多剤耐性菌への効果を調べた研究は少なく、同じ菌株を対象に成分、抗酸化能、抗菌活性をまとめて評価した例はさらに限られていました。そこで本研究は、ローズマリー精油の成分を分析し、その抗酸化能と、キュウリの果実から分離された多剤耐性の大腸菌および黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用を評価することを目的としました。
精油の成分と抗酸化能
研究チームは、陰干ししたローズマリーの葉を水蒸気蒸留して精油を取り出しました。得られた精油は乾燥した葉の重さに対して1.3%で、論文はこれをローズマリーについて報告されている範囲内の値としています。
精油に含まれる物質を、混合物を成分ごとに分けて種類を特定する分析法(ガスクロマトグラフィー質量分析)で調べたところ、21種類の化合物が確認されました。主な成分は、針葉樹のような香りをもつα-ピネン(32.53%)、ユーカリにも多い1,8-シネオール(20.73%)、ベルベノン(6.80%)で、この3種類で全体の約6割を占めました。著者らは、α-ピネンの割合が高いことから、この精油を「α-ピネン型」と呼ばれるタイプに分類しています。
抗酸化能は、色のついた人工的な「ラジカル」(反応性の高い不安定な分子)がどれだけ打ち消されるかを測る2種類の試験(ABTS法とDPPH法)で評価しました。結果は、基準物質であるトロロックスに換算して、精油1ミリリットルあたりABTS法で49.60マイクロモル、DPPH法で13.15マイクロモル相当でした。ラジカルの半分を打ち消すのに必要な精油の濃度は、ABTS法で24.46 mg/mL、DPPH法で56.43 mg/mLでした。著者らは、使う試験法によって数値が大きく異なることを指摘したうえで、この精油の抗酸化能を「中程度」と評価しています。
多剤耐性菌に対する抗菌作用
抗菌作用の試験には、標準として用いられる大腸菌と黄色ブドウ球菌の基準株を各1株と、キュウリから分離された多剤耐性の大腸菌4株および黄色ブドウ球菌4株を使いました。精油を段階的に薄めて菌と一緒に培養し、菌の増殖を止めるのに必要な最低濃度(最小発育阻止濃度、MIC)と、菌を死滅させるのに必要な最低濃度(最小殺菌濃度、MBC)を調べました。
その結果、精油は試験したすべての菌株の増殖を抑えました。MICは0.19〜3.12 mg/mL、MBCは0.39〜6.25 mg/mLの範囲でした。最も少ない量で効いたのは多剤耐性の黄色ブドウ球菌2株で、MICは0.19 mg/mLでした。一方、最も多くの量を必要としたのは多剤耐性の大腸菌の1株で、MICは3.12 mg/mL、MBCは6.25 mg/mLでした。全体として、精油は大腸菌よりも黄色ブドウ球菌に対してよく効きました。著者らは、大腸菌のような菌が持つ外膜が、油になじみやすい精油成分の侵入を妨げるという既存の説明を挙げています。
MBCとMICの比から、菌を殺す作用(殺菌的)か、増殖を止めるにとどまる作用(静菌的)かも判定しました。精油はすべての大腸菌株、黄色ブドウ球菌の基準株、多剤耐性の黄色ブドウ球菌4株のうち3株に対して殺菌的に働きました。残る1株に対しては静菌的でした。この株は、試験した抗生物質の多くが効かないことを示す指標(多剤耐性指数)が最も高い株でしたが、精油はこの株の増殖も抑えました。また、菌株の抗生物質耐性の強さと、精油の効きにくさとのあいだに統計的に意味のある関連は見られませんでした。抗生物質に強い耐性をもつ株ほど多くの精油を必要とする、という傾向は一貫していなかったということです。
この研究が示すこと
この研究は、α-ピネンと1,8-シネオールを主成分とするローズマリー精油が、キュウリから見つかった多剤耐性菌を含む試験菌株すべての増殖を、試験管内で抑えたことを報告しています。著者らは、この作用が単一の成分によるものではなく、複数の成分の組み合わせによる可能性が高いと考えていますが、個々の成分の寄与は今回調べていないと明記しています。
今回の結果はあくまで試験管内での評価です。著者らは、精油を使った消毒剤や食べられるコーティング剤の候補として検討する価値があるとしつつ、実際のキュウリでの効果、安全性、安定性、味や香りへの影響を確かめる研究が必要だと述べています。抗生物質が効きにくい菌への対策を植物由来の素材に探る取り組みのなかで、その出発点となるデータを示した研究といえます。
著者:Adriana Hernández-García(Instituto de Ciencias Agropecuarias, Universidad Autónoma del Estado de Hidalgo, Avenida Universidad 133, Colonia San Miguel Huatengo, Santiago Tulantepec de Lugo Guerrero 43775, Hidalgo, Mexico)、Alfredo Madariaga-Navarrete(Instituto de Ciencias Agropecuarias, Universidad Autónoma del Estado de Hidalgo, Avenida Universidad 133, Colonia San Miguel Huatengo, Santiago Tulantepec de Lugo Guerrero 43775, Hidalgo, Mexico)、Nallely Rivero-Pérez(Instituto de Ciencias Agropecuarias, Universidad Autónoma del Estado de Hidalgo, Avenida Universidad 133, Colonia San Miguel Huatengo, Santiago Tulantepec de Lugo Guerrero 43775, Hidalgo, Mexico)、César Uriel López-Palestina(Instituto de Ciencias Agropecuarias, Universidad Autónoma del Estado de Hidalgo, Avenida Universidad 133, Colonia San Miguel Huatengo, Santiago Tulantepec de Lugo Guerrero 43775, Hidalgo, Mexico)、Alma Delia Hernández-Fuentes(Instituto de Ciencias Agropecuarias, Universidad Autónoma del Estado de Hidalgo, Avenida Universidad 133, Colonia San Miguel Huatengo, Santiago Tulantepec de Lugo Guerrero 43775, Hidalgo, Mexico)、José Esteban Aparicio-Burgos(Escuela Superior de Apan, Universidad Autonoma del Estado de Hidalgo, Carretera Apan-Calpulalpan, Km 8, Chimalpa Tlalayote, Apan 43920, Hidalgo, Mexico)、Armando Peláez-Acero(Instituto de Ciencias Agropecuarias, Universidad Autónoma del Estado de Hidalgo, Avenida Universidad 133, Colonia San Miguel Huatengo, Santiago Tulantepec de Lugo Guerrero 43775, Hidalgo, Mexico)、Mariana Saucedo García(Instituto de Ciencias Agropecuarias, Universidad Autónoma del Estado de Hidalgo, Avenida Universidad 133, Colonia San Miguel Huatengo, Santiago Tulantepec de Lugo Guerrero 43775, Hidalgo, Mexico)、Adrián Zaragoza-Bastida(Instituto de Ciencias Agropecuarias, Universidad Autónoma del Estado de Hidalgo, Avenida Universidad 133, Colonia San Miguel Huatengo, Santiago Tulantepec de Lugo Guerrero 43775, Hidalgo, Mexico)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Adriana Hernández-García, Alfredo Madariaga-Navarrete, Nallely Rivero-Pérez, et al. Essential Oil of Rosmarinus officinalis L.: Phytochemical Composition, Antioxidant and Antibacterial Activity Against Multidrug-Resistant Strains Isolated from Cucumbers. Molecules 2026-10-14. DOI: 10.3390/molecules31203669. 原著ライセンス:CC BY.