著者の所属・活動拠点の国は、ペルー、フランスです。
掲載誌:Biosensors
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:果物のカドミウムを身近な装置で調べる
カドミウムは毒性があり、環境中に長く残って農地の土壌に蓄積し、そこから作物の可食部に入り込むことがあります。長期間の摂取は主に腎臓の働きや骨の代謝への悪影響と関連づけられており、食品中の量を監視することは公衆衛生上の課題とされています。欧州連合(EU)の規則では、マンゴーのカドミウム上限値は生鮮重量1kgあたり0.020mg、個別に定められていない果物は0.050mgとされています。
こうした微量金属の分析には、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)などの高感度な機器分析が使われています。ただし、論文によると、これらは設備の整った検査室、専門の人員、比較的高価な装置を必要とします。そこで、装置が小型で持ち運びやすく、使い捨て電極と組み合わせられる電気化学的な方法が、補完的なスクリーニング手段として注目されています。
研究チームは、市販のスクリーン印刷カーボン電極(印刷技術で作った小さな使い捨て電極)の表面を酸化グラフェンとシステアミンで修飾し、カドミウムを測定する方法を開発しました。さらに、その性能を標準溶液と、マンゴーおよびアボカドを分解した液で評価しました。
電極の工夫と調べた内容
酸化グラフェンは炭素原子が薄いシート状に並んだ材料で、表面積が大きく、カルボキシ基などの酸素を含む部分を持っています。システアミンは、一端にアミノ基、もう一端に硫黄を含むチオール基を持つ小さな分子です。研究チームは、化学的な結合反応でシステアミンのアミノ基を酸化グラフェンにつなぎ、硫黄を含む側を電極表面に向けて並べることを狙いました。カドミウムイオンは硫黄を含む部分と結びつきやすい性質があるため、電極付近にカドミウムを集めやすくなると考えられています。
測定には矩形波アノーディックストリッピングボルタンメトリーを用いました。これは、まず電圧をかけて溶液中の金属を電極表面に析出させて濃縮し、その後に電圧を変化させて金属を再び溶かし出す方法です。溶け出すときに流れる電流の大きさから濃度を求めるため、ごく微量の金属の測定に向いています。
研究チームはまず、酸化グラフェンにそのままシステアミンを結合させる作り方と、酸化グラフェンを電気化学的に還元してから結合させる作り方を比べました。あわせて、酸化グラフェンの濃度を0.1、0.2、0.5mg/mLの3段階で比較しました。選んだ電極については、カドミウム標準溶液に加え、ケント種のマンゴーとハス種のアボカドの果肉を分解した液に既知量のカドミウムを添加した試料でも評価しました。マンゴーは糖や有機酸、食物繊維、フェノール類を含み、アボカドは脂質を多く含みます。分解後もこうした成分の違いが測定に影響する可能性があるため、両方の果物で確かめる意義があります。
主な結果
比較の結果、酸化グラフェンを還元せずにそのままシステアミンを結合させた電極のほうが、大きな応答を示しました。著者らは、還元によって結合に使える酸素を含む部分が減ったためではないかと考えています。ただし、表面のシステアミンの量は直接測っていないため、これは観察結果と矛盾しない解釈にとどまるとしています。酸化グラフェンの濃度は、調べた中では0.2mg/mLのとき最も応答が大きくなりました。
標準溶液では、カドミウム濃度1〜10µg/Lの範囲で濃度に応じた電流が得られました。濃度と電流の関係の当てはまりを示す決定係数は0.9893でした。検出できる下限の目安である検出限界は0.25µg/L、定量できる下限の目安である定量限界は0.74µg/Lと報告されています。
カドミウムを添加したマンゴーとアボカドの分解液でも、濃度に応じた応答が保たれました。繰り返し測定のばらつきを示す相対標準偏差は5%未満でした。一方で、濃度に対する電流の増え方(検量線の傾き)は果物によって大きく異なり、測定結果が試料の種類に左右されることが示されました。乾燥させた試料1kgあたりに換算した検出限界と定量限界は、マンゴーで0.0278mgと0.0841mg、アボカドで0.00866mgと0.0262mgと見積もられています。
この研究が示すこと
この研究は、修飾した使い捨て電極が、水溶液の標準だけでなく、性質の大きく異なる2種類の果物の分解液でもカドミウム濃度に応じた信号を出せることを示しました。これは、複雑な食品試料に移すと応答を保ちにくいという電気化学的な食品分析の課題に取り組んだものです。
一方で著者らは、今回の数値はあくまで分析性能の指標であり、規制値に適合しているかどうかを示すものではないと強調しています。果物の値は乾燥重量あたりの換算です。生鮮重量で定められたEUの上限値と直接比べるには、果物の水分量を測る必要があります。さらに、分解前の段階での回収率の確認、他の金属イオンとの区別、電極ごとの再現性、既存の機器分析との比較などが必要だとしています。こうした検証を経るまでは規制目的の定量には使えないものの、果物中のカドミウムをスクリーニングする手法の有望な土台になると論文は結論づけています。
原著論文の著者・所属:Miguel Angel Lozada Rufino(Functional Foods and Bioengineering Research Group, National University of Frontera, Av. San Hilarión No. 101, Sullana 20101, Peru)、Eulogia Isabel Zapata Peña(Functional Foods and Bioengineering Research Group, National University of Frontera, Av. San Hilarión No. 101, Sullana 20101, Peru)、Gonzalo Manuel Delgado Valdiviezo(Functional Foods and Bioengineering Research Group, National University of Frontera, Av. San Hilarión No. 101, Sullana 20101, Peru)、Rosa Gisela Ortiz Castillo(Functional Foods and Bioengineering Research Group, National University of Frontera, Av. San Hilarión No. 101, Sullana 20101, Peru)、Grecia Xiomara Herrera Gavilan(Functional Foods and Bioengineering Research Group, National University of Frontera, Av. San Hilarión No. 101, Sullana 20101, Peru)、David César Ardiles Saravia(3R Aerospace & Nanotechnology, 38000 Grenoble, France)、Luis Alfredo Espinoza-Espinoza(Department of Engineering, National University of Barranca, Barranca 15169, Peru)、Karina Silvana Gutiérrez-Valverde(Functional Foods and Bioengineering Research Group, National University of Frontera, Av. San Hilarión No. 101, Sullana 20101, Peru)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Miguel Angel Lozada Rufino, Eulogia Isabel Zapata Peña, Gonzalo Manuel Delgado Valdiviezo, et al. GO/Cysteamine-Modified Screen-Printed Carbon Electrode for Square-Wave Anodic Stripping Voltammetric Determination of Cadmium in Fortified Mango and Avocado Digestates. Biosensors 2026-09-29. DOI: 10.3390/bios16100544. 原著ライセンス:CC BY.