著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:BULETIN OSEANOGRAFI MARINA

ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

インドネシア・南スマトラ州バニュアシン県のスンサン地区は、ムシ川の河口に位置する沿岸地域です。住民の多くが魚やエビ、カニなどの漁業に生計を頼っており、水揚げされた水産物は地元の食卓にも上ります。一方で、漁業や水上交通、密集した住宅地、産業活動によって、環境が汚染される恐れも指摘されてきました。

研究チームが注目したのは、重金属のカドミウムです。カドミウムは体に必要のない金属で、ごく低い濃度でも毒性を示します。体内に入ると特定の臓器に少しずつたまり、長くさらされるほど影響が深刻になるとされています。著者らは、日本の富山県で起きたイタイイタイ病を、汚染された食品からカドミウムを長期間取り込んだ例として紹介しています。

この地域で経済的価値の高いシャコの一種(Harpiosquilla raphidea)と、クルマエビ科のエビ「ウダン・ジェルブン」(Penaeus merguensis)については、カドミウム濃度の情報がこれまでありませんでした。そこで研究チームは、両種に含まれるカドミウムの濃度を測り、安全に食べられる量の目安を求めることを目的としました。

調べ方

試料は2025年10月に、スンサン周辺の大規模な仲買人から入手しました。大型のシャコとエビを扱う仲買人を意図的に選び、それぞれ約500グラムを購入しています。試料は氷を入れたクーラーボックスで鮮度を保ったまま研究室へ運ばれました。

研究室では殻と身を分け、身をミキサーで均一にすりつぶしました。これを約5グラムずつ5つに分けて、それぞれを繰り返し測定しています。分析はインドネシア国家規格(SNI 2354.5:2011)の手順に従いました。試料を高温で灰にして酸で溶かし、原子吸光分析という方法でカドミウム濃度を測定しています。原子吸光分析は、特定の元素が特定の波長の光を吸収する性質を使って、元素の量を調べる方法です。

安全な摂取量の目安は、次の3段階で計算されました。まず、国際機関FAO/WHOが示した「1週間に体重1キログラムあたり0.007ミリグラム」という暫定的な許容量を使います。これにインドネシアの成人の平均体重58キログラムを掛け、1週間に取り込んでよいカドミウムの上限を求めました。次に、この上限を各試料のカドミウム濃度で割り、1週間に食べてよいシャコやエビの重さを算出しました。最後に、その重さを7で割って1日あたりの量を出しています。

主な結果

シャコの身に含まれるカドミウムは、1キログラムあたり0.063〜0.082ミリグラムで、平均は0.0756ミリグラムでした。この値は、インドネシア食品医薬品監督庁の基準とEUの基準のどちらも下回っていました。研究チームは、シャコが海底の泥と密接に関わって暮らす生き物であることに触れています。そのうえで、以前の調査でこの海域の水中のカドミウム濃度は検出限界を下回っていたものの、海底の泥ではより高い濃度が測られていたことを挙げ、今回の検出との関連を示しています。

エビ(ウダン・ジェルブン)のカドミウム濃度は平均で1キログラムあたり0.48ミリグラムで、シャコより高い値でした。論文によると、この値は分析したすべての試料でインドネシアの国内基準を上回っていました。甲殻類に対するEUの上限値(1キログラムあたり0.50ミリグラム)と比べると、多くの試料は範囲内に収まっていました。ただし2つの試料は0.51ミリグラムで、わずかに上限を超えていました。著者らは、このエビが泥の多い海底で活発に餌を探すため、泥の粒子などに付いたカドミウムにさらされやすいのではないかと推測しています。

1週間に取り込んでよいカドミウムの上限は、0.406ミリグラムと計算されました。これをもとにすると、シャコでは1週間に平均約5.44キログラム、1日に平均約0.78キログラムまでが目安になります。著者らは慎重を期す場合として、1週間に4.95キログラム、1日に0.71キログラムを超えないことも示しています。これに対してエビでは、1週間に平均約0.85キログラム、1日に平均約0.12キログラムと、目安の量がシャコよりかなり少なくなりました。

この研究が示すこと

この研究は、同じ地域で水揚げされた水産物でも、種類によってカドミウムのたまり方が大きく異なることを示しました。シャコは基準を下回っていましたが、エビは国内基準を超える濃度で、安全に食べられる量の目安も狭くなりました。研究チームは、こうした結果から、スンサン沿岸の住民の健康を守るために、水産物の品質を定期的に監視し管理することが重要だと結論づけています。

原著論文の著者・所属:Wike Ayu Eka Putri(Departemen Ilmu Kelautan, Fakultas Matematika dan Ilmu Pengetahuan Alam, Universitas Sriwijaya, Indonesia)、Jeni Meiyerani(Departemen Ilmu Kelautan, Fakultas Matematika dan Ilmu Pengetahuan Alam, Universitas Sriwijaya, Indonesia)、Ryan Syekhan(Departemen Ilmu Kelautan, Fakultas Matematika dan Ilmu Pengetahuan Alam, Universitas Sriwijaya, Indonesia)、Anjar Puteri Liana(Departemen Ilmu Kelautan, Fakultas Matematika dan Ilmu Pengetahuan Alam, Universitas Sriwijaya, Indonesia)、Melki Melki(Departemen Ilmu Kelautan, Fakultas Matematika dan Ilmu Pengetahuan Alam, Universitas Sriwijaya, Indonesia)、Rozirwan Rozirwan(Departemen Ilmu Kelautan, Fakultas Matematika dan Ilmu Pengetahuan Alam, Universitas Sriwijaya, Indonesia)、Anna Ida Sunaryo Purwiyanto(Departemen Ilmu Kelautan, Fakultas Matematika dan Ilmu Pengetahuan Alam, Universitas Sriwijaya, Indonesia)、Riris Aryawati(Departemen Ilmu Kelautan, Fakultas Matematika dan Ilmu Pengetahuan Alam, Universitas Sriwijaya, Indonesia)、Gusti Diansyah(Departemen Ilmu Kelautan, Fakultas Matematika dan Ilmu Pengetahuan Alam, Universitas Sriwijaya, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Wike Ayu Eka Putri, Jeni Meiyerani, Ryan Syekhan, Anjar Puteri Liana, Melki Melki, Rozirwan Rozirwan, Anna Ida Sunaryo Purwiyanto, Riris Aryawati, Gusti Diansyah Kandungan Kadmium (Cd) dan Estimasi Batas Aman Konsumsi Udang Mantis (Harpiosquilla raphidea) dan Udang Jerbung (Penaeus merguensis) dari Kawasan Sungsang, Banyuasin, Sumatera Selatan. BULETIN OSEANOGRAFI MARINA 2026-08-05. DOI: 10.14710/buloma.v15i3.83522. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。