著者の所属・活動拠点の国は、エジプトです。
掲載誌:BMC Plant Biology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
テンサイ(砂糖大根)は、砂糖の自給と輸出拡大を目指すエジプトで重要な作物になっています。そのテンサイの葉に斑点を生じさせる「褐斑病(セルコスポラ葉斑病)」は、カビの一種セルコスポラ・ベティコラによって起こり、根に蓄えられるショ糖を最大で50%減らすことがあると論文は紹介しています。
この病気の対策は合成殺菌剤が中心ですが、著者らは、費用がかさみ続けること、残留による環境汚染、長年の使用で病原菌に耐性がつくことを問題として挙げています。そこで研究チームが注目したのが、抗菌性をもつとされる金属酸化物の微小な粒子、酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子と酸化マグネシウム(MgO)ナノ粒子です。
論文によれば、これら2種類のナノ粒子が褐斑病菌をどれだけ抑えるかを直接比べ、さらに温室と圃場(実際の畑)の両方で評価した研究はこれまでありませんでした。研究チームは2種類の粒子を合成し、菌への効果、病気の重さ、植物の防御反応、収量と糖分への影響をまとめて比較することを目的としました。
何を調べたか
研究チームはまず化学的な方法で2種類のナノ粒子を作り、その構造や大きさを確認しました。次に、培地上で育てた褐斑病菌に10、30、60、90 ppmの濃度で粒子を与え、菌糸(カビの糸状の体)の伸びがどれだけ抑えられるかを調べました。走査型電子顕微鏡で菌糸の形の変化も観察しています。
温室では90 ppmの粒子を使い、病気の重さを比較しました。あわせて、葉に含まれるフェノール化合物の量と、植物が病原体に対抗するときに働く3種類の酵素(ペルオキシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ)の活性を測りました。さらに2シーズンにわたる圃場試験で、病気の重さ、根の収量、根に含まれるショ糖や還元糖の量を調べました。
主な結果
培地上の試験では、どちらの粒子も試したすべての濃度で菌糸の成長を有意に抑え、濃度が高いほど抑制は強まりました。90 ppmでの抑制率は酸化亜鉛が52.08%、酸化マグネシウムが58.33%で、この試験では酸化マグネシウムの方が抑える力が強いと報告されています。顕微鏡観察では、処理した菌糸に厚みの増加やねじれ、膨らみやこぶ状の変形が見られ、著者らは粒子が菌の細胞壁を傷つけ、ストレスを与えていると推測しています。
温室試験では、病原菌を接種して何も処理しなかった株の病気の重さ(病害度)が89.48%だったのに対し、酸化亜鉛処理では50.00%、酸化マグネシウム処理では54.76%にとどまりました。植物体の外では酸化マグネシウムが優れていた一方、植物上では酸化亜鉛の方がよく病気を抑えたことになります。
防御反応については、処理した株のフェノール量や3種類の酵素活性は健全な株より高くなりました。ただし、感染しただけで処理していない株の値はそれよりさらに高く、論文は感染そのものが植物の強い防御反応を引き起こしていると説明しています。
2シーズンの圃場試験でも、どちらの粒子も無処理の感染区(病害度90.78%と92.58%)に比べて病気を有意に軽くし、両シーズンとも酸化亜鉛の方が効果的でした。根の収量(エジプトの面積単位フェダン当たり)は、無処理の感染区が6.382トンと7.875トンだったのに対し、酸化亜鉛処理区は10.118トンと11.707トンで、健全区(9.495トンと11.182トン)を上回る値でした。酸化マグネシウム処理区は8.873トンと10.044トンでした。
糖分では、無処理の感染区で還元糖が最も多く、ショ糖の割合が最も低くなりました(10.18%と11.59%。健全区は19.27%と19.77%)。著者らは、粒子で処理した区では感染区に比べてショ糖が有意に増え、還元糖が減ったと結論づけています。
研究が示すこと
この研究は、酸化亜鉛と酸化マグネシウムのナノ粒子がテンサイ褐斑病を抑え、病気による収量と糖分の損失を小さくしたことを、実験室から畑まで一貫して報告しています。また、培地上での強さと実際の植物上での効果の順位が入れ替わったことから、粒子の種類による違いを複数の段階で比べる意味も示されました。
著者らはこれらの粒子を従来の殺菌剤に代わる有望な選択肢と位置づけています。一方で、病気を抑える仕組みの一部は検証されておらず、長期的な環境への影響も調べていないこと、標準的な殺菌剤との直接比較をしていないことを限界として挙げ、大規模に使う前には環境評価が必要だとしています。
原著論文の著者・所属:Heba‑Alla S. AbdElfatah(Department of Plant Pathology, Faculty of Agriculture, Assiut University, Assiut, Egypt)、Nashwa M. A. Sallam(Department of Plant Pathology, Faculty of Agriculture, Assiut University, Assiut, Egypt. [email protected])、Hadeel M. M. Khalil Bagy(Department of Plant Pathology, Faculty of Agriculture, Assiut University, Assiut, Egypt)、Mohamed S. Mohamed(Department of Plant Pathology, Faculty of Agriculture, Assiut University, Assiut, Egypt)、Mennatallah M. A. El‑Geddawy(Department of Food Science and Technology, Faculty of Agriculture, Assiut University, Assiut, Egypt)、Rofida F. Moftah(Department of Food Science and Technology, Faculty of Agriculture, Assiut University, Assiut, Egypt)、Mohamed Abd El-Aal(Department of Chemistry, Faculty of Science, Assiut University, Assiut, Egypt. [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Heba‑Alla S. AbdElfatah, Nashwa M. A. Sallam, Hadeel M. M. Khalil Bagy, et al. Eco-friendly management of cercospora leaf spot disease in sugar beet using ZnO and MgO nanoparticles. BMC Plant Biology 2026-10-12. DOI: 10.1186/s12870-026-09965-x. 原著ライセンス:CC BY.