著者の所属・活動拠点の国は、クロアチアです。

掲載誌:Horticulturae

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的:ハーブの亜鉛を栽培中に増やせるか

タイムは料理や精油に使われるシソ科の香草で、抗酸化作用などをもつ成分を含むことで知られています。論文は研究の背景として、亜鉛などの微量栄養素の不足を挙げています。こうした不足は「隠れた飢餓」と呼ばれ、多くの人に影響する健康上の問題です。そのうえで論文は、栽培中の施肥によって作物の可食部に含まれる栄養素を増やす「農学的バイオフォーティフィケーション(栄養強化)」に注目しています。

研究チームは、酸化亜鉛(ZnO)のナノ粒子を葉に散布する方法を検討しました。調べたのは、散布によってタイムの地上部に亜鉛が濃度に応じて蓄積するかどうかです。あわせて、その際に生育や植物体の重さが損なわれないかどうか、他のミネラルの含量がどう変わるかも分析しました。

どのように調べたか

実験は、温度を約23℃に保った管理条件下で行われました。種から育てたタイムを鉢に植え替え、ZnOナノ粒子を水に分散させた液を葉に散布しました。濃度は1リットルあたり0、30、60、90ミリグラムの4段階です。0の区には蒸留水だけを散布し、比較対照としました。散布は7日おきに3回で、1回あたり1株に0.6ミリリットルを吹きかけました。著者らの計算では、1株に与えた亜鉛の総量は、濃度の低い順に約43、86、129マイクログラムにあたります。

最後の散布から7日後に収穫し、草丈、側枝の数、最も長い茎の長さ、生の重さ、乾燥後の重さを測りました。ミネラル分析の前には、葉の表面に残った散布液を除くため、植物を脱イオン水で洗っています。乾燥させた地上部について、亜鉛、鉄、銅、マンガン、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、ナトリウムの濃度を測定しました。さらに研究チームは「見かけの回収効率」を算出しました。これは、対照区と比べて増えた亜鉛吸収量が、与えた亜鉛量の何パーセントにあたるかを示す指標です。

主な結果:生育は変わらず、亜鉛は濃度に応じて増加

草丈や枝数、植物体の重さなどの形態的な特徴には、どの濃度でも統計的に意味のある差は見られませんでした。数値上は1リットルあたり60ミリグラムの区で草丈が最も高く、枝あたりの重さも最大でしたが、差は有意な水準に達していません。

一方、亜鉛濃度ははっきりと濃度に応じて増えました。乾燥重量1キログラムあたりの亜鉛は、対照区で31.83ミリグラムでした。30ミリグラム区では34.45ミリグラムとわずかな増加にとどまりました。60ミリグラム区では68.41ミリグラム、90ミリグラム区では99.94ミリグラムに達し、対照区のおよそ2.15倍と3.14倍になりました。1株あたりの亜鉛吸収量も、対照区の19.45マイクログラムから90ミリグラム区の59.42マイクログラムへと約3倍に増えました。

見かけの回収効率は、30ミリグラム区で2.70%と低い値でした。60ミリグラム区では28.92%、90ミリグラム区では31.02%に上がりましたが、60ミリグラムから90ミリグラムに濃度を上げても効率の伸びはわずかでした。著者らはこの結果から、与えた量に対する効率では60ミリグラムが優れていると考えています。植物の亜鉛含量を最大にしたい場合には90ミリグラムが向くとしています。

他のミネラルにも変化がありました。最も低い30ミリグラム区では、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、ナトリウムが全体としてほかの区より低い傾向を示しました。より高い濃度の区では、多くの元素が対照区と同程度か、それ以上の値に戻りました。ただしナトリウムは、60ミリグラム区でも対照区より有意に低い値でした。鉄と銅は処理によって大きく変わらず、亜鉛が大きく増えてもこれらの元素が減ることはなかったと報告されています。

研究が示すこと

この研究は、管理された栽培条件のもとで、ZnOナノ粒子の葉面散布によってタイムの地上部の亜鉛を大きく増やせることを示しました。その際、生育や植物体の重さに有意な低下は見られませんでした。また、効果は濃度によって大きく異なりました。著者らは、タイムにおける濃度ごとの具体的な目安を示した点に研究の意義があると述べています。

ただし著者らは、通常の亜鉛肥料と比べる処理区を設けていない点を限界として挙げています。そのため、今回の効果が「ナノ粒子という形」によるものか、単に亜鉛の供給が増えたためかは区別できません。散布液中の粒子の大きさや安定性も測定していません。研究チームはこれらを踏まえ、今回の結果を、葉面散布によるタイムの亜鉛強化に可能性があることを示したものと位置づけています。

原著論文の著者・所属:Ivana Varga(Faculty of Agrobiotechnical Sciences Osijek, University of Josip Juraj Strossmayer Osijek, Vladimira Preloga 1, 31000 Osijek, Croatia)、Monika Tkalec Kojić(Faculty of Agrobiotechnical Sciences Osijek, University of Josip Juraj Strossmayer Osijek, Vladimira Preloga 1, 31000 Osijek, Croatia)、Josipa Jović(Faculty of Agrobiotechnical Sciences Osijek, University of Josip Juraj Strossmayer Osijek, Vladimira Preloga 1, 31000 Osijek, Croatia)、Dejan Agić(Faculty of Agrobiotechnical Sciences Osijek, University of Josip Juraj Strossmayer Osijek, Vladimira Preloga 1, 31000 Osijek, Croatia)、Tomislav Vinković(Faculty of Agrobiotechnical Sciences Osijek, University of Josip Juraj Strossmayer Osijek, Vladimira Preloga 1, 31000 Osijek, Croatia)、Dario Iljkić(Faculty of Agrobiotechnical Sciences Osijek, University of Josip Juraj Strossmayer Osijek, Vladimira Preloga 1, 31000 Osijek, Croatia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ivana Varga, Monika Tkalec Kojić, Josipa Jović, et al. Foliar Application of ZnO Nanoparticles in Relation to Mineral Composition and Morphological Traits of Thyme (Thymus vulgaris L.). Horticulturae 2026-10-28. DOI: 10.3390/horticulturae12111333. 原著ライセンス:CC BY.