著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:European Food Research and Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:ジュース製造の副産物をパン素材に
りんごジュースを搾ったあとには、皮、果肉、種、軸からなる「搾りかす」が大量に残ります。著者らによると、加工時には元の果実の重さのおよそ25〜35%が搾りかすになり、適切に処理されなければ環境面・経済面の負担になり得ます。一方で、搾りかすは食物繊維を多く含み、抗酸化性をもつポリフェノール類も含むことから、食品素材としての活用が検討されてきました。
ただし、パンに搾りかすを多く加えると、パンがふくらみにくくなる、中身が硬くなる、色が濃くなるといった問題が起こりやすいことが知られています。小麦粉のグルテン(パンの骨格をつくるたんぱく質)が薄まることや、繊維が水を奪い合うことなどが原因とされます。
そこで研究チームは、乳酸菌の一種であるラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)で搾りかすを発酵させ、乾燥させて保存しやすい「タイプIIIサワー種」と呼ばれる素材にすることを試みました。サワー種とは、乳酸菌などで発酵させたパン生地の素で、タイプIIIはそれを乾燥させて安定化させたものです。この素材が、パンの栄養成分、抗酸化性、ふくらみや食感などの品質、カビが生えるまでの日持ちにどう影響するかを調べることが研究の目的です。
何を調べたか
研究チームは、ブラジルの企業から提供されたりんごの搾りかすを乾燥・粉砕して粉にし、その成分や性質を調べました。次に、この粉に水を加えて乳酸菌で30℃・48時間発酵させ、凍結乾燥して搾りかすサワー種をつくりました。比較のため、小麦粉を同じ乳酸菌で発酵させたサワー種も用意しました。
パンは、小麦粉だけの基本のパンに加えて、小麦粉の15%または20%を「発酵させていない搾りかすの粉」または「搾りかすサワー種」に置き換えたものなどを焼きました。さらに、市販のパンで使われる保存料のプロピオン酸カルシウムを0.1%加えたパンも、日持ちの比較基準として用意しました。これらのパンについて、水分・灰分(ミネラル分の目安)・脂質・たんぱく質などの成分、酸性度、微生物が利用できる水の目安となる「水分活性」、焼成時の重量減少、体積、硬さなどを測定しました。
なお著者らは、置き換え量を2段階にしたのは量による違いを見るためであり、最適な配合量を決めるためではないと述べています。また、パンの中で乳酸菌が生きているかどうかは調べていません。
主な結果
乾燥した搾りかすの粉は、100gあたり53.65gの食物繊維を含み、1gあたり10.45gの水を抱え込む高い保水力を示しました。粉の平均粒径は0.27mmで、細かい粉に分類されます。
発酵の様子は原料によって大きく異なりました。小麦粉のサワー種では酸性度がはっきりと上がったのに対し、搾りかすのサワー種では酸性化はわずかにとどまりました。それでも著者らは、乳酸菌が搾りかすの中でも活動し、測定できる変化をもたらしたと報告しています。
パンでは、搾りかすを加えたものはいずれも水分量が増えましたが、水分活性は基本のパンと有意な差がなく、0.964〜0.970の範囲に収まりました。著者らは、増えた水の多くが繊維に結びついた状態で保持されていると解釈しています。搾りかすサワー種を使ったパンは、基本のパンや発酵させていない搾りかすのパンより酸性寄りになり、灰分と脂質の値も高くなりました。一方、発酵させていない搾りかすを20%使ったパンでは、脂質とたんぱく質が基本のパンより低くなりました。
品質面では、搾りかすを加えたパンはいずれも基本のパンより体積が小さくなりました。焼いたときの重量減少は多くの場合で小さくなりましたが、硬さはやわらぎませんでした。特に搾りかすサワー種を20%使ったパンは最も硬く(44.11N)、発酵させていない搾りかすを20%使ったパン(19.91N)の2倍以上でした。著者らは、発酵による変化だけでは、グルテンが薄まることや繊維が生地の構造を妨げることの影響を打ち消せなかったとみています。
日持ちについて著者らは、搾りかすを加えたパンでカビが生えるまでの期間が延びたことを受け、発酵前と発酵後の搾りかすから得た抽出液が、パンから分離したカビの生育を抑えるかどうかも調べています。
研究から見えること
この研究は、ジュース製造で生じるりんごの搾りかすを、乳酸菌で発酵させて保存しやすいサワー種素材に変え、パンづくりに使えるかを多面的に検討したものです。搾りかすは繊維と保水力に富み、発酵させることでパンの成分や酸性度に変化をもたらした一方、パンのふくらみや柔らかさを保つという課題は発酵だけでは解決しなかったことが示されました。食品副産物を活用する際には、栄養や日持ちへの効果と、パンとしての品質とのバランスを見ながら配合を調整する必要があることを伝える結果といえます。
原著論文の著者・所属:Josemar Salete de Castro(Institute of Food Science and Technology, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenida Bento Gonçalves, 9500, Campus do Vale, Building: 43212, Porto Alegre, RS, 91501-970, Brazil)、Bruna Tischer(Institute of Food Science and Technology, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenida Bento Gonçalves, 9500, Campus do Vale, Building: 43212, Porto Alegre, RS, 91501-970, Brazil)、Fabíola Ayres Cacciatore(Institute of Food Science and Technology, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenida Bento Gonçalves, 9500, Campus do Vale, Building: 43212, Porto Alegre, RS, 91501-970, Brazil)、Fernanda Cortez Lopes(Department de Biophysics, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenida Bento Gonçalves, 9500, Campus do Vale, Building: 43431, Porto Alegre, RS, 94501-970, Brazil)、Jasmim Dalmás Lopes(Institute of Food Science and Technology, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenida Bento Gonçalves, 9500, Campus do Vale, Building: 43212, Porto Alegre, RS, 91501-970, Brazil)、Rafael Almeida de Mello(Institute of Food Science and Technology, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenida Bento Gonçalves, 9500, Campus do Vale, Building: 43212, Porto Alegre, RS, 91501-970, Brazil)、Thaís Benincá(Institute of Food Science and Technology, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenida Bento Gonçalves, 9500, Campus do Vale, Building: 43212, Porto Alegre, RS, 91501-970, Brazil)、Bruna Lise Tusset(Department de Biophysics, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenida Bento Gonçalves, 9500, Campus do Vale, Building: 43431, Porto Alegre, RS, 94501-970, Brazil)、Rodrigo Bassani Lopes(Department de Biophysics, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenida Bento Gonçalves, 9500, Campus do Vale, Building: 43431, Porto Alegre, RS, 94501-970, Brazil)、Patrícia da Silva Malheiros(Institute of Food Science and Technology, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenida Bento Gonçalves, 9500, Campus do Vale, Building: 43212, Porto Alegre, RS, 91501-970, Brazil)、Roberta Cruz Silveira Thys(Institute of Food Science and Technology, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenida Bento Gonçalves, 9500, Campus do Vale, Building: 43212, Porto Alegre, RS, 91501-970, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Josemar Salete de Castro, Bruna Tischer, Fabíola Ayres Cacciatore, et al. Upcycling apple pomace into a type III sourdough ingredient: effects on nutritional quality, antioxidant activity and bread shelf-life. European Food Research and Technology 2026-10-20. DOI: 10.1007/s00217-026-05333-z. 原著ライセンス:CC BY.