著者の所属・活動拠点の国は、チリ、スペインです。

掲載誌:Gels

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

揚げ物では、油が150℃を超える高温に繰り返しさらされます。その間に油は酸化や加水分解などの反応で劣化していきます。エキストラバージンオリーブオイルは、酸化しにくいオレイン酸が多く、抗酸化成分も含むため、揚げ油として有望とされています。それでも、長時間の加熱や繰り返しの使用では劣化を避けられません。

そこで注目されているのが「オレオゲル化」です。液体の油に少量のワックスなどを加え、内部に結晶の網目をつくって半固体にする技術です。研究チームは、エキストラバージンオリーブオイルに重量比6%の蜜ろうを加えたオレオゲルを用意しました。この網目が酸素の入り込みや分子の動きを抑え、揚げ物を繰り返す条件で劣化を遅らせるのかを調べました。また、その保護効果がいつまで続くのかも検討しています。

どのように調べたか

著者らは、家庭用の電気フライヤーを使い、約180℃でフライドポテトを揚げる試験を行いました。比較したのは、蜜ろうで固めたオレオゲルと、何も加えないエキストラバージンオリーブオイルです。1日の加熱は計60分で、食材を入れない加熱5分と揚げ10分を交互に繰り返しました。加熱後は油を自然に冷ましてフライヤー内で保管し、この流れを6日分の加熱量に達するまで続けています。途中で新しい油は足していません。

劣化の度合いは、複数の指標で追跡しました。総極性化合物は、劣化で生じる成分の総量を示し、多くの国で揚げ油の品質基準に使われています。そのほか、加水分解の目安となる酸価、紫外線の吸収から見る酸化生成物、アルデヒドなど二次的な酸化生成物を示すp-アニシジン価を測りました。さらに、赤外分光による分子構造の変化、加熱分解が始まる温度、ゲルの硬さや弾力も調べています。最後に、これらの結果を主成分分析という統計手法でまとめ、劣化の進み方を「軌跡」として描きました。

主な結果

研究チームは、劣化が二段階で進んだと報告しています。最初の1〜3日目は、オレオゲルで一次・二次の酸化生成物の増え方が遅く、総極性化合物と酸価も無処理の油より明らかに低く保たれました。たとえばp-アニシジン価は、この期間のオレオゲルで15前後にとどまりました。一方、無処理の油は50近い値から始まり、劣化が大きかったとされています。著者らは、蜜ろうの結晶の網目が物理的な障壁となり、酸素の拡散や分子の動きを制限したためだと解釈しています。

ところが、加熱を繰り返すうちに、ゲルの網目そのものが熱と力の負担で傷んでいきました。論文はこれを「熱機械的疲労」と呼んでいます。6日目には硬さや凝集性が下がり、ゲルの弾力(変形から元に戻る力)は85.9%から14.9%まで落ちました。4日目を境に網目が大きく崩れて障壁が失われ、劣化が加速したとされています。5〜6日目には、オレオゲルの劣化は無処理の油と同程度の水準に追いつきました。赤外分光でも、6日目には両者の分子構造の変化がほぼ同じ状態に収束していました。

加熱分解が始まる温度は、試験前でオレオゲルが397℃、無処理の油が388℃でした。分解が最も速く進む温度も、オレオゲルのほうが高い値でした。6日目に両者とも低下しましたが、オレオゲルの値は試験前の無処理の油をなお上回っていました。著者らはこれを、網目による保護が一部残っていることを示すものと述べています。主成分分析でも、オレオゲルは初期に劣化の少ない領域にとどまり、4日目に急に劣化側へ移る様子が示されました。

この研究が示すこと

この研究は、蜜ろうでエキストラバージンオリーブオイルを固めると、揚げ物の初期段階で油の酸化や劣化を大きく遅らせられることを示しました。同時に、その効果はゲルの網目が壊れるまでの期間に限られることも明らかにしています。著者らは、保護効果の限界が網目の機械的な強さで決まることを示した点に、この研究の意義があるとしています。高温で使う食品向けの油の設計を考えるうえで、網目がいつ、どのように崩れるかを理解することが重要だと結論づけています。

原著論文の著者・所属:Marcos Flores-García(Departamento de Horticultura, Facultad de Ciencias Agrarias, Universidad de Talca, Campus Lircay, Talca 3460000, Chile)、Vilma Quitral(Department of Analytical Chemistry, Nutrition and Food Science, Food Technology Division, School of Veterinary Sciences, University of Santiago de Compostela, Campus Lugo, 27002 Lugo, Spain; Escuela de Nutrición y Dietética, Facultad de Salud, Universidad Santo Tomás, Santiago 8370003, Chile)、Verónica Olate-Olave(Instituto de Investigación Interdisciplinaria, Universidad de Talca, Talca 3460000, Chile)、Carolina Barros(Departamento de Horticultura, Facultad de Ciencias Agrarias, Universidad de Talca, Campus Lircay, Talca 3460000, Chile)、Roberto Quiroz(Departamento de Horticultura, Facultad de Ciencias Agrarias, Universidad de Talca, Campus Lircay, Talca 3460000, Chile)、Cristian Valdés(Centro de Investigación de Estudios Avanzados del Maule, Vicerrectoría de Investigación y Postgrado, Universidad Católica del Maule, Avda. San Miguel 3605, Talca 3466706, Chile)、Yaneris Mirabal(Institute of Applied Sciences, Faculty of Engineering, Universidad Autónoma de Chile, 5 Poniente, 1670, Talca 3460000, Chile)、Jaime Ortiz-Viedma(Departamento de Ciencia de los Alimentos y Tecnología Química, Facultad de Ciencias Químicas y Farmacéuticas, Universidad de Chile, Santiago 8330111, Chile)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Marcos Flores-García, Vilma Quitral, Verónica Olate-Olave, et al. Impact of Beeswax Oleogelation on the Physicochemical Stability of Extra Virgin Olive Oil During Deep-Frying. Gels 2026-10-29. DOI: 10.3390/gels12110986. 原著ライセンス:CC BY.