著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
急性膵炎は、膵臓に急な炎症が起こる病気で、経過は患者によって大きく異なります。かつては、食事をとると膵臓の分泌が刺激されて炎症が悪化すると考えられ、患者に食事を控えさせることが一般的でした。現在では、体が受け付けるのであれば早めに栄養摂取を始めることが推奨されるようになっています。
ここでいう「経腸栄養」とは、口から食べる方法や、管を使って胃腸に栄養を送る方法など、消化管を通して栄養をとることを指します。早めの栄養開始を支持する報告は増えていますが、軽症から中等症の急性膵炎で、経腸栄養を始める時期が入院中の経過とどう関係するかは、まだはっきりしていません。研究チームは、入院後早めに経腸栄養を始めた患者と、遅れて始めた患者とで、回復や合併症に違いがあるかを調べました。
何を調べたか
研究チームは、ひとつの病院に2022年1月から2025年12月までに入院した成人の急性膵炎患者650人の診療記録を、後からさかのぼって分析しました。対象は、臓器の機能不全が続くような重症例を除いた、軽症または中等症の患者です。
患者は、入院から48時間以内に経腸栄養を始めた「早期群」392人と、48時間より後に始めた「遅延群」258人に分けられました。主な評価項目は入院日数です。ほかに、腹痛がおさまるまでの日数、必要な栄養量の75%以上をとれるようになるまでの日数、吐き気や腹部の張りなどで食事を減らしたり止めたりする必要が生じる「摂食不耐」、合併症、集中治療室(ICU)への移動なども比較しました。
二つの群の違いが栄養開始の時期以外の要因によるものでないかを確かめるため、年齢、病気の重さ、入院時の炎症の強さ、栄養状態、吐き気の有無など12の要因を考慮した統計解析も行いました。
主な結果
まず、栄養開始が遅れた患者には、入院時の状態が悪い傾向がありました。遅延群では、中等症の割合、吐き気や嘔吐のある人の割合、栄養不良のリスクが高い人の割合が高く、炎症の目安となる血液中のCRPも高い値でした。栄養状態の指標である血清アルブミンは低い値でした。解析の結果、吐き気・嘔吐、中等症であること、CRPの高さ、栄養リスク、低アルブミン血症が、いずれも開始の遅れと関連していました。
入院中の経過を比べると、入院日数の中央値は早期群が5.5日、遅延群が7.4日でした。腹痛がおさまるまでの日数(2.0日と2.7日)、十分な栄養量をとれるようになるまでの日数(2.4日と3.5日)も早期群のほうが短く、摂食不耐が起きた割合も早期群8.7%、遅延群18.6%と低い結果でした。合併症やICUへの移動も早期群で少なかった一方、院内死亡と30日以内の再入院には統計的に意味のある差はみられませんでした。
さまざまな要因を考慮した解析でも、早期の経腸栄養は入院日数が約1.21日短いことと関連していました。摂食不耐が起こるオッズ(起こりやすさの指標)はおよそ半分でした。腹痛の再発・悪化、全身性の合併症、ICUへの移動もオッズが低い結果でした。ただし著者らは、ICUへの移動のように件数の少ない項目や、複数調べた副次的な項目については、探索的な結果として慎重に解釈すべきだとしています。
研究が示すこと
著者らは、軽症から中等症の急性膵炎では、入院から48時間以内の経腸栄養開始が、より早い回復や合併症の少なさと独立して関連していたと結論づけ、患者が受け付けられる場合には早期開始を支持する結果だとしています。
一方で、この研究は過去の記録を分析した観察研究であり、示されたのは関連であって、早く始めたことが回復を早めたという因果関係を確かめたものではありません。著者ら自身も、栄養開始の時期は病気の重さや胃腸の状態を反映している可能性があると述べています。それでも、日常診療の大規模なデータから、栄養を始める時期と入院中の経過の結びつきを具体的に示した点に、この研究の意味があります。
原著論文の著者・所属:Dan Song(Hepatobiliary Surgery, The Second Affiliated Hospital of Hainan Medical University)、Wenyuan Song(Hepatobiliary Surgery, The Second Affiliated Hospital of Hainan Medical University)、Peng Li(Hepatobiliary Surgery, The Second Affiliated Hospital of Hainan Medical University)、Hongyan Zhao(Hepatobiliary Surgery, The Second Affiliated Hospital of Hainan Medical University)、Xiaoting Lv(Department of Pathology, The Second Affiliated Hospital of Hainan Medical University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dan Song, Wenyuan Song, Peng Li, et al. Timing of enteral nutrition and clinical outcomes in mild-to-moderate acute pancreatitis: a retrospective cohort study. Frontiers in Nutrition 2026-10-29. DOI: 10.3389/fnut.2026.1970737. 原著ライセンス:CC BY.