著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:Juvenil Jurnal Ilmiah Kelautan dan Perikanan
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:缶詰になるまで魚を冷たく保てているか
魚は傷みやすい食品で、温度が上がると酵素の働き、脂質の酸化、微生物の増殖が進み、品質が落ちやすくなります。そのため水産加工では、原料を受け入れてから加工に入るまで低温を途切れさせない「コールドチェーン(低温流通・管理の連鎖)」が重視されます。その中心になるのが、冷蔵・冷凍設備などの「コールドストレージ(低温貯蔵設備)」です。
インドネシアでは、イワシの仲間であるレムル(学名 Sardinella longiceps)が、保存性を高めて広い市場へ届けるために缶詰に加工されています。研究チームは、バリ島にある缶詰工場の加工工程を対象に、コールドストレージがコールドチェーンの中でどう使われているかを評価しました。具体的には、温度を管理すべき工程(温度管理点)、低温設備の活用状況、運用上の課題の3点を調べています。
調べ方:工程ごとの温度測定と現場の聞き取り
調査は2025年3月から5月にかけて行われました。著者らは生産現場を直接観察し、加工の各工程で魚や工程で使う水の温度を測定しました。あわせて、経営者やコールドストレージの技術者への聞き取り、社内の生産記録・資料の確認、設備の評価も行っています。数値データと聞き取りによる情報を組み合わせて、工程の実態を描き出す記述的な研究です。
評価の基準には、主に企業が定める温度の管理基準が使われました。さらに、食品安全マネジメントの国際規格や、インドネシア国内の水産加工に関する規定なども参照されています。
主な結果:加熱前の工程で魚は5℃未満に保たれていた
論文によると、この工場のコールドチェーンは、原料の受け入れから「プレクッキング(缶に詰めた魚を最初に加熱する予備加熱)」の直前まで続いています。受け入れ、切断、洗浄、缶への充填という各工程で、魚の平均温度は3.26〜3.55℃の範囲にありました。いずれも企業の管理基準である5℃未満を満たしていたと報告されています。原料を洗う水の平均温度は2.54℃で、洗浄によって魚が温まるのを防ぐ役割も果たしていたと著者らは述べています。
工場では、生の魚を一時保管する冷蔵設備(0〜4℃)、長期保管用の冷凍庫(−18〜−20℃)、急速冷凍を行うブラストフリーザー(−30〜−40℃)、生産ラインに送る前の待機場所となる冷蔵室(0〜4℃)が使われていました。これらに加え、温度を常時記録し、異常時に警報を出す監視システムも備えています。冷蔵室は、先に入れた原料から使う「先入れ先出し」の運用にも役立っていると説明されています。研究チームは、これらの設備が組み合わさって働くことで、加熱前の原料温度が安定して保たれていたと評価しています。
プレクッキング以降は、温度管理の目的が「鮮度を保つこと」から「加熱によって安全性を確保すること」へ切り替わります。報告された平均温度は、プレクッキングが85.71℃、殺菌が117℃、殺菌後の冷却が33.14℃でした。いずれも企業の定める運用条件に沿っていたとされています。
一方で、課題も挙げられています。冷凍・冷蔵設備のエネルギー消費、設備の保守、原料在庫の管理、出荷・流通時の温度管理の4点は、今後も注意が必要な点として指摘されました。論文では、保管量が多すぎること、扉を頻繁に開け閉めすること、作業手順が守られないことなども、温度の変動につながりうる要因として整理されています。
この研究が示すこと
この研究は、一つの缶詰工場を例に、低温設備と工程ごとの温度管理を組み合わせることで、魚を加熱工程に入るまで低温に保てることを現場の測定値で示しました。著者らは、コールドストレージの適切な運用が、原料の品質と製品の安全を支える要になっていると結論づけています。同時に、良い設備があるだけでは十分ではありません。エネルギー、保守、在庫、流通という日々の運用面が、低温管理の連続性を左右することも示されています。
原著論文の著者・所属:I Made Aditya Nugraha(Politeknik Kelautan dan Perikanan Kupang)、Anis Khairunnisa(Politeknik Kelautan dan Perikanan Jembrana)、Mahaldika Cesrany(Politeknik Kelautan dan Perikanan Jembrana)、I Gusti Made Ngurah Desnanjaya(Insitut Bisnis dan Teknologi Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):I Made Aditya Nugraha, Anis Khairunnisa, Mahaldika Cesrany, et al. Evaluation of the Application of Cold Storage in the Cold Chain System in the Canning Process of Lemuru Fish (Sardinella longiceps) in Bali. Juvenil Jurnal Ilmiah Kelautan dan Perikanan 2026-07-30. DOI: 10.21107/juvenil.v7i3.29960. 原著ライセンス:CC BY.