著者の所属・活動拠点の国は、チェコ、ポーランドです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
イワシ(サーディン)やスプラット(ニシン科の小魚)のような小型の回遊魚は、ヨーロッパで缶詰や燻製などとして広く食べられています。こうした小魚は、骨や内臓ごと丸ごと食べられたり加工されたりすることがあり、筋肉(身)だけを調べた場合とは異なる食品として、安全性の確認が必要になります。
魚に含まれる汚染物質の中でも、水銀は重要な監視対象とされています。水中で水銀はメチル水銀という形に変わりやすく、食物連鎖を通じて生物に蓄積します。メチル水銀は体に吸収されやすく毒性が高い形で、人が水銀を取り込む主な経路は魚の摂取だと説明されています。
一方で、調理によって魚の水分や脂質の量が変わると、水銀そのものの量が変わらなくても、重さあたりの濃度の数字は変わって見えることがあります。また、これまでの研究の多くは総水銀だけを測るか、身の部分だけを分析していました。そこで研究チームは、内臓を含む丸ごとの魚を対象に、調理法、魚の種類、濃度の表し方によって水銀の測定値と見え方がどう変わるかを調べました。
何を調べたか
著者らは、地中海産(モロッコ)のイワシとバルト海産(ポーランド)のスプラットを、内臓を含む丸ごとの状態で使いました。それぞれ一つの商業ロットから、生のままのものと、家庭的な4種類の調理(10分間ゆでる、20分間蒸す、180℃のオーブンで20分焼く、180℃の菜種油で5分揚げる)をしたものを用意し、すりつぶして均一な試料にしました。
測定したのは、すべての形の水銀を合わせた総水銀、メチル水銀、そして無機水銀の一種である2価水銀です。結果は三つの基準で示されました。食べる状態のままの重さあたりの濃度(湿重量基準)、水分を除いた固形分あたりの濃度(乾燥重量基準)、そして食べる状態の魚100gに含まれるメチル水銀の量です。100gあたりの値は比較のための目安で、実際の摂取量や体内に吸収される量を示すものではないと論文は説明しています。
なお、各組み合わせは一つにまとめた試料で調べられており、繰り返し測定は同じ試料からの分析上の反復です。そのため著者らは、結果を一つのロット内での記述的な比較として位置づけています。
主な結果
調理によって魚の水分量は大きく変わりました。固形分の割合は揚げた試料、特にスプラットで最も高く、ゆでた試料では比較的低くなりました。
総水銀濃度は、食べる状態の重さあたりで1gあたり0.0207〜0.0408マイクログラムでした。すべての試料が、EUがイワシとスプラットに定める水銀の最大基準値(1kgあたり0.30ミリグラム)を下回っていました。
水分を除いた固形分あたりで比べると、魚の種類によって傾向が異なりました。イワシでは生の試料の総水銀濃度が最も低く、ゆでた試料が最も高くなりました。スプラットでは逆に、生の試料が最も高く、揚げた試料が最も低くなりました。メチル水銀はすべての試料で検出され、対応する調理法どうしで比べると、おおむねイワシの方がスプラットより高い値でした。2価水銀は大半の試料で検出できる下限を下回り、検出されたのは焼いたイワシと蒸したイワシだけでした。
総水銀に占めるメチル水銀の見かけの割合は、生のスプラットで25.1%と最も低く、それ以外の試料では52.6〜67.1%でした。また、生のスプラットは生のイワシより総水銀は多い一方、メチル水銀は少なく、総水銀の値だけではメチル水銀の量を推し量れない場合があることが示されました。
表し方による違いも目立ちました。揚げたスプラットは固形分あたりのメチル水銀濃度がスプラットの中で最も低かったのに、100gあたりの量では最も多くなりました(1.79マイクログラム)。揚げることで水分が減り、同じ100gに含まれる固形分が多くなったためと説明されています。イワシでも、固形分あたりの濃度が最も高かったのはゆでた試料でしたが、100gあたりの量が最も多かったのは焼いた試料(2.35マイクログラム)でした。
研究が示すこと
著者らは、調べた調理法のいずれも、両方の魚で総水銀とメチル水銀を一貫して減らすことはなかったと報告しています。調理後に見られた違いは、水銀が化学的に別の形へ変化したことを示すものではなく、水分や脂質など魚の成分が変わったことによる濃度の見え方の違いとして説明する方が妥当だと論文は述べています。ゆで汁や揚げ油、調理中に出た汁は分析していないため、水銀が魚に残ったのか、調理媒体へ移ったのかは区別できないとしています。
この研究は、内臓を含む丸ごとの小魚では、身だけを調べた場合とは水銀の構成が異なりうること、そして同じ試料でも、どの基準で濃度を表すかによって調理法の影響の見え方が変わることを示しています。魚の水銀を評価する際には、総水銀だけでなくメチル水銀を直接測り、濃度の表し方をそろえて解釈することの大切さを伝える研究です。
原著論文の著者・所属:Petr Smid(Department of Chemistry, Faculty of Agrobiology, Food and Natural Resources, Czech University of Life Sciences Prague, Kamycka 129, 165 00 Prague, Czech Republic)、Lukas Praus(Department of Agroenvironmental Chemistry and Plant Nutrition, Faculty of Agrobiology, Food and Natural Resources, Czech University of Life Sciences Prague, Kamycka 129, 165 00 Prague, Czech Republic)、Barbora Lampova(Department of Microbiology, Nutrition and Dietetics, Faculty of Agrobiology, Food and Natural Resources, Czech University of Life Sciences Prague, Kamycka 129, 165 00 Prague, Czech Republic)、Matyas Orsak(Department of Chemistry, Faculty of Agrobiology, Food and Natural Resources, Czech University of Life Sciences Prague, Kamycka 129, 165 00 Prague, Czech Republic)、Aneta Kopec(Department of Human Nutrition and Dietetics, Faculty of Food Technology, University of Agriculture in Kraków, Balicka 122, 30-149 Kraków, Poland)、Ivo Doskocil(Department of Microbiology, Nutrition and Dietetics, Faculty of Agrobiology, Food and Natural Resources, Czech University of Life Sciences Prague, Kamycka 129, 165 00 Prague, Czech Republic)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Petr Smid, Lukas Praus, Barbora Lampova, et al. Effects of Common Cooking Methods on Total Mercury and Methylmercury in Sardines and Sprats. Foods 2026-08-11. DOI: 10.3390/foods15162802. 原著ライセンス:CC BY.