この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:SEPA Jurnal Sosial Ekonomi Pertanian dan Agribisnis
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的と対象
インドネシアにとってカカオは重要な農産物のひとつで、著者らによれば同国の主要輸出品目のなかで第4位に位置づけられています。地域レベルでは、バリ州のカカオ生産量は年間4,736トンで、そのうちジェンブラナ県が2,943トンと最も大きな割合を占めていると報告されています。
この研究が取り上げたのは、ジェンブラナ県ペクタタン郡グンブリ村にある「サリ・ブミ加工ユニット(UPH)」です。1998年に設立された農民グループが運営し、2016年にバリ州政府からの機械支援を受けて加工を開始しました。カカオペースト、カカオバター、ココアパウダー、チョコレートバーなどを製造しています。著者らは、この加工ユニットの操業にどのようなリスクが潜んでいるかを段階ごとに洗い出し、優先順位をつけ、そのうえで対処計画を立てることを目的として研究を行いました。
背景として著者らが挙げているのは、原料供給の不安定さです。機械の処理能力を十分に使うには年間およそ20トンの原料が必要とされる一方、UPH会員の農園から得られるカカオは年間10トン程度にとどまり、不足分はグループ外の農家からの調達で補われてきました。このほか、機械の能力の限界や保守の問題、加工の専門的な技能を十分に持たない作業者がいることも、リスクの源として指摘されています。
どのように調べたか
著者らは、2023年10月から2024年1月にかけて現地で調査を行いました。UPHの責任者と従業員2名の計3名を対象に聞き取りを行い、あわせて4か月にわたる現地観察、関係者とのブレインストーミング、文献の検討を組み合わせています。論文では、このUPHが従業員4名の小規模な組織であるため、業務全体に直接関わる人物から深く聞き取ることを重視し、3名で必要な情報が得られたと説明されています。
分析にはFMEA(故障モード影響解析)という手法が用いられました。これは、起こりうる不具合をひとつずつ取り上げて評価する方法です。具体的には、あるリスクが起きたときの影響の大きさ(深刻度)、それが起こる頻度(発生度)、事前に気づける度合い(検出度)の三つを、それぞれ1から10の尺度で評価します。この三つを掛け合わせた値がリスク優先度指数(RPN)で、1から1000の範囲をとります。得られたRPNをもとに、リスクは「広く許容できる」「合理的に実行可能な範囲でできるだけ低く(ALARP)」「許容できない」の三段階に分類されます。なお、評価は2022年の1年間にリスクがどの程度の頻度で起きたかを踏まえて行われたと記されています。
報告された主な結果
著者らは、計画、調達、生産、販売、配送、返品という一連の段階にわたって16件のリスク事象を特定しました。RPNの値は最も低いもので7、最も高いもので624でした。
リスクの原因(リスクエージェント)ごとに集計したところ、最も高いRPNを示したのは収穫期がないこと(624)で、次いで作業者の不注意(531)、競合他社の存在(392)が続き、この三つが「許容できない」に分類されました。また、取引業許可(SIUP)の不在(430)、資本の不足(394)、発酵乾燥カカオ豆の品質が不十分であること(248)はALARPに分類され、こちらも計画的な対処が必要とされています。一方、製品の不一致や配送の遅れは、影響は小さくないものの頻度が低く検出も比較的容易であるとして、RPNは7から8にとどまりました。
論文では、資本の不足が原料調達の遅れ、機械修理の先送り、BPOM(インドネシアの食品医薬品監督機関)登録の遅延といった複数の場面に影響していること、作業者の不注意が焙煎・テンパリング・混合など複数の工程で繰り返し現れることも指摘されています。
これらを踏まえて著者らが提案した対処策には、調達先を複数の地域の農家へ広げること、農家と数量・価格・収穫時期についての購入契約を結ぶこと、作業者への訓練と報奨・懲戒の仕組みを導入すること、標準作業手順を定めることが含まれます。また、工場がUPHではなくバリ州農業食料安全保障局の所有であるためSIUPを持てない事情に対しては、その代替として事業識別番号(NIB)を取得することが挙げられています。論文によれば、NIBはオンラインで手続きでき、輸出に必要な書類の要件を満たすほか、金融機関からの資金調達を得やすくする役割を持つとされています。
この研究が示すこと
この研究は、小規模なカカオ加工の現場が抱える困難を、印象や経験則ではなく段階ごとの数値として並べ直した点に意味があります。原料が手に入らないこと、人の手作業での取りこぼし、そして原料をめぐる競争という三つが最も重い課題として浮かび上がり、一方で書類上の許認可の不在が資金調達と輸出の両方を塞いでいるという構図も示されました。
限られた人と資金で動く組織にとって、どこから手をつけるべきかを見極めることは容易ではありません。著者らは、リスクを体系的に洗い出して順位づけることが、その判断を場当たり的なものから計画的なものへと変える出発点になると論じています。
著者:Ni Luh Prima Kemala Dewi(Fakultas Pertanian, Universitas Udayana)、Putu Gita Nanda Savitri(Fakultas Pertanian, Universitas Udayana)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ni Luh Prima Kemala Dewi, Putu Gita Nanda Savitri RISK ANALYSIS IN COCOA BUSINESS OF THE SARI BUMI PROCESSING UNIT (UPH) IN GUMBRIH VILLAGE, PEKUTATAN DISTRICT, JEMBRANA REGENCY. SEPA Jurnal Sosial Ekonomi Pertanian dan Agribisnis 2026-09-01. DOI: 10.20961/sepa.v23i2.115286. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。