この研究は、ロシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Вестник Красноярского государственного аграрного университета

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

イチゴ(Fragaria × ananassa Duch.)は、アスコルビン酸(ビタミンC)やフェノール性化合物、食物繊維などを含む果実ですが、収穫後の日持ちが短く、冷蔵していても品質が落ちやすいという難点があります。そのため加工品、たとえばピューレのような均質な製品に仕上げることが一般的で、その工程では安全性と保存性を確保するために加熱が行われます。

ところが著者らが指摘するように、加熱はビタミンCのような熱に弱い成分を壊す主要な要因でもあります。従来の100 °C近い高温処理では、ビタミンCの大きな損失、アントシアニン(赤い色素成分)の分解と変色、香りの劣化が起こると報告されています。一方で、中程度の温度はポリフェノールの抽出を促す場合があり、温度の影響は単純な一方向ではありません。

そこで研究チームは、回転式装置(ロータリー装置MAG-50)を用いたイチゴピューレの加熱処理について、ビタミンCと総フェノール性化合物の残存性を最大限に保ちながら、官能評価(味・香り・色・食感などの総合的な評価)も高く保てる温度と時間の最適な範囲を、実験に基づいて明らかにすることを目的としました。

何をどう調べたか

対象となったのは、研究機関の試験圃場で収穫した「フェスチバリナヤ」品種のイチゴから作ったピューレです。原料は生の果実と急速凍結した果実の2種類を用いました。

最適条件の探索には応答曲面法(複数の条件を組み合わせて実験し、その結果を数式のモデルで表して、良い条件の範囲を見つける手法)が使われました。変化させた条件は処理温度60〜75 °Cと処理時間10〜35分の2つで、着目した測定項目は、ビタミンC濃度、総フェノール性化合物濃度、そして総合官能評価の3つです。ビタミンCは滴定法、総フェノール性化合物はフォリン–チオカルト試薬を用いた分光法、アントシアニンは酸性メタノール抽出液の分光法、色はCIELAB系(L*=明るさ、a*=赤みなど)の測色で測定されました。官能評価は外観・食感・色・におい・味と後味を5点満点で採点しています。

さらに、こうして求めた条件が実際に有効かを確かめるため、別途比較実験が行われました。従来技術(解凍・裏ごし・加糖・予備加熱の後、95 °Cで55分という長時間の殺菌)で作ったピューレと、改良技術(果実と砂糖をMAG-50で最適条件処理した後、95〜97 °Cで20〜60秒の短時間殺菌)で作ったピューレを比較しています。予備検討では砂糖の添加量14 %が最も良い官能評価となり、これを以降の共通配合としました。

報告された主な結果

ビタミンCは、温度と時間のどちらが上がっても減少し、最も低い条件(60 °C・10分)で最大値を示しました。生果実由来では40.7 mg/100 g、急速凍結果実由来では51.0 mg/100 gでした。凍結原料で値が高かったのは、加工時点までの凍結状態での保持が良かったためと著者らは説明しています。

これに対して総フェノール性化合物は挙動が異なり、調べた範囲の中ほどに最大となる領域が現れました。生果実では69〜73 °C・18〜22分、急速凍結果実では68〜72 °C・18〜22分あたりです。著者らはこれを、加熱による細胞構造からの抽出と、熱による分解という逆向きの二つの過程が同時に進むためと解釈しています。官能評価が最も高くなった領域は温度についてはどちらの原料でも65〜70 °Cでしたが、時間は原料によって少し異なり、生果実由来では17〜25分、急速凍結果実由来では16〜25分と報告されています。条件が低すぎると味が弱く食感がゆるく、上限を超えると「煮えた」風味と暗い色になったと記述されています。

これら3項目に条件を課した多目的最適化の結果、両方の原料に共通して受け入れられる最適範囲として65〜70 °C・18〜25分が示され、その中心である67.5 °C・22.5分が実用上の推奨値とされました。作られた二次式モデルは決定係数R²が0.80を超え、影響を十分に記述できたと報告されています。

比較実験(急速凍結果実由来)では、改良技術のピューレが従来技術より統計的に有意に優れていました。ビタミンCは77 %、アントシアニンは78 %、総フェノールは40 %の増加が報告され、食物繊維や灰分も多く保たれました。色はL*(明るさ)、a*(赤み)、C*(彩度)がいずれも高くなり、総合官能評価は4.60点(従来は4.09点)でした。なお両方のピューレとも、殺菌済み缶詰製品に求められる微生物学的安全性の要件を満たしていました。著者らは相関解析も行い、従来技術ではアントシアニンやビタミンCの量と明るさ・赤みが負の相関だったのに対し、改良技術では正の相関に転じたことを、成分の分解と変色が連動して進む状態を避けられた客観的な裏づけとして挙げています。

この研究が示すもの

加熱は加工に欠かせない一方で品質を損なう要因でもある、という板挟みに対し、この研究はビタミンCの損失を抑える条件とフェノール性化合物の抽出が最も進む条件、そしておいしさが最も高まる条件を同時に見渡し、その折り合いがつく温度と時間の幅を具体的な数字として示しました。

成分ごとに最適な方向が違うからこそ、一つの指標だけを追わずに複数の指標をまとめて扱う設計が要るという点が、この報告の要になっています。著者らは、回転式装置MAG-50を特定の温度・時間条件で用いることが、生理活性物質の保持と感覚的な品質の両面で有効な技術的解決策であると結論づけています。

著者:Oleg Motovilov(Federal'noe gosudarstvennoe byudzhetnoe uchrezhdenie nauki Sibirskiy federal'nyy nauchnyy centr agrobiotehnologiy Rossiyskoy akademii nauk)、Vasilina Nechaeva(Federal'noe gosudarstvennoe byudzhetnoe uchrezhdenie nauki Sibirskiy federal'nyy nauchnyy centr agrobiotehnologiy Rossiyskoy akademii nauk)、Olga Golub(Siberian Federal scientific center of agrobiotechnologies of the Russian Academy of Sciences)、Nataliia Davydenko(Kemerovo State University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Oleg Motovilov, Vasilina Nechaeva, Olga Golub, et al. HEAT TREATMENT OPTIMIZATION OF STRAWBERRY PUREE. Вестник Красноярского государственного аграрного университета 2026-08-28. DOI: 10.36718/1819-4036-2026-8-215-232. 原著ライセンス:CC BY.