著者の所属・活動拠点の国は、カナダです。

掲載誌:Journal of Xenobiotics

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

カナダ・ケベック州のサグネ=サン=ローラン海洋公園の干潟には、オオノガイの仲間であるMya arenariaが生息しています。泥の中に潜り、水中の微粒子をこし取って食べる二枚貝です。研究チームによると、この貝は鳥や魚、ゴカイなどの餌になります。この海域に暮らすシロイルカ(ベルーガ)が食べるゴカイにとっても主要な餌であり、ベルーガの個体群回復には、この貝と生息環境を守ることが欠かせないと著者らは位置づけています。

近年、水環境ではナノサイズのプラスチック粒子(ナノプラスチック)への懸念が高まっています。ほかの汚染物質と一緒に存在すると毒性を強める例も報告されています。研究チームは、ナノプラスチック、プラスチックを柔らかくする添加剤(可塑剤)のフタル酸ジブチル(DBP)、いくつかの金属などの元素が、この貝の健康状態とどう関係しているかを、地点間で比べて調べました。

どのように調べたか

調査は2023年9月の最終週に行われました。繁殖の影響を避けるため、産卵期を十分に過ぎた時期に1回だけ採集しています。対象は4地点です。汚染源から離れた比較基準地点のバ・デュ・ムーラン・ア・ボード、ボートの往来が多いタドゥサック、上流に都市や商業港がある地域の下流に位置するアンス・オ・ゼラーブル、そしてメスや子どものベルーガが夏に餌場として利用するバ・サント=マルグリットです。各地点で殻長5センチを超える貝を40個ずつ採集しました。

健康状態はまず、特別な装置を使わずに測れる体の指標で評価しました。殻の長さに対する重さを示す「肥満度」、年齢あたりの殻の伸びを示す「成長指数」、殻の重さが全体に占める割合、殻の溝から数えた年齢を記録しています。さらに、貝を水から出して空気中に置き、死ぬまでの日数を調べました。病気や汚染など、さまざまなストレスへの総合的な耐性を映す試験とされています。

あわせて、貝の軟らかい組織に含まれるナノプラスチック、DBP、アルミニウム、銅、スズ、亜鉛、鉄、セリウム、カドミウムなどの量を測りました。体の中で起きている変化の目印(バイオマーカー)として、酸化ストレスに関わる酵素ペルオキシダーゼの活性、タンパク質が異常に凝集する度合い、エステル類を分解する酵素の活性も測定しています。殻をつくる外套膜では、炭酸の固定に関わる酵素である炭酸脱水酵素の活性を調べました。

主な結果

ナノプラスチックとDBPは、タドゥサックとバ・サント=マルグリットで基準地点より有意に多く検出されました。両者の量は強く連動していました。同じ2地点では亜鉛、鉄、セリウム、スズも多くなっていました。銅は基準地点以外の3地点すべてで多く、アルミニウムはバ・サント=マルグリットとアンス・オ・ゼラーブルで多くなっていました。カドミウムが多かったのは最上流のアンス・オ・ゼラーブルだけでした。プラスチック関連物質の量は、亜鉛・スズ・鉄・銅・セリウム・アルミニウムの汚染と連動する傾向が見られました。

体内の指標にも変化が見られました。ペルオキシダーゼ活性はタドゥサックとバ・サント=マルグリットで高まりました。タンパク質の凝集はバ・サント=マルグリットだけで増え、エステル分解酵素の活性は3地点すべてで高まっていました。炭酸脱水酵素の活性もバ・サント=マルグリットで高くなっていました。これらの変化は、プラスチック関連物質や複数の金属の量と相関していました。

体の指標では、バ・サント=マルグリットの貝は肥満度と殻の重さの割合が低く、ほかの地点より若い傾向がありました。空気中での生存日数は、人間活動に近いアンス・オ・ゼラーブルとタドゥサックで短くなっていました。一方、多くの指標を相互の関連でまとめる分析を行うと、体の大きさや生存日数などの変化は、汚染物質や体内の指標とはあまり強く結びついていませんでした。

著者らは、スズや銅とプラスチック関連物質がともに検出されたことから、船底塗料などの塗料が汚染源の一つである可能性を指摘しています。アルミニウムと鉄の比率は、この地域のアルミニウム産業に由来する残渣の組成と似ていたと報告しています。タンパク質の凝集は、長く続けば病的な沈着につながりうる変化だと説明しています。ただし、貝が実際に変性疾患を起こしていることはこの研究では確かめられていません。また、化学分析は各地点6個体と少数で、1回の採集に基づく結果です。

研究が示すこと

研究チームは、この海洋公園の貝がプラスチック関連物質と複数の金属に汚染され、体内ではすでにストレスの兆候を示していると結論づけています。一方で、その影響は個体全体の健康状態にはまだはっきり及んでいない段階だと解釈しています。なかでもベルーガの重要な生息域であるバ・サント=マルグリットでは、スズ、DBP、ナノプラスチックによる汚染が最も目立ち、貝が若く殻も軽い傾向が見られました。この点を著者らは注目すべき結果として挙げています。

原著論文の著者・所属:Francois Gagne(Environment and Climate Change Canada, 105 McGill, Montréal, QC H2Y 2E7, Canada)、Chantale André(Environment and Climate Change Canada, 105 McGill, Montréal, QC H2Y 2E7, Canada)、Samuel Turgeon(Parks Canada, Saguenay–St. Lawrence Marine Park, 182, Rue de l’Église, Tadoussac, QC G0T 2A0, Canada)、Nadia Menard(Parks Canada, Saguenay–St. Lawrence Marine Park, 182, Rue de l’Église, Tadoussac, QC G0T 2A0, Canada)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Francois Gagne, Chantale André, Samuel Turgeon, et al. Contamination Profile and Health Status of Mya arenaria in the Saguenay–St-Lawrence Marine Park. Journal of Xenobiotics 2026-10-20. DOI: 10.3390/jox16060201. 原著ライセンス:CC BY.