著者の所属・活動拠点の国は、アルバニアです。

掲載誌:Journal of Psychiatry and Psychological Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

肌の状態は、塗り薬やスキンケアだけで決まるものではありません。近年の研究では、食生活、心のストレス、ホルモン、腸内細菌、睡眠や運動などの生活習慣が、体の内側から肌に影響しうると考えられています。この論文は、こうした要因の関係を「精神神経内分泌(心の状態、神経、ホルモンの相互作用)」という視点からまとめた文献レビューです。

著者は、2015年から2025年に発表された研究をもとに、栄養、心理的ストレス、ホルモン調節、腸と肌のつながり(腸–皮膚軸)、肌の老化の関係を整理することを目的としました。とくに、ストレスと肌の病気を結ぶ仕組みと、生活習慣による働きかけの可能性に注目しています。

何をどのように調べたか

著者はPubMedなどの医学・科学文献データベースを使い、決められた手順で文献を検索しました。対象としたのは、複数の研究を統合したシステマティックレビューやメタ分析、ランダム化比較試験、観察研究などで、食事やストレス、ストレスホルモンであるコルチゾール、性ホルモン、腸内細菌と、肌の健康や皮膚の病気との関係を扱ったものです。2015年より前の論文、査読を経ていない資料、塗り薬だけを扱った研究などは除外されました。研究の質は、研究デザインごとに用意された評価基準で確認したと報告されています。

論文が中心に据えるのは、ストレスに反応してホルモンを出す「視床下部–下垂体–副腎系(HPA軸)」です。強いストレスが長く続くとこの仕組みが働き続け、コルチゾールが高い状態が続きます。論文は、肌そのものにもこれに似た仕組みがあり、皮膚がストレスに反応してホルモンを作れることを紹介しています。

主な報告結果

論文は結果を四つのテーマに分けて示しています。一つ目はストレスと食事です。慢性的なストレスやコルチゾールの上昇は、肌のバリア機能を弱め、皮膚から水分が逃げやすくなること、炎症を強めることと関連づけられ、にきび、乾癬、アトピー性皮膚炎、酒さ(赤ら顔)などの悪化に関わると整理されています。また、血糖値を急に上げやすい食事や超加工食品の多い食事は、コルチゾールの上昇や炎症と関連していたと報告されています。一方、抗酸化物質やポリフェノールを多く含む食品、オメガ3脂肪酸は、コルチゾールの反応が小さいことや炎症性の肌の状態の改善と関連していました。

二つ目は性ホルモンです。血糖値を上げやすい食品や乳製品は、インスリンや成長に関わるホルモン(IGF-1)の働きを通じて男性ホルモンの作用を強め、皮脂を増やし、にきびにつながると論文は整理しています。また、大豆イソフラボンを補った試験では、肌の弾力などの改善が報告されたとしています。

三つ目は腸と肌のつながりです。糖分が多く食物繊維が少ない食事によって腸内細菌のバランスが崩れると、全身の炎症や肌の病気の悪化と関連すると報告されています。プロバイオティクス(体に役立つとされる菌)などの摂取は、炎症の指標や肌の状態の改善と関連していたとされます。論文は、ストレスが腸内環境を変え、それが心の症状と肌の病気の両方に関わりうるという「腸–脳–皮膚軸」の考え方も紹介しています。

四つ目は肌の老化です。ビタミンCやE、カロテノイドなどの抗酸化物質は酸化によるダメージから肌を守ることと関連し、コラーゲンペプチドの補給は試験で肌のうるおいや弾力の改善が報告されたとしています。反対に、糖分の多い食事は、皮膚のたんぱく質が糖と結びつく「糖化」を進め、弾力の低下に関わると整理されています。睡眠、運動、ストレスの軽減は、食事と組み合わさって肌の状態を保つ要因として挙げられています。さらに、マインドフルネスや認知行動療法などの心理的な取り組みが、コルチゾールの調節や肌の状態によい影響を示したことも紹介されています。

同時に著者は、研究結果が一致しない点も挙げています。血糖値を上げやすい食事とにきびの関連を示す観察研究は多い一方で、食事を変える介入試験での改善は小幅にとどまった例があること、乳製品とにきびの関係は大規模な研究で一貫しないこと、腸内細菌を対象としたヒトでの臨床試験はまだ限られていることなどです。また、多くの研究が観察研究で因果関係を確かめにくいこと、食事やストレスを自己申告で測った研究が多いこと、欧米の集団を中心とした研究が多いことも、限界として示されています。

この研究が伝えること

このレビューが示すのは、肌の健康を、食事、ストレス、ホルモン、腸内環境、生活習慣が互いに影響し合う全体の中で捉える見方です。著者は、皮膚の診療に栄養面の相談やストレスへの対処、心のケアを組み合わせる、複数の分野が協力する取り組みの必要性を結論として述べています。ただし、報告された関係の多くは関連を示す段階にあり、研究のばらつきも大きいことを著者自身が認めています。食事や心の状態と肌の結びつきについて、これまでの知見を整理した論文として読むことができます。

原著論文の著者・所属:Enkelejda Trebicka(Department of Nursing and Physiotherapy, Aldent University, Tirana, Albania)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Enkelejda Trebicka. Psychoneuroendocrine Nutritional Dermatology: The Interplay Between Diet, Psychological Stress, Cortisol, Sex Hormones, the Gut–Skin Axis, and Skin Health. Journal of Psychiatry and Psychological Sciences 2026-08-20. DOI: 10.67238/jppc.2026.v2.20. 原著ライセンス:CC BY.