著者の所属・活動拠点の国は、イギリスです。
掲載誌:Powder Technology
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
キサンタンガムやカラギーナンなどの「ガム系ハイドロコロイド」は、水に溶けてとろみやゲルを作る高分子です。食品、化粧品、医薬品で増粘剤やゲル化剤として広く使われています。ただし、粉末を水に入れると粒同士がくっつき、いわゆる「ダマ」(凝集体)ができやすいことが知られています。著者らによると、凝集が起きると、溶かすのに必要な撹拌のエネルギーと時間が増え、溶け残りの原因にもなります。
これまでの研究は主に粉全体の挙動を対象としており、一つひとつの粒がどう振る舞うかは十分に分かっていませんでした。そこで研究チームは、ダマを防ぐために撹拌機に最低限必要な「エネルギー散逸率」(撹拌によって液体に単位質量あたり毎秒与えられるエネルギーの目安)を見積もる簡便な方法の開発を目指しました。あわせて、食塩(塩化ナトリウム)を例に、分散を助ける添加物がどの程度役立つかも評価しました。
何を調べたか
材料には、キサンタンガム、主にλ型のカラギーナン、カルボキシメチルセルロース(CMC)の3種類の粉末を用いました。本来の粉の粒は小さく形も不揃いなため、一粒ずつ膨らみ方を測ったり数式で表したりすることは困難です。そこで著者らは、粉をペースト状にしてから直径数ミリの球形のビーズに成形し、乾燥させました。
このビーズを1粒ずつ水に入れ、25℃と33〜53℃の条件で観察しました。スマートフォンのカメラで膨らんでいく様子を撮影して直径の変化を測り、同時に水の電気伝導度の変化から溶け具合を追いました。CMCについては、ふるい分けで得た大きめの粒も同様に測定しています。
さらに研究チームは、2つの粒が近づいたときの単純なモデルを考えました。粒の表面がゲル化して生じる「くっつく力」が、撹拌によって粒を引き離す「分散させる力」より小さければ凝集は起きない、という考え方です。このモデルを、膨らみの最大の割合(Qmax)と、膨らみの速さを表す特性時間(τ)という、実験で測れる量で表しました。加えて、実際に粉を撹拌して溶かす実験も行い、溶けた割合、凝集の有無、液の粘り気を調べました。
主な結果
著者らは、粒の膨らみが既存の研究と同様に一次の速度式で表せることを確認しました。モデルからは、Qmaxをτで割った値が凝集の起こりやすさを判断する重要な指標になると導かれました。膨らむ割合が小さく、膨らむのに時間がかかる粒ほど凝集しにくい、という直感に合う結果です。凝集が起きない条件では、特性時間が長いほど溶けきるまでの時間も大きく延びる関係が見られました。
各種の粒について、必要なエネルギー散逸率とQmax/τの関係を調べたところ、データはひとつのべき乗の式でかなりよく表せました。ずれが目立ったのは、本来のCMCの粉と、ふるい分けた細かいCMCの粉です。著者らは、どちらも粒の大きさのばらつきが大きく、代表値を決めにくいためと説明しています。
食塩の効果も確認されました。キサンタンガムのビーズでは、水中の食塩の量を増やすと特性時間τが長くなり、凝集を防ぐうえで重要なQmax/τの値が小さくなりました。撹拌実験では、濃度2.1%のキサンタンガムを25℃でそのまま一度に加えると著しい凝集が起き、溶けた割合は約65%にとどまりました。一方、6.25%の食塩とあらかじめ混ぜてから加えると凝集は見られず、より小さな撹拌エネルギーと短い時間でも約98%が溶けました。
温度の影響も報告されています。キサンタンガムとカラギーナンでは、43℃にすると凝集が起きやすくなりました。CMCの粉は43℃でダマは見られなかったものの、溶けた割合は71%で、溶け残りの粒が残りました。著者らはこれを粒の大きさのばらつきで説明しています。細かい粒が先に速く溶けることで、粗い粒を溶かす原動力となる浸透圧の差が小さくなり、粗い粒が溶けにくくなったという考えです。実際、ふるい分けたCMCはどの大きさでもほぼ完全に溶け、約184マイクロメートルの細かい画分は、元の粉より3倍以上速く溶けました。
研究の意味
著者ら自身、このモデルは非常に複雑な現象を大きく単純化したものだと述べています。それでも、粒の膨らみの大きさと速さという測りやすい量から、ダマができる条件と、それを避けるのに必要な撹拌の強さを見積もる手がかりを示しました。
研究チームは、得られた関係式が、凝集を抑えつつ溶かすための最低限の撹拌エネルギーの見積もりや、食塩のような分散補助剤の効果の評価に使えるとしています。粒の大きさのばらつきが大きい粉については、細かい粒と粗い粒を分けて溶かすと有益かもしれないとも述べています。身近な増粘剤の「ダマ」という現象を、一粒ごとの膨らみ方から整理した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Andrew T. Tyowua(School of Chemical Engineering, University of Birmingham, Edgbaston, Birmingham B15 2TT, UK)、Yaoyu Xu(School of Chemical Engineering, University of Birmingham, Edgbaston, Birmingham B15 2TT, UK)、Zhibing Zhang(School of Chemical Engineering, University of Birmingham, Edgbaston, Birmingham B15 2TT, UK)、Michael J. Adams(School of Chemical Engineering, University of Birmingham, Edgbaston, Birmingham B15 2TT, UK)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Andrew T. Tyowua, Yaoyu Xu, Zhibing Zhang, et al. Influence of swelling kinetics on the agglomeration of gum hydrocolloid particles during dissolution in water. Powder Technology 2026-08-18. DOI: 10.1016/j.powtec.2026.123122. 原著ライセンス:CC BY.