著者の所属・活動拠点の国は、ポルトガルです。
掲載誌:Journal of Applied Phycology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:海藻バンクの品質確認を手早く客観的に
コンブの仲間は、目に見える大きな体(胞子体)と、顕微鏡でしか見えない小さな体(配偶体)を交互にくり返す生活環をもちます。配偶体は長期間培養して維持できるため、海藻の遺伝的多様性を保存する「バイオバンク」では、この配偶体の形で株を保管するのが一般的です。保存した株が生きているか、育っているかは定期的に確認する必要があります。
これまで配偶体の生存は、通常の顕微鏡(明視野顕微鏡)で生きている個体を人の目で数える方法が主流でした。著者らは、この方法は手間と時間がかかり、観察者によって結果がばらつきやすいと指摘しています。色素の濃さを目で見て点数化する方法は主観に左右されやすく、細胞を染める染色法も、生きた細胞を多く見積もりすぎたり、細胞に毒性があったり、配偶体の成熟を引き起こす青や紫外の光を使ったりする欠点があるとされます。
そこで研究チームは、暖温帯に分布するコンブ類ラミナリア・オクロレウカ(Laminaria ochroleuca)を対象に、染色をせず、試料を傷つけずに、配偶体の生存と成長を何度でもくり返し測れる方法を開発することを目指しました。その際、配偶体の生殖能力を損なわないことも条件としました。
方法:葉緑素が発する赤い光を手がかりに
光合成をしている細胞の葉緑素は、光を当てると自ら赤い蛍光を発します(自家蛍光)。細胞が死んで葉緑素が分解されるとこの蛍光は失われるため、染色なしで生きた部分と死んだ部分を見分ける目印になります。研究チームは、配偶体の成熟を促すおそれのある紫外線ではなく、赤色域の励起光を使う設定でこの自家蛍光を撮影しました。
実験では、イタリア・メッシーナ沖で採取した個体に由来する雌3株・雄3株の配偶体を、雌雄別々に、あるいは雌雄を組み合わせて培養しました。培養1日目、7日目、14日目に、同じ視野を通常の明視野と蛍光の両方で撮影しました。明視野の画像は、画像解析ソフトFIJIで色をもとに配偶体を抽出したうえで、人が数えて面積を測りました。蛍光画像は、FIJIの機械学習ツールに赤い蛍光と黒い背景を見分けるよう学習させ、生きた配偶体の断片の数と面積を自動で求めました。
さらに、測定後の配偶体を、成熟のきっかけとなる白色光の下へ移し、雄の造精器や雌の卵、受精後にできる若い胞子体が正常に現れるかを観察しました。
主な結果:数はより多く、面積はより小さく、生殖にも影響なし
著者らによると、明視野画像による手作業の解析では、背景のノイズやごみ、混入物、死んだ配偶体、さらには配偶体どうしのすき間までが誤って対象として拾われることがありました。一方、蛍光画像の自動解析では、蛍光を発する生きた断片だけが数えられ、測られました。
二つの方法を比べると、蛍光による方法では、すべての株と測定日で、生きた断片の数が明視野より有意に多く数えられました。反対に面積は、明視野より小さく測られ、すべての株でいずれかの測定日に有意な差がみられました。著者らは、明視野法が生きていない部分まで面積に含めてしまうことが、この差の一因だと考えています。それでも両方法の結果には強い相関があり、相関係数は断片数で0.630、面積で0.759と報告されています。
生殖への影響については、赤色光で維持していた期間に、蛍光観察の光によって成熟が始まった様子は見られませんでした。白色光に移すと5日以内に雄で造精器、雌で生卵器が現れ、9日目までにはすべての雌雄混合培養で胞子体ができていました。著者らは、この経過はこの種として正常な範囲だとしています。
一方で限界も示されています。平面の画像で解析するため、配偶体が重なると数や面積を少なく見積もる可能性があり、現在のモデルでは雄と雌を区別できません。
研究が示すこと
この研究は、葉緑素がもともと発する蛍光と無料で使える機械学習ツールを組み合わせることで、コンブ類の配偶体の生存と成長を、従来の手作業の方法とよく一致しつつ、より正確かつ手早く測れることを示しました。染色が不要で試料を傷つけず、配偶体のその後の生殖も妨げないため、同じ試料を時間を追って観察し続けられる点が大きな特徴です。著者らは、人の色の見分けに頼らない客観的な方法として、海藻バンクでの培養管理や実験の標準化に役立つと位置づけています。
原著論文の著者・所属:Francisca Félix(Centro de Ciências Do Mar (CCMAR/CIMAR-LA), Universidade Do Algarve, Campus de Gambelas, 8005-139, Faro, Portugal)、Cícero Alves-Lima(Centro de Ciências Do Mar (CCMAR/CIMAR-LA), Universidade Do Algarve, Campus de Gambelas, 8005-139, Faro, Portugal)、Luís Barreto(Centro de Ciências Do Mar (CCMAR/CIMAR-LA), Universidade Do Algarve, Campus de Gambelas, 8005-139, Faro, Portugal)、Carina Mónico(Centro de Ciências Do Mar (CCMAR/CIMAR-LA), Universidade Do Algarve, Campus de Gambelas, 8005-139, Faro, Portugal)、Ester Serrão(Centro de Ciências Do Mar (CCMAR/CIMAR-LA), Universidade Do Algarve, Campus de Gambelas, 8005-139, Faro, Portugal)、Gareth Pearson(Centro de Ciências Do Mar (CCMAR/CIMAR-LA), Universidade Do Algarve, Campus de Gambelas, 8005-139, Faro, Portugal)、Neusa Martins(Centro de Ciências Do Mar (CCMAR/CIMAR-LA), Universidade Do Algarve, Campus de Gambelas, 8005-139, Faro, Portugal)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Francisca Félix, Cícero Alves-Lima, Luís Barreto, et al. High-throughput assessment of gametophyte survival and growth in the kelp Laminaria ochroleuca through autofluorescence analysis. Journal of Applied Phycology 2026-08-17. DOI: 10.1007/s10811-026-03989-4. 原著ライセンス:CC BY.