掲載誌:Journal of Creative Power and Ambition
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
インドネシア・バリ州デンパサール市のスランガン村では、魚介料理を中心とするグルメ観光が広がっています。地元の人の多くが海産物を使った料理を販売しており、国内外からの観光客も訪れるようになりました。一方で論文は、料理の調理や片付けに伴う排水、食べ残し、油脂、包装ごみなどが適切に処理されなければ、周辺の海水の質を損なうおそれがあると指摘しています。
研究チームは、スランガン村周辺の海水の状態を調べるとともに、バリの地域社会に根づいた価値観や慣習、いわゆる「地域の知恵」を生かした環境対策の方向性を示すことを目的としました。
何をどのように調べたか
研究チームは2026年4月、村の周辺5か所で海水を採取しました。比較の基準となる対照地点、埋立地の東側、スランガン橋の下、村の南側、そしてグルメ観光の飲食エリアに近い地点です。対照地点は、特定の汚染や人の活動の影響を受けていない自然に近い状態を把握するために設けられました。
採取した海水について、ごみや浮遊物の有無、水温、酸性・アルカリ性の度合いを示すpH、油膜、においなどを現場で確認し、さらに検査機関で化学的・生物学的な項目を分析しました。結果は、インドネシア政府が定める海洋観光向けの海水水質基準と比較されています。あわせて、飲食店の経営者や観光客への聞き取り、現地観察、文献調査を行い、ごみ処理や環境の状況についての情報を集めました。
主な結果
論文によると、多くの項目は基準を満たしていました。水の濁りの原因となる浮遊物質(TSS)は1リットルあたり0〜1ミリグラムで、基準値の20ミリグラムを大きく下回りました。水温やpHも基準の範囲内でした。病原菌による汚染の目安となる大腸菌群の数も、100ミリリットルあたり5〜33で、基準の1000を下回っていました。
一方で、対照地点ではごみが見られなかったのに対し、ほかの地点ではごみや浮遊物が確認されました。油膜が確認されたのは、飲食エリアに近い地点だけでした。
水中の有機物を微生物が分解する際に必要とする酸素の量を示すBOD(生物化学的酸素要求量)は、汚れた排水などが流れ込むと高くなる傾向がある指標です。対照地点では1リットルあたり9ミリグラムと基準値の10ミリグラム以内でしたが、ほかの地点は10〜13ミリグラムで、最も高かったのは飲食エリアに近い地点でした。アンモニアも同じ地点で最も高く、1リットルあたり0.191ミリグラムと報告されています(基準値は0.02ミリグラム)。
研究チームはこれらの結果から、全体としては多くの項目が基準内にあるものの、飲食エリアの近くではごみ、油膜、BODやアンモニアの上昇といった生活系の排水やごみによる汚染の兆候が見られ、グルメ観光が沿岸環境に負荷をかけていることがうかがえると述べています。
地域の知恵を生かした対策と研究の意味
研究チームは、技術に頼るだけでなく、地域住民の参加と文化的な価値観を取り入れた環境管理が必要だと論じています。その土台として挙げられているのが、神と人、人と人、人と自然の調和を重んじるバリの考え方「トリ・ヒタ・カラナ」です。
具体的な方向性として、論文は、海や浜辺へのごみ投棄を禁じる慣習村の取り決め「アウィグ・アウィグ」の活用、住民が協力して行う定期的な清掃活動(ゴトン・ロヨン)、飲食店での分解しやすいごみとしにくいごみの分別、事業者や観光客への環境教育、慣習村・行政・事業者の連携による監視と保全を提案しています。
この研究は、観光による経済的な恩恵と海の環境保全を両立させるうえで、地域に根づいた価値観や慣習と現代的な環境管理を組み合わせることが重要だという著者らの考えを、現地の水質データとともに示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Arik Agustina(Institut Pariwisata dan Bisnis Internasional, Denpasar)、Ni Putu Isha Aprinica(Institut Pariwisata dan Bisnis Internasional, Denpasar)、I Ketut Muliadiasa(Institut Pariwisata dan Bisnis Internasional, Denpasar)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Arik Agustina, Ni Putu Isha Aprinica, I Ketut Muliadiasa Local Wisdom in Mitigating the Impact of Culinary Tourism on Seawater Quality in Serangan Village, Bali. Journal of Creative Power and Ambition 2026-10-08. DOI: 10.70610/jcpa.2134. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。