日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Allergy Asthma and Clinical Immunology

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

ごく少量でも反応してしまう子どもへの治療をめざして

ピーナッツやクルミなどのナッツ類によるアレルギーは世界的に増えており、日本ではクルミアレルギーが木の実アレルギーの中で最も多いとされます。ごく少量でもアナフィラキシー(全身に及ぶ急激で重いアレルギー反応)を起こすことがあるため、患者や家族は誤って口にすることへの不安を日常的に抱えています。

有望な治療法として経口免疫療法があります。原因となる食物をごく少ない量から食べ始め、医師の管理のもとで少しずつ量を増やし、反応が起きにくい状態をめざす方法です。ただし通常の経口免疫療法は、開始時にミリグラム(1000分の1グラム)単位のたんぱく質を食べる負荷試験に耐えられることが前提になります。それよりはるかに少ない量で反応してしまう子どもはこの治療を始められず、原因食物を厳しく避け続けるほかありませんでした。

研究チームは、こうした子どもを対象に、通常の経口免疫療法の前に「超低用量導入期」を設ける方法を試しました。この段階を経ることで、ミリグラム単位の摂取、つまり通常の経口免疫療法への移行が可能になるかを調べています。

薄めたアレルゲン液を数滴ずつ口にする方法

研究は日本の2つの医療機関で2021年から2024年に行われた観察研究です。対象は3〜15歳の子どもで、ピーナッツアレルギー10人、クルミアレルギー11人が参加しました。極めて少量で反応してしまう、あるいは過去のアナフィラキシーへの恐怖から通常の治療を始められない子どもたちで、多くがアナフィラキシーを経験していました。

導入期では、アレルゲンの抽出液を5倍ずつ段階的に薄めた液を用意し、子どもごとに反応の出方を確かめて開始量を決めました。開始量は、たんぱく質に換算してピコグラム(1兆分の1グラム)からナノグラム(10億分の1グラム)単位という、ごく微量です。子どもはこの液をスポイトで1日2回口にし、毎月の受診時に、問題がなければ滴数を増やし、さらに濃い液へと進めていきました。

一定の濃さまで進めた後、医療機関で1ミリグラムのピーナッツまたはクルミの粉末を食べる負荷試験を行い、これに耐えられた場合に通常の経口免疫療法へ移行しました。研究の主な評価項目は、通常の経口免疫療法へ移行できた子どもの割合です。あわせて、反応せずに口にできる量の変化、皮膚テストの反応、血液中のIgE抗体(アレルギー反応に関わる抗体)の値、副反応も調べました。

ほぼ全員が通常の治療へ移行

論文によると、ピーナッツアレルギーの子どもは10人全員、クルミアレルギーの子どもは11人中10人(90.9%)が、ミリグラム単位の粉末を食べられるようになり、通常の経口免疫療法へ移行しました。クルミの1人は、導入期の途中で良性の肥満細胞腫が一時的に再び活発になったため、念のため治療を中止しています。移行までの期間の中央値は、ピーナッツで16か月、クルミで8か月でした。

滴下で口にできる量や、皮膚テストで反応が出るのに必要な濃さは、多くの子どもで治療後に上昇しており、移行の結果と一致していました。血液検査では、ピーナッツやクルミ全体に対するIgE抗体の値に臨床的に意味のある変化は見られませんでした。一方、ピーナッツやクルミに含まれる特定のたんぱく質(Ara h 2、Jug r 1)に対するIgE抗体には、やや低下する傾向が見られたと報告されています。

安全面では、自宅で続けた滴下の段階での副反応はごくまれで、発生率は投与機会あたりピーナッツで0.02%、クルミで0.09%でした。医療機関で行った最初の滴下試験や量を増やす段階では副反応の頻度が高めでしたが、多くは軽度から中等度で、アドレナリン注射を必要とした例はありませんでした。

さらに、探索的な調査として、アレルゲンを含む市販の菓子などを食べられるようになった子どもの割合も示されています。ピーナッツでは30%、クルミでは27.3%で、推定3〜5グラムほどのナッツを含む南部せんべいやゆべしなどを口にできるようになった例がありました。

「避けるしかない」状況からの一歩

著者らは、これまで避けるしか選択肢がなかったほど反応しやすい子どもでも、ごく微量から始める導入期を設けることで通常の経口免疫療法を始められる可能性がある、と結論づけています。一部の子どもが日常的な食品を口にできるまでになったことから、反応する量が上がるだけでなく、誤食への日々の不安を和らげる意味もあり得ると述べています。

一方で、参加者は21人と少なく、比較対象となるグループを置かない研究です。抽出液が標準化されておらずロットごとに濃度を調整する必要があったこと、治療が長期にわたり、保護者が自宅で希釈液を準備する負担があることも課題として挙げられています。また、原因食物を完全に避けていたため本当の反応のしやすさが不明な参加者が含まれており、効果を過大に見積もっている可能性があると著者らは記しています。この研究は、重いナッツアレルギーの子どもに治療の入口を開く方法について、実現可能性と安全性を示す初期の手がかりとして位置づけられています。

原著論文の著者・所属:Kyoko Nishikage(Yokohama Nishikage Clinic: Kids & Allergies, 15-1 Daimachi, Kanagawa- ku, Yokohama City, Kanagawa Prefecture, 221-0834, Japan)、Yuichiro Imai(Department of Infectious Diseases, Nabari City Hospital, 1-178 Yurigaoka Nishi, Nabari City, Mie Prefecture, 518-0481, Japan)、Satoru Shinoda(Department of Biostatistics, School of Medicine, Yokohama City University, 3-9 Fukuura, Kanazawa-ku, Yokohama City, Kanagawa Prefecture, 236-0004, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kyoko Nishikage, Yuichiro Imai, Satoru Shinoda. Ultra-low-dose induction phase in oral immunotherapy for children with severe peanut and walnut allergies: a multicenter observational cohort study. Allergy Asthma and Clinical Immunology 2026-09-28. DOI: 10.1186/s13223-026-01066-6. 原著ライセンス:CC BY.