著者の所属・活動拠点の国は、クロアチアです。
掲載誌:Plants
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
精油づくりで残る水に注目した理由
オレンジやみかんなどのかんきつ類は、世界中で大量に栽培されています。果汁などに加工される際には、皮や搾りかす、種といった副産物が多く出ます。これらの副産物はビタミンやペクチン、精油、フラボノイドなどを豊富に含みます。そのため、従来の家畜飼料としての利用に加え、食品や医薬品、化粧品などに役立つ成分の供給源として関心が高まっています。
かんきつの皮から香り成分である精油を取り出す方法の一つに「水蒸留」があります。皮を水と一緒に加熱し、蒸気とともに出てくる精油を回収する方法です。このとき、加熱に使った水が残ります。この水には、煮出されて溶け出した、揮発しない水溶性の成分が含まれます。しかし、この残り水に含まれるポリフェノール類を調べた研究はほとんどありませんでした。特にクレメンタインの皮は、これまであまり調べられていません。
そこで研究チームは、オレンジ、みかん、クレメンタインの皮について、水蒸留のあとに残る水のポリフェノール組成を分析しました。あわせて、水蒸留の前に皮を酵素で処理すると、組成がどう変わるかを調べました。使った酵素はセルラーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼです。これらは、植物の細胞壁を形づくるセルロース、ヘミセルロース、ペクチンをそれぞれ分解します。
どのように調べたか
材料には、クロアチア・ザグレブのスーパーで購入したネーブルオレンジ、温州みかん、クレメンタインを用いました。皮には、水蒸留の前に前処理を施しました。前処理では、ペクチナーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼをそれぞれ単独で使う条件と、3種類を組み合わせる条件を設けました。いずれの条件でも、精製水またはpH5のクエン酸緩衝液の中で、液を還流させながら加熱しました。比較用として、酵素を加えずに同じ処理をした条件と、前処理をまったく行わない条件も用意しました。
水蒸留後に残った水は、超高速液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析(UPLC-MS/MS)という手法で分析しました。この手法では、多数の成分を分離したうえで、個々の化合物を特定し、その量を測ることができます。研究チームは、個々のポリフェノールの量と、定量できた化合物の合計量を比較しました。
なお論文によると、各条件の測定値は、同じ試料を3回繰り返し分析したものです。独立した実験を繰り返して得たデータではありません。このため著者らは、処理条件の違いを、観察された量の傾向として記述的に比較したと述べています。
主な結果
前処理の有無や種類にかかわらず、3種類のかんきつすべてで、主なポリフェノールはケンフェロールとケルセチンでした。オレンジとみかんの残り水にはナリルチンも多く含まれていました。一方、クレメンタインではナリルチンはほとんど検出されませんでした。含まれる化合物の種類が最も多かったのはみかんでした。
酵素前処理に対する反応は、かんきつの種類によって異なりました。みかんでは、3種類の酵素を組み合わせてクエン酸緩衝液中で処理した条件で、定量できた化合物の合計量が最も高くなりました。その値は19.73 µg/g(1グラムあたり19.73マイクログラム)でした。これは対照の13.22 µg/gより約49%多い値です。この条件では、ナリンゲニンも対照より大きく増えていました。また、ケルセチン-3-グルコシドなど一部の化合物は、主に酵素処理をした試料で検出されました。
最も大きな違いが見られたのはクレメンタインです。キシラナーゼを使って水中で処理した条件で、ケルセチン、ケンフェロール、ナリンゲニン、カフェ酸などが最も多くなりました。合計量は34.94 µg/gで、前処理なしの対照(9.89 µg/g)の3倍を超えていました。
一方、オレンジでは、個々の化合物の量に条件ごとの違いはありました。ただし、合計量の差は比較的小さいものでした。著者らは、オレンジでは酵素前処理によって合計量が増えることはなかったとまとめています。
著者らは、有機溶媒を使った抽出では、過去により高い含有量が報告されていることにも触れています。そのうえで今回の結果を、有機溶媒を使わずに得られる水の副産物についての結果として位置づけています。
この研究が示すこと
この研究は、精油づくりの副産物としてあまり活用されてこなかった水蒸留後の残り水に、ケルセチンやケンフェロールを中心とするポリフェノール類が含まれることを示しました。また、蒸留前の酵素処理によって観察される量が変わり、その変わり方がかんきつの種類や処理条件によって異なることも報告しています。著者らは、これらの結果が、かんきつ加工の副産物を持続可能な形で活用する考え方を支えるものだとしています。
原著論文の著者・所属:Antonela Ninčević Grassino(Faculty of Food Technology and Biotechnology, University of Zagreb, Pierottijeva 6, 10000 Zagreb, Croatia)、Marija Penić(Faculty of Food Technology and Biotechnology, University of Zagreb, Pierottijeva 6, 10000 Zagreb, Croatia)、Sandra Pedisić(Faculty of Food Technology and Biotechnology, University of Zagreb, Pierottijeva 6, 10000 Zagreb, Croatia)、Sven Karlović(Faculty of Food Technology and Biotechnology, University of Zagreb, Pierottijeva 6, 10000 Zagreb, Croatia)、Maja Dent(Faculty of Food Technology and Biotechnology, University of Zagreb, Pierottijeva 6, 10000 Zagreb, Croatia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Antonela Ninčević Grassino, Marija Penić, Sandra Pedisić, et al. Phenolic Characterisation of Citrus Peel Aqueous Extract: By-Products of Hydrodistillation and the Effect of Enzymatic Pretreatment. Plants 2026-09-19. DOI: 10.3390/plants15182871. 原著ライセンス:CC BY.