著者の所属・活動拠点の国は、アイルランドです。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

ダルス(学名パルマリア・パルマタ)は北大西洋沿岸に分布する紅藻で、ヨーロッパで特に多く食べられている海藻の一つです。乾燥重量あたりのたんぱく質含量は7〜19%と報告されており、他の海藻より多いことから、持続可能な代替たんぱく質源として期待されています。一方で、たんぱく質は細胞が密に詰まった組織の中に閉じ込められているため、効率よく取り出すことが難しいという課題があります。

研究チームが注目したのは、細胞壁を分解する酵素を使う「酵素補助抽出」です。ダルスの細胞壁は主にキシランという多糖類でできており、少量のセルロースも含まれます。そこで、キシランを分解するキシラナーゼやセルロースを分解するセルラーゼを含む食品用の市販酵素製剤を使えば、たんぱく質を壊さずに取り出しやすくなると考えられます。著者らは、この酵素処理を行うときの温度がたんぱく質の回収量にどう影響するかを調べました。これまで系統的に評価されてこなかった点です。さらに、工業化の判断材料となる指標を報告し、得られたたんぱく質を分解した「加水分解物」とそれを模擬消化した試料について、抗酸化作用や血糖調節に関わる作用を試験管内の分析と細胞実験で評価することも目的としました。

何を調べたか

研究チームは、乾燥させて粉砕したダルスに対し、条件の異なる3通りの抽出手順を比べました。手順1は50℃で4時間の酵素処理、手順2は4℃で一晩水に浸した後に50℃で4時間の酵素処理、手順3は4℃で一晩の酵素処理です。いずれも酵素処理の後にアルカリ性の液でたんぱく質を溶かし出し、酸性(pH3.5)にしてたんぱく質を沈殿させて回収しました。酵素を使わない対照も用意しています。また、低温でも酵素が働くかを確かめるため、各製剤の4℃での活性も測定しました。

最も良い手順を決めた後、複数の酵素製剤を単独または組み合わせて使い、抽出物のたんぱく質含量、元のダルスに含まれていたたんぱく質のうち何割を回収できたか(たんぱく質回収率)、元の原料重量に対してどれだけの抽出物が得られたか(バイオマス回収率)を求めました。さらに、選んだ抽出物を食品用のたんぱく質分解酵素で分解し、国際的な標準手順に沿って口・胃・腸での消化を模した処理も行いました。分解がどの程度進んだかは「加水分解度」(たんぱく質のつなぎ目がどれだけ切れたかの割合)と分子の大きさの分布で調べています。

主な結果

4℃でも酵素製剤には測定可能な活性が残っていました。抽出手順を比べると、どの段階であれ50℃で処理するとたんぱく質の回収量は減りました。たとえばある酵素製剤では、50℃処理を含む手順1で乾燥原料1グラムあたり約19ミリグラムだったのに対し、4℃で一晩処理する手順3では約43ミリグラムでした。酵素を止めるための85℃の加熱も回収量を下げ、手順3で加熱を省くと1グラムあたり約57〜80ミリグラムに増えました。著者らは、紅藻の主要なたんぱく質であるフィコビリタンパク質が熱に弱いことから、加熱による変性や凝集で溶けにくくなったことが一因と考えています。同じ手順3では、酵素処理によって対照と比べ回収量が33〜230%増えました。

加熱を省いた手順3で酵素製剤を比べたところ、キシラナーゼ製剤とセルラーゼ製剤を組み合わせた場合にたんぱく質回収率が75.10%と最も高く、酵素を使わない対照(44.64%)の1.68倍でした。バイオマス回収率もこの組み合わせが17.64%で最高でした(対照は9.66%)。抽出物のたんぱく質含量は約46〜52%で、この組み合わせでは対照よりやや低くなりましたが、全体の回収量が多いことからその後の実験に選ばれました。電気泳動による分析では、酵素製剤がたんぱく質を分解していないことも確かめられています。

選んだ抽出物を各種のたんぱく質分解酵素で処理したところ、加水分解度は使う酵素によって0.44%から3.37%まで差があり、既存研究の報告より大幅に低い値でした。著者らは、分解時間が短いことや酵素量の違いなど、条件の差が理由として考えられると述べています。模擬消化を行うと、どの試料でも分解はさらに進みました。また酵素分解によって、大きな分子の割合が減ることが確認されました。

この研究が示すこと

この研究は、ダルスからたんぱく質を取り出す際、細胞壁を分解する酵素を食品工業でも使われる4℃という低温で働かせ、加熱を避けることで回収量を大きく高められることを示しました。著者らはまた、抽出物のたんぱく質含量は過去の研究も含めて50〜55%付近で頭打ちになる傾向があり、純度をさらに上げるには膜ろ過などの追加工程が必要になるだろうと指摘しています。原料の8割以上は抽出後に残るため、その残りを他の有用成分の原料として活用する考え方にも触れています。たんぱく質の量や純度だけでなく、原料からどれだけの量の素材を得られるかという指標を示した点も、海藻たんぱく質を食品素材として使う道筋を考える手がかりになります。

原著論文の著者・所属:Amigo-Benavent M(Proteins and Peptides Research Group, Department of Biological Sciences, Faculty of Science and Engineering, University of Limerick, V94 T9PX Limerick, Ireland.; Food, Diet and Nutrition Research Group, Health Research Institute, University of Limerick, V94 T9PX Limerick, Ireland.; Food Science and Technology Group, BIO3 (Pharma, Science & Engineering) Pillar, Bernal Institute, University of Limerick, V94 T9PX Limerick, Ireland.)、Chen Y(Proteins and Peptides Research Group, Department of Biological Sciences, Faculty of Science and Engineering, University of Limerick, V94 T9PX Limerick, Ireland.)、Idowu AT(Proteins and Peptides Research Group, Department of Biological Sciences, Faculty of Science and Engineering, University of Limerick, V94 T9PX Limerick, Ireland.)、FitzGerald RJ(Proteins and Peptides Research Group, Department of Biological Sciences, Faculty of Science and Engineering, University of Limerick, V94 T9PX Limerick, Ireland.; Food, Diet and Nutrition Research Group, Health Research Institute, University of Limerick, V94 T9PX Limerick, Ireland.; Food Science and Technology Group, BIO3 (Pharma, Science & Engineering) Pillar, Bernal Institute, University of Limerick, V94 T9PX Limerick, Ireland.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Amigo-Benavent M, Chen Y, Idowu AT, et al. Enzyme-Assisted Extraction and Hydrolysis of Dulse (<i>Palmaria palmata</i>) Proteins: Characterisation, Antioxidant Activity and Glucose-Management Potential. Foods (Basel, Switzerland) 2026-10-19. DOI: 10.3390/foods15203717. 原著ライセンス:CC BY.