この研究は、ベトナムの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Applied Food Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:捨てられる果皮を資源として見直す

ドリアンは独特の風味から「果物の王様」と呼ばれ、中国、タイ、日本、香港、カナダ、オーストラリアなど多くの国で消費されています。しかし論文によれば、果皮は果実全体の重量の60〜75%を占め、大量の廃棄物になります。著者らは、インドネシアで2022年に約191,906トンのドリアン果皮廃棄物が生じたとの報告を引用しています。こうした農業廃棄物は主に焼却や堆肥化で処理され、埋立地に蓄積するとメタンの放出につながると述べられています。

一方でドリアンの皮には、セルロース、リグニン、ペクチンに加えて、フラボノイドやポリフェノールといった有用な成分が含まれています。研究チームは、これまでの研究がセルロースやリグニン、ペクチンの回収に偏っており、ポリフェノールやフラボノイドなどの生理活性成分に関する報告は限られている点を指摘しました。さらに、既存の研究の多くは成分含量や生物活性を個別に調べるにとどまり、抽出条件の最適化や、得られた抽出物の実際の食品への応用までは踏み込んでいなかったといいます。

そこで本研究は、超音波による前処理と浸漬抽出(マセレーション)を組み合わせた方法で、ドリアン果皮からポリフェノールとフラボノイドに富む成分を取り出す条件を最適化することを目的としました。加えて、最適化した抽出物の抗酸化活性を評価し、ビスケット製造における天然の抗酸化剤としての利用可能性を検討しています。ここでいうポリフェノールやフラボノイドとは植物に広く含まれる成分群で、抗酸化性(酸化を抑える働き)を持つことが知られています。

調べ方:三つの条件を同時に動かして最適点を探す

材料には、ベトナム・ティエンザン省の農園で2023年4月に採取されたRi6品種のドリアンの皮が用いられました。皮は洗浄後に乾燥・粉砕され、粉末として保管されました。抽出では、粉末を96%エタノールに加えて分散させたうえで、まず30℃で20分間の超音波処理を行い、その後に浸漬抽出を行っています。研究チームは、超音波や電子レンジを使う近代的な抽出法は回収効率が高い一方で設備費とエネルギー消費が大きく、熱に弱いポリフェノールが分解しうると説明し、簡便で省エネルギーな浸漬抽出に超音波前処理を組み合わせる方針を選んだと述べています。

条件の最適化には応答曲面法(RSM)という統計的な手法が使われました。これは、実験回数を抑えながら複数の条件の組み合わせとその相互作用を解析し、最適点を推定する方法です。着目したのは抽出温度(30〜50℃)、抽出時間(12〜36時間)、溶媒と原料の比(5〜15 mL/g)の三つで、Box-Behnken計画に基づく15回の実験(うち3回は中心点の繰り返し)が組まれました。目標とした四つの指標は、抽出収率、総ポリフェノール量(TPC)、総フラボノイド量(TFC)、そしてDPPHラジカル消去能のIC50です。IC50は「消去率が50%になる濃度」を意味し、値が小さいほど少量で効くことを示すため、この指標だけは最小化が目標とされました。

得られた抽出物を実際の食品で試すため、小麦粉、植物性バター、粉砂糖、卵黄を用いたビスケットが作られました。抽出物は生地に1 mg/g(0.1%)の割合で加えられ、無添加の対照と比較されています。評価項目は、基本的な栄養成分、色、硬さ、多孔性、官能評価、抗酸化活性、ポリフェノールやフラボノイドの含量です。官能評価は20〜30歳の非訓練の60名によって9点法で行われました。さらに、室温(28±2℃)で18日間保存した際の脂質の劣化を追うため、脂肪含量、過酸化物価(PV)、TBARS(脂質の酸化生成物を測る指標)が6日、12日、18日の時点で測定されました。

報告された主な結果

著者らによれば、四つの目標すべてを同時に満たす最適条件は、抽出温度39.29℃、抽出時間24時間、溶媒/原料比10.05 mL/gと決定されました。この条件下で、抽出収率は8.85%に達し、抽出物のTPCは108.66 mg AGE/g抽出物、TFCは507.21 mg QE/g抽出物、DPPHラジカル消去能のIC50は125.74 µg/mL、FRAP値は1.62 mmol Fe2+/gだったと報告されています。AGE(没食子酸相当量)やQE(ケルセチン相当量)は、標準物質に換算して量を表す表記です。

実験全体では収率は2.28%から9.02%の幅がありました。統計解析では、四つの応答すべてについて二次回帰モデルが統計的に有意(p<0.05)であり、決定係数R²は収率99.89%、TPC 99.62%、TFC 99.98%、IC50 99.72%と高い値が示されています。ただしIC50のモデルについては、当てはまりの悪さ(lack of fit)が有意(p=0.044)であり、モデルがデータを正確に記述できていないことを著者ら自身が指摘しています。その理由として、実験誤差や、DPPH試薬が残留溶媒の成分に感受性を持つことが挙げられています。

抽出条件の影響については、抽出収率に対して温度と溶媒比が有意に影響し、抽出時間は有意な影響を示さなかったと報告されました。三つの変数のうち溶媒/原料比が収率に最も強く影響する因子として挙げられています。溶媒量が多いほど原料との接触が良くなり成分の溶出が進む一方、13 mL/gを超えると効率は低下する傾向が見られました。温度についても、上昇に伴って収率は高まるものの43℃を超えると低下し、著者らはポリフェノールやフラボノイドのような熱に弱い成分の分解や揮発の可能性を理由として挙げています。なお、得られた収率はインドネシアのドリアン果皮で報告された12.77%より低く、著者らはこれを品種や栽培条件、地理的条件の違いと関連づけて説明しています。

ビスケットへの応用では、抽出物を加えたビスケットは通常のビスケットより色と香りの官能評価が良好だったと報告されました。抽出物入りのビスケットは、TPCが1.17倍、TFCが1.14倍と有意に高く、抗酸化性の指標もDPPHで358から263 mg/Lへ、FRAPで0.21から0.40 mmol Fe2+/gへと向上しました。それでいて硬さや食感には影響がなかったとされています。また抽出物の抗酸化性能は0.01%のBHA(合成抗酸化剤の一つ)に匹敵し、脂質の酸化に対する安定性が改善したことを示すと述べられています。18日間の保存後には、対照のビスケットと比べて脂肪の損失が2.21倍、PV値が1.64倍、TBARSが46%それぞれ低減したと報告されました。

この研究が示すこと

この研究は、廃棄されることの多いドリアンの皮から、食品に使える抗酸化成分を効率よく取り出す条件を具体的な数値として示したものです。著者らは、設備負担の小さい浸漬抽出に超音波前処理を組み合わせることで、効率と実用性の両立を図ったと説明しています。

さらに、抽出物を実際にビスケットに加えて評価した点が特徴です。著者らの報告によれば、得られた抽出物は焼き菓子における天然の抗酸化剤として有効な候補であり、農業副産物を価値化しながら合成抗酸化剤への依存を減らす、持続可能な取り組みにつながると位置づけられています。

著者:Trần Ý Đoan Trang、Nguyen Thi Cham、Le Thi Hang、Dung Ha Thi、Do Thi Hanh(Department of Food Technology, Hanoi Industry of University, 298 Cau Dien, Bac Tu Liem, Hanoi, 11914, Vietnam)、Vu Phuong Lan、Pham Huong Quynh、Nguyen Thi Thu Hien、Nguyen Thi Thanh Mai、Nguyễn Thị Xuyến

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Trần Ý Đoan Trang, Nguyen Thi Cham, Le Thi Hang, et al. Optimization of ultrasound-pretreated extraction of bioactive compounds from durian peel for application as fat antioxidants in biscuit. Applied Food Research 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.afres.2026.102568. 原著ライセンス:CC BY.