お酒づくりの過程では、思いがけない副産物が生まれることがあります。中国の伝統的な蒸留酒「白酒(バイジウ)」の製造でも、蒸留の際に釜の底にたまる「底鍋水(bottom pot water、BPW)」という液体が出ます。これは有機物を豊富に含む一方で、そのまま廃棄するのは処理の負担になるという課題を抱えているそうです。今回紹介する研究では、この底鍋水を家畜のエサづくりに活用できないか、という視点から実験が行われました。
対象となったのは「キングギニアグラス(Pennisetum × sinese)」という牧草です。牧草は収穫したまま保存すると腐敗してしまうため、乳酸発酵を利用して保存性を高めた「サイレージ」という形に加工されることがあります。研究チームは、刈り取ったばかりのキングギニアグラスを、何も加えないグループ(CK)、乳酸菌の一種であるLentilactobacillus buchneriを添加したグループ(L)、そして底鍋水を新鮮重量の1%(B2)または2%(B4)加えたグループに分け、密閉した状態で60日間発酵させました。その後、でき上がったサイレージを使って、牛など反芻動物の胃(第一胃)の中での発酵をシャーレの中で再現する「in vitro(試験管内)第一胃発酵実験」も行われています。
研究でわかったこと
まず全体的な傾向として、今回の実験条件では発酵品質はどの処理区でも「良好とは言えない」水準だったと報告されています。ただしその中でも、底鍋水を加えたグループでは、腐敗の際に生じる望ましくない成分が抑えられ、微生物の構成が最適化される方向に働いたとされています。
具体的には、底鍋水を2%加えたB4処理区は、何も加えなかったCK処理区と比べて、プロピオン酸が71%、酪酸が39%、アンモニア態窒素が11%、それぞれ減少したと報告されています。これらはいずれも、サイレージの発酵がうまくいかなかった際に増えやすい成分とされ、その減少は発酵の質が保たれた一つの目安と考えられます。
また、16S rRNA遺伝子を用いた解析(微生物の種類を調べる手法)では、B4処理区においてLactobacillus(乳酸菌の代表的な仲間)の存在比率が、CKと比べて8〜18%増加したことが示されています。
さらに興味深いのは、このサイレージをその後in vitroで第一胃発酵させた実験の結果です。底鍋水を添加したサイレージでは、推定されるメタン(CH4)生成量が15〜35%減少したと報告されています。メタンは反芻動物の消化過程で発生する温室効果ガスとしても知られる物質です。特にB4処理区では、分解された乾物量あたりの推定メタン生成量が13.2%減少しており、しかもこの減少は、飼料が分解されて生じる揮発性脂肪酸(第一胃内での主要なエネルギー源とされる物質群)の総生産量に対する割合には影響を与えなかったとされています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、白酒製造という特定の産業から出る副産物を対象にした一つの実験研究であり、結論が広く確定したわけではありません。要旨によれば、今回の実験条件では発酵品質自体は全体として「poor(芳しくない)」と評価されており、底鍋水の添加が万能に発酵を改善したという話ではない点には注意が必要です。あくまで、腐敗指標の抑制やメタン生成量の推定値の低減といった特定の側面において、底鍋水添加の効果が観察されたという内容です。
また、メタン生成量や第一胃発酵の結果はin vitro、つまり実験室内でのシミュレーションによるものであり、実際に牛などの動物に給餌した場合にどうなるかについては、この要旨からは分かりません。
まとめ
今回紹介した研究では、白酒製造の副産物である底鍋水を牧草サイレージに添加することで、腐敗に伴う成分の減少や乳酸菌の増加、さらにはその後の第一胃発酵における推定メタン生成量の低減が観察されたと報告されています。研究チームは、こうした結果から、底鍋水が蒸留副産物を有効活用しつつ、反芻動物の飼料システムにおいて推定メタン生成量を抑える可能性のある添加剤となり得ることを示唆しています。産業副産物の新たな活用先を探るという意味でも、興味深い研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:白酒(バイジウ)底鍋水がキングギニアグラスサイレージの化学組成・微生物群集・in vitro第一胃発酵に及ぼす影響(インダストリアル・クロップス・アンド・プロダクツ・2026年08月)