私たちが日常的に食べているオレンジ。その果肉を絞ったあとに残る「皮」は、多くの場合廃棄物として扱われます。しかし近年、こうした農産業由来の副産物を有効活用し、新たな価値を生み出そうとする研究が世界各地で進められています。今回紹介するのは、そんなオレンジ果皮の抽出物を、微細藻類の培養に活用しようとする研究です。

研究の対象となったのは、Nannochloropsis salina(ナンノクロロプシス・サリナ)という微細藻類です。この藻類は、健康食品や医薬品、海洋由来医薬品の分野で注目される代謝産物を作り出す「持続可能な生物工場」として知られており、特に医薬関連分野で重要視されるオメガ3脂肪酸の一種、EPA(エイコサペンタエン酸)を含む生理活性脂質を作ることで知られています。

研究でわかったこと

研究チームは、柑橘副産物であるオレンジ果皮抽出物(OPE)を炭素源として用い、N. salinaを「混合栄養培養」という方法で育てました。混合栄養培養とは、光合成だけでなく、外部から与えられた有機物(この場合はOPE)も栄養source として利用しながら藻類を育てる培養方法です。研究では、OPEの添加濃度を変えて藻類の応答を調べたところ、濃度に応じて異なる生理的な変化が生じることが示されました。

具体的には、OPEを5%添加した条件で、総脂肪酸含量とEPA含量がもっとも高くなったと報告されています。総脂肪酸含量は無添加(対照群)の24.4%から30.6%へ、EPAは6.4%から9.8%へと増加したとされています。一方、OPEを10%添加した条件では、藻類が持つ色素(バイオマスの色)が保たれていたことも確認されました。

さらに濃度を上げていくと、抗酸化能が高まる傾向も見られました。総抗酸化能を示す指標は、対照群の4.6から、10%OPE添加条件では6.7(ビタミンC相当量、mg/g換算)まで上昇したと報告されています。ただし、もっとも高い濃度のOPEを添加した条件では、藻類が代謝的なストレス状態に陥り、バイオマス量が減少するとともに、脂質の組成にも変化が生じたとされています。つまり、OPEの効果は「多ければ多いほど良い」というわけではなく、濃度によって藻類への影響が大きく異なることが示唆されています。

また、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)という分析手法を用いた検討では、タンパク質に富む構造に関連するアミドI帯・アミドII帯の強度が増加するなど、代謝の再編成と整合する生化学的な変化が観察されたと報告されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、オレンジ果皮という農産業廃棄物を、微細藻類の有用成分生産に活用できる可能性を示した基礎研究の一つです。論文では、OPEがN. salinaの生化学的な質を調整しうる、コスト効率のよい添加物として位置づけられており、EPAや抗酸化能の増加は、海洋由来の生理活性化合物を生産するプラットフォームとしてのOPE添加培養の可能性を支持するものだと述べられています。

ただし、これはあくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。ここで報告されているのは実験室規模での培養条件下での結果であり、実際の産業応用や、ヒトの健康への効果を直接示すものではない点には注意が必要です。

まとめ

本研究は、廃棄されがちなオレンジの皮を微細藻類の培養に活用することで、EPAをはじめとする脂肪酸含量や抗酸化能を高められる可能性があることを示しました。同時に、添加濃度が高くなりすぎると藻類にストレスがかかり、バイオマスの減少や脂質組成の変化が生じることも明らかになっています。農産業副産物の新たな活用法として、また持続可能なバイオ生産の観点からも、今後の研究の展開が注目されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:オレンジ果皮由来炭素源がNannochloropsis salinaの混合栄養培養に与える影響(バイオテック・2026年08月)