著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。
掲載誌:American Journal of Potato Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜこの研究が行われたのか
ジャガイモは根が浅く、土の中へ広く伸びにくいため、乾燥に弱い作物とされています。ポーランドは中欧の主要なジャガイモ生産国ですが、雨が少ない年や降り方に偏りがある年には、全国平均の収量が大きく下がります。水不足は収量だけでなく、イモの形の乱れなど品質にも悪影響を与えます。一方で、同国では灌漑が行われているジャガイモ畑は約25%にとどまり、多くの畑は雨水だけに頼って栽培されています。
同じ畑の中でも、場所によって土の粒の粗さ(土性)や締まり具合、養分の量は異なります。そのため、同じ水分量を測っても、植物が実際に使える水の量は場所ごとに変わります。それにもかかわらず、多くの農家は畑全体に同じ量の肥料を施しています。研究チームによると、ジャガイモ畑で深さを変えて土壌水分センサーを設置し、土性の違いに沿って水分の変化を連続的に追った研究はこれまで限られていました。
そこで研究チームは、土壌に関するさまざまな性質と、上空から捉えた葉の茂り具合を組み合わせることで、ジャガイモの総収量、イモの乾物率(水分を除いた成分の割合)、イモ1個あたりの平均重量の違いを、どこまで説明できるかを調べました。あわせて、生育期間中の土壌水分の変化が、土性の異なる地点の収量にどう関わったかも検討しました。
どのように調べたのか
調査は2022年の5月から9月にかけて、ポーランド中部にある雨水のみで栽培される約8.9ヘクタールの商業規模のジャガイモ畑で行われました。畑はワルシャワ生命科学大学の研究農場に属し、主に砂壌土と壌質砂土で構成され、一部に砂や壌土の地点も含まれていました。
研究チームは畑の中に20か所の調査地点を設け、それぞれで土を採取して、粒の組成、締まり具合、土の硬さといった物理的な性質と、各種養分やpHなどの化学的な性質を分析しました。さらに、インターネットにつながる土壌水分センサー(IoTセンサー)を各地点の3つの深さに設置し、1時間ごとの測定値から、根の多くが分布する深さ40センチまでの土にどれだけ水が蓄えられているか(土壌貯水量)を算出しました。
作物側の情報としては、ドローンで撮影した画像から植生指数「NDVI」を求めました。NDVIは、植物の葉が光をどう反射するかをもとに、葉の茂り具合や生育の勢いを間接的に表す指標です。
これらのデータを使い、研究チームは4種類の分析モデルを作成しました。土の物理性・化学性、土壌水分、NDVIなど全情報から選ぶモデル(M1)、土の物理的性質のみのモデル(M2)、一般的な土壌肥沃度検査で得られる化学的性質のみのモデル(M3)、そしてNDVIとセンサーによる土壌水分だけを使い、土の採取を必要としないモデル(M4)です。各モデルがどの程度ジャガイモの特性を説明できるかに加え、データを1地点ずつ抜いて残りで予測を試す「交差検証」という方法で、未知の地点に対する予測の誤差も評価しました。
主な結果
全調査地点の平均収量は1ヘクタールあたり49.5トンでしたが、地点によって16.2トンから67.1トンまで大きな開きがありました。総収量と平均イモ重量はばらつきが大きかった一方、乾物率は地点間の差が小さいことが報告されています。
4つのモデルのうち、データの説明力が最も高かったのは全情報を用いたM1で、調整済み決定係数(モデルがデータのばらつきをどれだけ説明できるかを示す値)は0.832でした。土の物理的性質だけを用いたM2も0.781と、M1に近い説明力を保ちました。これに対し、土の化学的性質だけを用いたM3は0.268にとどまりました。著者らは、この畑では収量やイモ重量の違いを左右していたのは、肥沃度よりも、根の伸びや水の動きに関わる土の粒の組成や締まり具合といった物理的な条件だったと解釈しています。十分な量の堆肥や化学肥料が施されていたため、養分は生育を制限しなかった可能性が高いとしています。
土の性質に注目したM2の分析では、砂の割合が多いことや土の締まり具合が、総収量と平均イモ重量に対してマイナスに働いていたことが示されました。
NDVIと土壌水分だけを使ったM4は、説明力ではM1やM2を下回りました。しかし、交差検証による予測誤差では、総収量と平均イモ重量について4つのモデルの中で最も小さい値を示しました。M4では、6月と7月に測ったNDVIの値や、生育初期から葉が畝を覆うまでの時期の土壌貯水量が高いほど、ジャガイモのすべての特性にプラスに関係していました。
すべての評価指標を総合したモデルの順位は、M1、M2、M4、M3の順でした。また、土壌水分の観測では、40センチまでの土壌貯水量の平均は59.7ミリで、水分が十分な状態と、作物の生育が水不足で制限され始める水準の間に位置していたと報告されています。
この研究が示すこと
この研究では、調査した雨水栽培の畑において、同じ畑の中の土の物理的な違いが、化学的な肥沃度よりも収量やイモの大きさのばらつきに強く関わっていたことが示されました。さらに著者らは、この畑のデータでは、ドローンで捉えた葉の茂り具合とセンサーによる土壌水分の連続観測を組み合わせるだけでも、土を採取して分析する手間をかけたモデルに劣らない予測の確かさが得られたと報告しています。著者らはこの組み合わせを、土壌分析の単なる代用品ではなく、費用を抑えた補完的な予測手段になりうるものと位置づけています。
原著論文の著者・所属:Stanisław Marek Samborski(Department of Agronomy, Faculty of Bioeconomy and Food Systems, Warsaw University of Life Sciences, Warsaw, Poland; Warsaw University of Life Sciences)、Tomasz Gnatowski(Department of Environmental Development and Remote Sensing, Faculty of Civil Engineering, Environmental Engineering and Architecture, Warsaw University of Life Sciences, Warsaw, Poland; Warsaw University of Life Sciences)、Jan Szatyłowicz(Department of Environmental Development and Remote Sensing, Faculty of Civil Engineering, Environmental Engineering and Architecture, Warsaw University of Life Sciences, Warsaw, Poland; Warsaw University of Life Sciences)、Renata Leszczyńska(Department of Agronomy, Faculty of Bioeconomy and Food Systems, Warsaw University of Life Sciences, Warsaw, Poland; Warsaw University of Life Sciences)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Stanisław Marek Samborski, Tomasz Gnatowski, Jan Szatyłowicz, et al. How Do Soil Properties and Canopy Status Influence Potato Traits while Continuously Monitoring Soil Moisture with Iot-Based Sensors?. American Journal of Potato Research 2026-10-31. DOI: 10.1007/s12230-026-10080-8. 原著ライセンス:CC BY.